前回ご紹介したように、「単一遺伝子疾患」については検査による診断ができるようになってきました。犬種ごとに発症しやすい病気の傾向も、ある程度は分かっています。検査を行って遺伝子変異のない犬を繁殖に使えば、そうした遺伝性疾患をもった子犬が生まれることは避けることができます。

 

一方、「多因子疾患」の場合は原因が一つに限定されないので複雑です。

 

大型犬に多い関節の遺伝性疾患

ラブラドール・レトリーバー(ラブラドール)など大型犬に多い病気に、「股関節形成不全」があります。太ももの骨「大腿骨(だいたいこつ)」の頭である「大腿骨頭(だいたいこっとう)」や、それが収まる腰の骨「腸骨」のくぼみが正常に作られない病気です。脱臼やすくなったり、痛みで歩けなくなったりします。

 

これも多因子疾患に分類される遺伝性疾患です。前脚に発症する「肘関節形成不全」も同様で、特に盲導犬の場合は大きな問題になります。

「家族」にも降りかかる病気

前回ご紹介したように、トイプードルやチワワなどの小型犬種では「標準仕様」のようになっている膝蓋骨脱臼(パテラ)も遺伝性疾患です。平蔵の"ガラスの首"、「環軸椎不安定症」もそうです。

 

 

骨や関節のほかにも、血管の異常形成により肝臓で血液中の毒素が分解されない「門脈体循環シャント」や心臓の「僧帽弁閉鎖不全症」など内臓の疾患もあります。「甲状腺機能低下症」や「副腎皮質機能亢進症」など内分泌系の病気、「緑内障」や「白内障」など、遺伝によって引き起こされる多因子疾患はたくさんあります。

平蔵の首も遺伝性疾患

大切な家族の一員である愛犬が、こうした病気を発症しないとは限りません。平蔵の場合、肩がズレやすく痛みを生じる「肩関節不安定症」の診断の際に首の問題も見つかりました。それ以来4年間、気をつけながら(ヒヤヒヤしながら)生活をすることで、痛みや麻痺が出ることなく元気に過ごしています。

 

 

でも、何かの拍子に第1頚椎(けいつい)と第2けい椎が脱臼してしまうと、

 

運が悪ければそれっきり…

 

専門病院で整形外科の先生とじっくりお話ししました。少し前までは、ほとんど知られていなかった死因だそうです。過去に「突然死」とされたケースには、環軸椎不安定症によって脊髄を損傷したことによるものが少なからずあったと考えられているとのことです。

 

過去だけでなく、
現在もあるでしょう…

計画的な交配で解消が可能

日本で最も古く規模も大きい「日本盲導犬協会」や獣医科大学として有名な麻布大学などは、遺伝性疾患である股関節や肘関節の形成不全を減らす取り組みを行っています。

 

 

少し古いですが、「ラブラドール・レトリーバーの発育期整形外科疾患に関する遺伝的検討」(2005年)という報告では、「遺伝性疾患を減らしていくためには両親・祖父母の情報はもちろんのこと、兄弟や近親系の情報が必要である」と結んでいます。

 

逆に言えば、
そうした情報を基に、
計画的な交配
を進めれば
リスクを減らしていくことが可能です
それは、分かっているんです

 

パテラも環軸椎不安定症も、門脈体循環シャントも、多因子疾患に分類される遺伝性疾患だって、「秩序ある繁殖」を行えば、減らしていくことができるんです。

 

でもやらない…
”超大手企業"が

「売っている」トイプーの子犬200頭のうち、
145頭がパテラって…

 

 

ちょっと救われる話

以前、ダルメシアンを品種「改良(?)」した結果、尿酸を代謝できない体質にしてしまったことをご紹介しました。

 

 

 

人間が負わせた
負の体質です

 

でも現在では、種類の近いイングリッシュ・ポインターと交配させることで、毛色を保ちながらも尿酸の代謝ができるような「改良」を行っているブリーダーがいるそうです。

 

 

世界一のドッグショー「クラフツ」のスキャンダルでもわかるように、極端な外見を「創る」ことで、賞をとろうとする繁殖業者が多いのは悲しい事実です。

 

 

でも、ダルメシアンのこういう話を聞くと、

 

犬たちを
「命」としてレスペクト(尊重)し、
健康を大切にしている
ブリーダーもいる

 

ことが分かり、少し救われます。

犬たちからの「贈り物」

繰り返し書いてきましたが、犬たちは、癒しを与えてくれたり、仕事を手伝ってくれたり、私たち人間を本当に様々な形で助けてくれています。それも、犬という動物の多様化のお陰です。だから、「品種を創る」ということ自体が悪いとは思いません

 

ちっちゃくて、いくつになってもパピーっぽい行動の平蔵は本当に可愛いです(笑) 大げさでなく、毎日、毎時間、温かい気持ちをプレゼントしてくれます。以前、イギリスで発生しているフレンチ・ブルドッグの苦痛をご紹介しましたが、フレブルの独特の姿や動き、キャラもたまらないですよね。

 

 

 

介助犬に会う機会がありますが、ラブラドールのちょっとのんびり感のあるフレンドリーさもすごい魅力です。

 

犬を「命」として接している皆さんにはご理解いただけると思いますが、犬たちからは本当にたくさんの「贈り物」をもらっています。だからこそ、このコにも、あのコにも、健康で快適な一生を過ごさせてあげたいと思います。

 

 

パテラも環軸椎不安定症も、股関節形成不全も、フレブルの呼吸器系疾患も、あれもこれも…。

 

どれも、計画的な繁殖で
なくしていくことができる
病気なんです

 

こんな状況を踏まえ、思うことを10回目の次回でまとめたいと思います。簡単なことなのかなと思います。

 

最近、すごく共感できるフレーズを見つけました:

 

「イヌは、人間の"ベストフレンド"だと言います。でも、私たちは…?(イヌにとっての"ベストフレンド"ですか?)」(ノルウェー動物保護協会)

 

 

第9章のキーメッセージ:防げる遺伝性疾患は防ぎましょう。「ブリーディング」は命を生み出す行為。人間であれば、生命に対する最低限のレスペクト(敬意)を持ちましょう。(以下、ダークサイドより ^_^;) …  また、繁殖屋にとっては「生産」でしょう。品質に自信を持てない「商品」を何十万、時には100万円を超える金額で「売る」ことを恥ずかしいとは思いませんか