「いらしゃいませ~♪」 入り口のドアを開けると懐かしい声が出迎えてくれた。
「咲希・・・」 優しく笑う雄輔がいた。
『久しぶりね』 あれから2年近い月日が流れていた。
窓際の海の見える席に座った。
『ここは変わらないわね』
「つる兄の所にいるんだって?」 カウンターの中から雄輔が聞く。
つる兄夫妻に赤ちゃんが生まれて、その赤ちゃんに会うために私は帰ってきていた。
「つる兄、メロメロだろ?」
『うん。今から嫁に出さないって大騒ぎしている(笑)』
雄輔がマルコポーロを淹れてくれた。
『?・・・雄輔もマルコポーロ飲むの?』 一緒にマルコポーロを飲む雄輔に驚いた。
「咲希がいなくなって、残ってたの飲んでるうちにハマった(笑)」
「・・・これ飲むと何か元気になんのな?
咲希が頑張れって言ってくれてるみてぇな気がして、咲希がいてくれたらなって思うときはいつもこれ飲んでた」
店の中は2人だけだった。
雄輔は入り口に行くと『CLOSE』の札をかけてきた。
「今日はもう店じまいだ(笑) 少し車で走るか?」
『うん』
「今は何してるんだ?」 車を運転しながら雄輔が聞く。
『海辺のホテルで働いてる。ここと少し似てるかな?』
「やっぱり海の近くからは離れられねぇか?(笑)」
『ムリだね( ̄ー ̄;』 2人で笑った。
車は最後に2人で来た海岸に着いた。
「先に行ってて。何か買ってく」
私は海を眺めながら雄輔を待った。
『やっぱり何にも言わないね』
雄輔が1人に戻った事はつる兄から聞いていた。
詳しい事は分らないけど、大人しい彼女は知った人が誰もいないここでの生活に馴染めなかったらしい。
雄輔もお店が忙しく、充分に彼女の事を気遣ってやる事ができなかったようだ。
彼女が実家のある都内に帰る期間がだんだん長くなり、そのままになったらしかった。
つる兄は私の話もしたらしいけど、雄輔は「もう遅いですよ」とだけ答えたと言っていた。
つる兄は私にも言った。〈本当にそれでいいの?お前達、最初から愛し合ってただろ?〉って。
『だって、仕方ないじゃない・・・。もう・・遅い。・・・雄輔だってそう言ったんでしょ?』
つる兄の言葉を思い出して1人つぶやいていた。
飲み物を買った雄輔が遅れてやってくる。
「よかったよ、会えて」 2人並んで座りながら雄輔が言う。
「オレには会わずに帰っちゃうのかと思ったよ」
『ちょっと考えてた』 悪戯っぽく言うと雄輔が苦笑いした。
「そろそろ帰るか?」 波打ち際の私に少し離れたところから雄輔が声をかけた。
あたりは暗くなり始めていた。
『そうだね・・・』 雄輔の方を振り向こうとした。
・・・振り向こうとして、できなかった。涙があふれてくる。
「咲希・・・?」
雄輔は背中をむけたままの私に近づいてくると、後ろから私の顔を覗き込んだ。
泣いてる私を見て一瞬驚いた顔をした雄輔の腕が私を包み込んだ。
もうダメだった。
『雄・・・輔ぇ・・。一緒にいたい・・・。離・・れたくない・・。もぅ・・1人は・・いやぁ・・』
「咲希・・」 雄輔の腕の力が強くなる。
「ごめんな・・・ごめんな・・・」 涙声の雄輔が何度も謝る。
「もう、離さねぇから。ゼッテー1人にしねぇから」
1度目は笑って別れたのに、2度目はどうしても笑えなくて、愛しい雄輔の腕の中にいた。
私、もう雄輔の前で泣いてもいいんだね?ここにいてもいいんだね?
「ひとりだなんて言うなよ」 初めて雄輔が抱きしめてくれた時と同じ言葉が聞こえた気がした。
おしまい
【恋夢】素直になれたら…エピローグの後で→http://ameblo.jp/himewari0418/entry-10199671556.html