祝い酒 | カンタ印  元気印

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日々の出来事、思った事などをとりとめもなく...

仕事を終わらせ約束の場所へと急ぐ。


時計を見ると約束の時間をかなり過ぎてしまっている。


「急がなくていいよ。俺なら飲みながら待ってるから(-^□^-)」


雄輔君はそう言ってくれたけど、やっぱりそこは気になる。それに今日は彼の退院のお祝い。


雄輔君は足の大怪我で私の勤める病院に長期入院していた。


悪戯をしたり内緒で病院を抜け出したりする要注意患者。


毎日のように私や他のナースに怒られていたけれど、何故かみんなに可愛がられていた。


子供までいる私の事も「ちーちゃん♪」なんてちゃん付けで呼んで…。


どこか憎めないずっとずっと年下のやんちゃな弟…そんな風に思っていた。


だから「ちーちゃん、退院祝いしてよ」って言われた時も、普通ならしない約束をついしてしまっていた。




お店について店内に雄輔君を探す。


「ちーちゃん、こっちこっち」


え?…声のする方を見て目を疑ってしまった。


入院中はずっとスエット姿だった。退院の時もダボッとしたラフな格好をしていた。それが今日はスーツを着ている。


かっこいい…初めて見るスーツ姿に不覚にもときめいてしまっていた。


『どうしたのよ?スーツなんて着て(笑)』 動揺を隠しつつ、からかうように訊ねる。


「ん?俺、今日、成人式」


え…?あ…、そういえば確か…


病室のベッドのプレートに書かれていた年齢を思い出した。


『ごめんなさい。今日が成人式だって気がつかなかった。それなら他の日にすればよかった。どうしよう?』


仕事のシフトと子供を母に預ける都合からこの日を指定した私はプチパニックに陥っていた。


それに今思い出したけど、勤務中は女優になってナースを演じてるから平気だけど、夫を失ってから子育てと仕事に追われて男性に対する免疫が…。


「ちーちゃん、何か仕事の時と違くね?(笑)」 慌てふためく私に雄輔君が吹き出した。


「気にしなくていいよ。俺はちーちゃんに祝ってもらえるって喜んでたんだから」


そう言って笑った顔にドキッとする。


どうしよう?今まで雄輔君に男を感じた事なんてなかったのに…。


完全に彼を異性として意識し始めていた。




それからドキドキしながらも努めて平静を装い数時間、今は駅までの道を2人で歩いてる。


あと少しで雄輔君とは別れる。


この緊張状態から開放される事にホッとする反面、切なさも感じていた。


ずっとずっと年下の彼を私は間違いなく好きになり始めている。


でもその事を雄輔君に気づかれてはならない。


きっと彼は私の事を女としては見てはいないハズだから…。


恋心を悟られないようにわざとふざけあいながら歩く。


何もなければこのまま別れて、そして会う事ももうないはずだった。


『痛っ!』


「あ~!ちーちゃん、ちょっと動かないで」


腕を振り回した雄輔君の袖口のボタンが纏めていなかった私の髪に絡まってしまっていた。


「あれ?取れね~な」


そう言って悪戦苦闘する雄輔君の顔が至近距離にある。


どうしよう?顔が火照ってくるのが分かる。もうお酒のせいにして誤魔化すのは無理なくらい真っ赤になっているに違いない。


「やった!取れた!…?…ちーちゃん?」


目の前の目的から開放された雄輔君が私の様子に気づく。


きっと私の気持ちを知られてしまった。すぐにこの場から逃げ出したのに、足がすくんで動かない。


恥ずかしさに涙まで溢れてきた。


「そんな顔…するなって…」


初めて見せる表情(かお)で私に手をのばしてくる。頬に触れた指先に身体がビクンと反応した。


「ちくしょう…今日デートしてそれでスッパリ諦めようと思っていたのに…」


下を向いて大きなため息をついた雄輔君が、あらためて真っ直ぐに私を見つめ直してくる。


「ちーちゃん…ううん、ちーちゃんなんて呼んでたのは照れ隠し。ちさこさん…俺、あなたがずっと好きでした」




灯りを落とした部屋に2人の荒い息づかいが響く。


夫を失ってから誰も触れる事がなかった身体に雄輔君の大きな手と唇が這い火を灯す。


内側に灯った火は肌を熱くし湿らせていく。そして…身体の奥も…。


少しずつゆっくりと私の内を満たした彼が、今度は荒々しい動きで私を満たしていく。


「ちさこ…ちさこ…」


くり返し呼ぶ切ない声に、あっという間に…そして何度も昂ぶって…




窓辺のテーブルには2つのグラス。


成人式を迎えたあなたと再び女の幸せを取り戻した私の祝い酒♪


                                                おしまい♪