日が沈みぐっと冷え込んだ冬の海に他に人影はなかった。
近づいて持ってきたハーフケットを背中に掛けた。
『雄輔…』
振りむくようにおれを見た夏海の前に回ると、
ハーフケットで夏海の身体を包み込みそのままそっと抱きしめた。
「冷やしたら…駄目じゃねぇか。子供…できたんだろ?」
一瞬身を硬くした夏海が小さく頷いた。
「ごめん…おれ鈍くて…。だけど、何で言わね?おれって信用できない?そんなに頼りない?」
『…ぅ…違ぅ…そぅ…じゃない…』
小さな声で途切れ途切れに言いながら、夏海が必死に首を振っている。
おれは夏海が落ちつくまでその背中をさすり続けた。
海岸から海沿いの道へと続く階段に腰掛ける。
この階段の端が雄輔と初めて言葉を交わした場所…。
ポットのレモネードを飲みながら隣の雄輔に話した。
『雄輔の事は信じてるよ。頼りにもしてる…。
赤ちゃんが…出来たって判った時…喜ぶ雄輔の顔が真っ先に浮かんだ』
雄輔は私の言葉1つ1つに頷きながら黙って聞いている。
『私も…嬉しかった』
「…」
言葉にしない雄輔に代わって声に出した。
『じゃあ何で?…そうよね?』
もたれてた雄輔から離れると、空に浮かぶ月を見上げた。
『不安に…なったの。あの子の事…忘れてしまうんじゃないか?って。
雄輔といると安心できて…幸せで…。
あんなに辛かった剛士の事も、いつの間にか忘れてた。
あの子の事も、この子が生まれたら忘れてしまうんじゃないかって…。
馬鹿…よね?
嬉しいのに…幸せなのに…雄輔と同じ気持ちで喜べない…そう思ったら、言えなくなっちゃったの』
言葉を選びながら話す夏海の想いを聞いていた。
これからはおれが守る。
…そう思っていたけれど、やっぱりおれはまだまだガキみてぇだな(笑)
だけど…。
持っていたカップを夏海の手から取り上げると、夏海の前にしゃがみ込みその手を取った。
つづく