前回は、改正された「動物愛護法」 に伴って、来年6月から繁殖業者やペットショップなどの動物取扱業者に遵守義務が課せられる「飼養管理基準」(=俗にいう数値規制)についての議論を一部ご紹介しました。

 

 

 

1)その狙い2)ケージなど飼育スペースのサイズ;3)従業員1人当たりが世話をする犬・猫の上限数の3点です。今回は、数値規制における柱のもう1つ、繁殖について。

 

繁殖に関する法律の定め
愛護法第21条は「動物を繁殖の用に供することができる回数、繁殖の用に供することができる動物の選定その他の動物の繁殖の方法に関する事項」についても「できる限り具体的な」基準を定めるとしています☟

 

 

この現行基準を具体化するための環境省令案が、自然環境局から出されました。議論の中心となったのは、繁殖の回数・年齢上限と帝王切開についての2点でした。

 

回数と年齢の上限
犬・猫ともに、現状案では原則として女の子の交配は6歳を上限としています。ただし、満6歳に達した時の出産回数が少ない場合は7歳まで延長できるとされています。延長条件は、犬の場合出産回数が6回未満、猫の場合は10回未満です。

 

これについては、年齢だけでなく最初から回数の上限も設けるべきとの意見があります。また、初回発情時はからだの成長が不充分なケースもあり、繁殖は避けるべきとの声も多いようです。

 

 

帝王切開
繁殖業者による不適切な処置が行われている事例があるとのことで、帝王切開は獣医師が行うことを義務付けることが提案されました。また、担当した獣医師が公文書となる出生証明書を交付することも検討されています。獣医師法と合わせ、不正防止につなげる仕組みを作るとのことです。

 

また犬の場合、ほとんどの出産で帝王切開が必要な犬種が存在します。そうした犬種に行われる「計画的な帝王切開」の場合には、回数の上限を設定すべきとの意見もあります。

 

話がそれますが、例えばブルドッグなどですね。皆さんご存知だと思いますが、これは意図的なブリーディングの結果です。常々感じるのですが、そもそもこうした犬種を「造り出した」ことが、動物の福祉に大きく反する人間の罪じゃないのかな…。

 

 

今後の議論:年齢上限と回数
いずれにしても、繁殖に関する数値規制は今後、女の子の繁殖回数と帝王切開が議論の中心となると思います。☟にもう少し詳細がまとまっていますので、ご興味があれば見てみて下さい。

 

男の子&遺伝疾患は検討されず
この繁殖に関する数値規制案、男の子に関しては提案に含まれておらず、議論も行われませんでした。現行基準に明記されている「遺伝性疾患等の問題」についても同様です。

 

男の子酷使の可能性
繁殖(妊娠・出産・子育て)関しては、肉体面だけでなく精神的にも遥かに負担が大きい女の子の保護を優先するのは自然なことです。でも、男の子に関して一切の制限が議論すらされないのは、疑問があります。

 

今のままでは、男の子は一生を繁殖施設で過ごすケースもあると思います。また、うちの「平蔵」に「異母きょうだい」がすご~く多い様に、繁殖屋にとって好都合な(≒高く売れる)子犬が生れる可能性の高い男の子は酷使される傾向があると思います。

 

 

(「PEDI」から通知が来るたびに、「今度は異母きょうだい」じゃありませんように…って)

 

 

遺伝的疾患に関する議論の不在
現行の基準でも「遺伝性疾患等の問題を生じさせるおそれのある組み合わせによって繁殖をさせない」となっています。でも、この点に関してはまったく議論されず、メディアの指摘も見当たりません。愛護家のみなさんも全く気にされていない様です。

 

「突出して犬の遺伝性疾患が多い国」ニッポン
埼玉県獣医師会のウェブサイトには、「日本は世界でも突出して犬の遺伝性疾患が多い国」とあります。「その原因としては、映画やテレビなどのマスメディアの影響を受けて特定の犬種に人気が集中し、その需要によって無秩序な生産(繁殖)が横行していることが指摘されています」。無秩序な生産(繁殖)によって、病気で苦しむ動物たちを生み出していることを専門家も指摘しています。

 

無秩序な生産(繁殖)。もう一回、無秩序な生産、です

 

死に至る遺伝性疾患
例えば代表的な日本犬で、登録数もトイプーやチワワに次いで多い柴犬。昨年話題になった「でこぼこのブログ~難病と闘う柴犬さくら」さんで致死性の遺伝病である「GM1-ガングリオシドーシス」を知りました。ある酵素が体内で作られず、本来は分解される物質が脳や臓器にたまって神経症状や運動障害を起こし、1歳前後で死に至る病気だそうです。

 

 

その他の遺伝性疾患:関節
トイプードルやチワワでは、関節疾患がある種「デフォルト」(標準)のようにもなっていますよね。いわゆる「膝のお皿」がずれ、悪化すると歩行困難や痛みを生じる「膝蓋骨脱臼」(俗に言う「パテラ」)も遺伝的疾患です。平蔵が抱えている首の「爆弾」、「環軸椎不安定症」も同様です。

 

 

 

その他、致死性の遺伝性疾患
このほか、コーギーやシェパードに頻発する「変性性脊髄症」や、ボ―ダーコリーに神経障害を引き起こす病気(「神経セロイドリポフスチン症」)なども、治療法のない致死性の遺伝病です。

 

 

少しずつ進むPRA検査
トイプーやチワワの飼い主さんはご存知だと思いますが、失明につながる「進行性網膜萎縮症(PRA)」はヨーキー、ダックス、ゴールデン&ラブラドール・レトリーバーなど非常に多くの犬種がリスク要因を持っているそうです。ただ、この病気に関しては、遺伝子検査結果を表示するペットショップなども見られるようになっています。徐々に意識の高まりは感じられますが、愛護法においても議論の必要性を強く感じます。

 

 

「防げるのに防がない」遺伝性疾患
こうした遺伝病は、多くが健康診断や遺伝子検査などでリスクを発見できます。(もちろん、すべてではありません…。)そのような検査と、交配の組み合わせに注意すれば、大切な家族が病気で苦しんだり亡くなったりすることを防ぐことは可能なんです。でも、

残念ながら、ごく一部の…一部の…いや、多くの?^_^; まぁ、いずれにしても繁殖屋にとっては、(少なくとも私の知っているトコロは)
飼い主(客)はお財布
・動物の幸せ<<<<<<<<<<<<<お金
なんでしょね…。

承知で繁殖を続けてる業者、いますから

 

劣悪な飼育環境で繁殖を繰り返す犬や猫と比較すると、注目されにくい分野ではあるとは思います。でも、今後は議論が必要な分野じゃないでしょうか?

 

今後への期待
社会問題にもなっている劣悪な環境下での飼育を解決することを、まずは中心に改正愛護法に伴う数値規制の検討が進んでいるのは現実的な取り組みだと思います。環境省令は、少しずつではありますが、動物の福祉向上に向かっている印象を受けます。

 

 

ケージサイズ、従業員数や繁殖・帝王切開の回数については、科学的意見も踏まえた上で、ペットはもちろん、飼い主、愛護団体そしてペット業界といったすべてのステークホルダーが納得できる枠組みとなることを期待したいと思います。

 

 

そして同時に、「積み残し」があることは、飼い主も含め関係するすべての人間が意識すべきことじゃないかなと思う今日この頃です。☝この子たちに恥ずかしくないように。