『え?』
「いや、全然喋んないからさ。家まで送るなんて迷惑だった?」
最初は駅までのつもりで車に乗ったが、近いからと部屋まで送ってくれる事になっていた。
『そんな事ないよ。 ちょっと考え事(笑)』 窓の外の暗い海を眺めながら答えた。
今別れたばかりの剛士と優紀の様子を思い出していた。
優紀が本当に幸せそうで輝いていた。 あの子、あんなに綺麗だったっけ?
優紀を優しく見つめる剛士の目にも優紀への愛しさが溢れていて…。
ズキン…。胸の奥がうずいた。
さっき剛士は送ってくれるって言ったけど、2人きりになるのが怖かった。
2人の結婚を知った時、泣いて、泣いて、とにかく泣いて、そして、『もう泣かない』って、決めた。
剛士も優紀も大好きだから、自分の気持ちを封印した。
だけど、苦しいな。 いつになったら平気になるのかな?
「麻紀さん、ちょっと寄り道していかね?」
そう言うと、雄輔君は少し広くなった道路の端に車を止めた。
「誰もいね~し、きっと気分が晴れると思うよ」 そう言って、砂浜に下りていく。
え…? 気分が晴れる…?
夏の終わりを告げるような涼しい風が吹いていた。
『姉の私が言うのも何だけど…優紀ってね、名前の通りの優しい子なの。
可愛くて素直だし、でも芯はしっかりしてて…』
歩きながら、何故か私は饒舌になっていた。
雄輔君のさっきの言葉に動揺していたのかもしれない。
『健気なあの子を見てるとね、あの笑顔の為だったら何でもしてあげようって気になるの』
「だから…」 それまで黙って私の話を聞いていた雄輔君が、初めて口を挟んだ。
「だから…好きな人も譲ったの?」
その言葉に思わず足が止まった。 少し歩いて雄輔君も立ち止まる。
「我慢してねぇで泣いたら?少しは楽になんぞ」 背中を向けたままの雄輔君が言った。
「剛士さんも優紀ちゃんも居ねぇんだから、遠慮なんて…必要ねぇぞ」
雄輔君の大きな背中にしがみついた。
『ちょっとだけ…こうしてて』
「背中だけでいいの?必要だったら抱きしめるけど?(笑)」
『ん?このままでいい。背中だけで(笑)』
「ちぇっ…(笑)」
その言い方が可笑しくて、泣きながら笑っていた。
ずっと胸の真ん中にあった重苦しさがスッと軽くなっていく気がした。
つづく