剛士さんと飲む約束をしていた。
時々何かを考え込んでるような様子の和美ちゃんも気晴らしになればと思い誘おうとしたのだが、
早番の仕事を終えると『ごめんなさい、今日は…。行きたいところがあるの』と急いで帰って行った。
どこに行ったんだろう?もしかして?彼のところ?
そんな思いが一瞬浮かんだが、それ以上は考えない事にした。
店に着き、店内を探した。
入りくんだ店内の1番奥の席に剛士さんの姿を見つけた。
どうやら1人ではないみたいだ。向かいに座った人と何やら話をしている。
「誰か知り合いでも誘ったのかな?」そんな軽い気持ちで近づいていった。
〈直樹は知ってんの?〉そう言う剛士さんの言葉が聞こえて、僕は思わず物陰に隠れてしまった。
なんだろう?イライラした口調で何か怒っている。僕、何かをしたのだろうか?
『違うの!』その声で一緒にいるのが和美ちゃんだと分かった。
あとはただ2人の話を聞いていた。
盗み聞きなんてするつもりはなかったけど、驚いて動くことも声をかける事もできずにいた。
和美ちゃんが妊娠しているって?
僕の子供で、1人で生むつもりだって?
和美ちゃんの僕への気持ちも初めて知った。
そんな風に大切に思ってくれていたなんて…。
すぐにでも和美ちゃんを抱きしめたいような何ともいえない気持ちになっていた。
『いつかはわかってくれるわ』
そう言った声が穏やかで、でも力強くて、思わず勝手に身体が動いていた。
僕に気づいた剛士さんと一瞬目が合う。
〈もう1度訊くけど…〉僕に気づかないフリをしたまま和美ちゃんに話かけた。
〈何の問題もね~よな?な?直樹?〉その声で和美ちゃんが振り向いた。
「和美ちゃん…本当なの?」
俯いたまま和美ちゃんが頷いた。
戸惑う和美ちゃんの姿に何かを言ってあげたいのに、安心させたいのに言葉が出てこない。
あ~、何て情けないんだ。
〈後は2人で話しろ~。俺は帰るわ〉
剛士さんは伝票を手に立ち上がった。
帰り際、僕の脇を通りながら小声で言った。
〈女は命がけで産むんだ。だったら男はせめて支えになってやんね~とな〉
そう言って肩を叩いて出て行った。
やっぱり敵わないや。この人には…。
「とりあえず僕達も出ようか?」
和美ちゃんの荷物を持つと彼女を支えて立ち上がらせた。
僕の部屋へと向かう。
黙ったまま俯いて、決して僕と視線を合わせようとしない和美ちゃんの手を握った。
「大丈夫だから…」そんな気持ちで握った手に力を込めた。
つづく