徒然草 第百四十段

 

 死んだ後に財産を残すことは、賢い人はしないものです。くだらない物を貯え置くことは見苦しいし、それが価値ある物であれば、それに執着したように見えて情けない事です。

 

 遺産が多いというのは、なお更のこと失望すべきことです。「私がもらい受けます」などと言う人がいたりして、没後に財産をめぐり争うのもみっともない事です。

 

 死後に誰かに譲ろうと思っているものがあるならば、生きているうち譲ると良いのです。日常的に使うものがあってもいいが、それ以外は何も持たずにいた方が良いのです。

 

 

「仙人みたいな生活が良いのかしらね。」

 

 

偶成 

幾歷辛酸志始堅

丈夫玉碎恥甎全

我家遺事人知否

不爲兒孫買美田

 

 

 西郷隆盛さんの「偶成」という漢詩です。

 

 

「『偶成』という漢詩はたくさんあるの?」 ヒメ

「偶然詠んだものらしいから、たくさんあるかもしれないね。」 父

 

 

 その中で、「我が家の家訓を知っているだろうか、ひとつ教えよう。『子孫のためには肥沃な田畑を買って残すようなことはするな。』というものだ。」と言っています。

 

 西郷隆盛さんは兼好さんの書いた徒然草を読んだのでしょうか。

 

 

「どうなんでしょうね。西郷さんに聞いてみないとわからないわね。」

 

 

 テレビを見ていたら、相続登記についての番組をやっていました。2024年4月1日より相続登記の申請義務化が施行についてでした。それに伴い、遺産の分与についても取り扱っていました。その例が、8,000万円の遺産があった場合です。8,000万円の遺産? 

 

 そのような遺産がある家が一般的なのと思った私でした。

 

 

 私の家は? 我が家には、子供たちに肥沃な田畑を買って残すような財力がないのが現実でした。

 

 

「私たちのカリカリを買えるだけのお金はあるんでしょ。」

 

 

 
「そのくらいならあります。貴方たち二人が、我が家の宝ですからね。」
  - 父の一言 -