・・・前回から続く

 

3-7)説明資料の概要6:身動き取れないスペース

この数値規制について、話を聞いたり、読んだり、SNS等で見たりすることはありました。大変恥ずかしいことですが、「自分以外のたくさんの人が頑張っているから」と正直なトコロ深く考えてはいませんでした。

 

私にとっては、愛犬の遺伝的疾患と、それを知りながら親犬の交配を続ける繁殖業者の問題の方が大きく…。しかし、「脱力」後、気を取り直してこれらの資料だけでなく本や雑誌を読んだり、色々な情報を集めたりしていくうちに、いかに間違ったことが行われている、行われようとしているかを知るに至りました。

 

まだまだ足りませんが。

 

この「犬猫適正飼養推進協議会」なる集団が具体的にどんな提案をしているのか、改めて正確に調べてみました。ご存知の方が多いことですが、「飼養施設の数値指標(試案)」として「第53回中央環境審議会動物愛護部」(11月25日)に提案されたのは以下の内容です:

 

改正動物愛護法第21条で言及されている「環境省令」で規定するために検討されている、「飼育スペースに関する数値規制検討のポイント:『寝床』と『生活エリア』から構成される」

 

寝床:

  • 細目第3条の定性的基準:犬が立つ、向きを変える、横たわる、伸びをするなどの自然な姿ができること
  • 同協議会が提示する数値指標高さ - 体高 x 1.3倍、幅(短辺)- 体高 x 1.1倍

生活エリア(運動場)

  • 細目第3条の定性的基準:犬が歩く、向きをかえる、壁にぶれずに尾をふる、遊ぶ、後ろ足で立つ、他の犬にふれずに横たわる、排便・排泄をしても体が汚れないこと
  • 同協議会が提示する数値指標:設置せず

 

一日24時間、一年365日、身動きすら取れないスペースでの生活が提案されています。それを正当化する目的なのか、次のスライドには「IATA(国際航空輸送協会:120ヵ国、265社)」(原文ママ)のタイトルで、グラフが提示されています。縦軸が「バリケンの面積(m2)」、横軸が「犬の体高(cm)」とあります。このグラフの見方が分からないのですが、例えば体高が20cmの犬の場合、バリケン(クレート)の面積はおよそ0.2m2と書かれています…。

 

数字にはめっぽう弱いので、間違いがあればご指摘頂きたいのですが、0.2m2というと、20cm2でしょうか?もしそうだとすると、縦横を最大に取ったとしても5センチ×4センチ…。計ってみると、うちの愛犬(体重2.1kg)でも、全長で約35センチあります。分解でもしない限り5センチには収まりません。

 

ANA Cargoのウェブサイトで確認したところ、「IATA動物輸送規則8章CONTAINER REQUIREMENT 1」では、以下の規定がありました(図参照)

 

  • 長さ:犬の全長+脇下から地面までの1/2
  • 幅:犬の横幅×2
  • 高さ:地面から頭のてっぺんまで

 

例えば、日本と欧州や米・東海岸などへは長時間のフライトになりますが、それでも10時間ほど。24時間 x 365日に「比べれば」、とても短い時間です。その限られた時間内でも、ある程度の余裕を持つことを「Require = 要求」しています。

 

確かに「Eva」の資料でご紹介した写真のように、本当に「すし詰め」で伏せをするスペースすら与えられない状態の地獄で生きている命もたくさんある現実があります。

 

まずは最低限であっても個々のスペースを確保する、という最初の一歩として、「物理的な比較としては」前進といえなくはないかも知れません。少なくとも、「1マスに60匹ほど」の状況は無くせるでしょう。

 

しかし、そもそもあってはならない現状を基準に提案すること自体にズレを感じます。ここでは、現実を「できる限り」(できない部分も多々ありますが…)客観的にご紹介することにしていますので、これ以上の意見はあえて述べませんが、みなさんはどう思いますか?

 

なお、同協議会の提案ではクレートのサイズを体積や3辺の長さでなく面積や2辺の長さで規定しているところに大きな疑問があります。これまで資料に散見された単純な瑕疵私は稚拙に感じる論理展開はともかく、このあたりに、この資料だけでなく、これを環境省に公式な書類として提出した同協議会の質が現れているのかも知れませんが、どうでしょうか?

 

3-8) 説明資料の概要7:本当の結論は「(劣悪)繁殖業者保護法」を制定せよ?

結局のところ、同資料のまとめとして最後(の方)にあるポイントが同協議会のメッセージを集約していると感じました。私なりに解釈を加えながらも、できるだけ客観的にまとめると:

 

「日本では年間2頭の子犬を売るだけ事業者登録が義務付けられる。でも、業者はそんな手続きは面倒だと言っている。

 

ケージサイズをドイツのレベルまで広げるのは理想論で、そんなことに対応できる施設は『ほぼゼロ』。新たな用地確保も、農地法のせいで困難。

 

もし、1頭あたりの面積を現在よりも拡大すれば、飼育できる頭数は十分の一以下になる。

 

よって5年ごとの登録更新で業者は廃業していき、20年後には犬が日本からいなくなる

 

なかなかオリジナリティあふれる「物語」だと感じるのは私だけでしょうか?繰り返しになりますが、ここでは、今、何が起こっているのかを私なりにできるだけ客観的にまとめることを目的としていますので、一旦ここで止めますが、愛犬家のみなさんはどう感じますか?

 

この協議会は「犬猫が快適に暮らせる社会の実現を目指す」としています。が、資料に多いようにここも書き間違いで、目的語は「犬猫が」ではなく、「申請書すら書けないレベルの繁殖業者が」であれば理解できそうです。

 

犬猫適正飼養推進協議会に本音を問う

最後に、パッと思いついただけではありますが、「犬猫が快適に暮らせる社会の実現を目指す」らしい同協議会に対しての質問という形で…:

 

  1.  「非登録の繁殖は困難」(原文ママ)とありますが、非登録の理由は「面倒だから」との説明がありました。第一種動物取扱業者の自主管理を推進するための組織として、これに対処するのはあなた方の責務ではないのか
     
  2. 「ドイツ基準の適応に国内で対応できる施設は、ほぼゼロ」(原文ママ)な理由の具体的な説明・理由が聞きたい
     
  3. ドイツ基準が適応できない前提で「高さ = 体高 x 1.3倍、幅(短辺) = 体高 x 1.1倍;生活エリア設置せず」という極端な提案に至った理由を具体的に説明して欲しい
     
  4. 新たな用地確保が困難とのことだが、あなた方が常に前提としているのは「小規模」な繁殖業者。また、規模を問わず、繁殖業者が都会の街中で運営されている例を承知していない。それを考えると、飼育空間の「ある程度の」拡大を行うスペース確保(庭や居間などでも?)に大きな障害があるとは思えないが、いかがか?「農地法」や「農業委員会」を障害として指摘している様なので、同法および同法管轄の農林水産省の抱える問題点についても教えて欲しい
  5. また、超小型犬種が多いという報告があった。そうした日本独自の特性を考えると、さらにスペースの拡大は比較的障害が少ないと思うがいかがか?「1頭あたりの面積拡大 => 同一面積で飼育できる頭数は十分の一以下に」(原文ママ)とある。現在の1頭当たりの平均面積はどの位か?
  6. そもそもだが、「犬猫適正飼養推進協議会」は何のために作られ、活動する組織か?「犬猫が快適に暮らせる社会の実現」とあるが、目的語が「犬猫」ではない印象が強いのは私の誤解か?

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参照情報 

本来、これらの資料は公開のはずで、環境省のウェブサイトからもダウンロードできますが、「犬猫適正飼養推進協議会(資料の複写厳禁)」となっているため、以下にリタイプ(すべて原文ママ)

 

a) 「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会(第5回)関係者ヒアリング」資料より

参照資料1)

「ケージの大きさに科学的根拠はない」(スライド8)

1. ヨーロッパはホビーブリーダー(年10頭以下の繁殖:87%)が中心:経済的非合理性:趣味(居間や簡単な犬舎飼育)

2. 日本は商業ブリーダー(年10頭以上の繁殖:93%)が中心:経済的合理性:(高圧水洗浄機、排水、浄化槽、体重の係数管理、犬舎内の炭酸ガスモニター、犬舎の陽圧化、室温・湿度管理、空気除菌システム、業務用加熱滅菌皿洗い機)

3. ヨーロッパは単犬種 vs.日本は多犬種で繁殖している

4. 日本は少数の超小型犬種に繁殖が集中している(4犬種で49%)

5. 犬種による運動量違い:ニュージーランドハンターウェイ vs. ラブラドール

6. 社会通念は資料から読み取れない

 

参照資料2)

「結論」(スライド9)

  • ヨーロッパやアメリカの基準は必ずしも参考にならない
  • 犬が最も多く飼育され、商業ブリーダーが多く存在するのはアメリカだが、今回の方針決定資料にほとんど含まれていない
  • 一人あたりの管理頭数の決定要因(多犬種繁殖、犬種による最適温度、犬種運動量の違い、排泄物の量、飼育施設の広さ:サイズ(2kg vs. 50kg、合理化)(ドイツ: 10頭、イギリス: 20頭、アメリカ:オレゴン、バージニア、ワシントン州50頭、ルイジアナ州75頭、他の州は規制なし)
  • 犬種間の個体差や多犬種繁殖が平準化を難しくする
  • 動物を基準とした測定指標

 

b) 「第53回中央環境審議会動物愛護部会」資料

参照資料3)

「犬の供給体制の違いと基準の適応」(スライド14)

背景

・ 欧州=兼業ブリーダーが主体「ホビーブリーダー数 87%(繁殖頭数: 75%)、商業数13%(繁殖頭数20頭以上: 7%)」

・ 日本=年間 2 頭・ 2 回の取引 => 事業者登録(非登録の繁殖は困難)

 

飼育設備(ケージ等)の広さ

国内の状況

・ ドイツ基準を適用 => 国内で対応できる施設は、ほぼゼロ

・ 規模の拡大 => 新たな用地確保は困難(農地法・農業委員会)

 

将来予測(シナリオ)

・ 1 頭あたりの面積拡大  同一面積で飼育できる頭数は十分の一以下に

・ 5 年ごとの登録更新で廃業

・ 事業からホビーに回帰

(参考)ドイツの商業登録要件:「保有するメス3 頭」又は「年間 3 胎」を超える場合

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ここまで読んで頂いた方。お付き合いありがとうございました。最後に恒例の「ダークサイド」から本音を ^_^;

何をしても、どんなビジネスをしても、他人がとやかく言うことじゃありません。世の中、きれいごとだけじゃなし。みんな、好きなように生きてます。他人には迷惑をかけない範囲で。

でも、超巨大な企業の責任あるポジションにいる「あなた達」、それから、紙一枚の発行に妙なお金を徴収する「団体さん」、さらに、命を預かっている「せんせい方」、市場規模の成長にリスクを感じたら、その環境下で利益率の向上を図るのがまともなビジネスの取り組みです。もちろん規模の保持も並行して重要ですが、「いのち」の犠牲を前提にするのは悪です!

基本的に裕福なあなた達が、わずかなお金の為にぞんざいに扱っているのは、「いのち」です。 文化的生活を営むことが充分可能な社会に暮らし、「心」をもった生き物、さらに「専門家」として、恥ずかしさは…感じませんか…ね?

以上