石屋になると決めた頃の話

この話は主に1990年代頃からの私のノンフィクションストーリーで現在の時事録ではございません。

連載になってしまいましたがお付き合いよろしくお願いします🙇🏻‍♂️

 

甲府から帰宅し取り憑かれたように何個もブリリアントカットを作った。

自分が納得出来る作品は1個もなく作業台には日に日にボツになったファセットカットが広がる。

トライ&エラー   ダメでも何度でもやる

毎日15時間以上石を削り、磨く事は苦にならないが進むより戻る事がキツい。

1〜10までの工程でようやく8までやったのに少しのミスでまた3に戻りやり直したり。

旅に出て100kmの距離を走って来たのに忘れ物を取りに100Kmを戻るように何度も出発しては戻るを繰り返した。

 

ついにはストレスで胃をやられ病院に通う。

少しでも体調が良くなるとまたファセットカットを何度も何度も。

そしてまた胃をやられた。

 

少し気分転換をしろとドクターに言われ群馬の猿ヶ京の温泉へ湯治に行き、その後 以前仕事で訪れた事のある新潟県の糸魚川市に向かった。

全くあてもなく何も考えず疲れたらビジネスホテルに泊まろう。

空いてなきゃ車中泊でもいい。

 

新潟県上越市から海岸沿いの国道を富山方面に向い糸魚川市に入りしばらく走る。

「ヒスイ海岸」と大きく書かれた看板がある

↑当時の旧看板  

 現在はキャラクターが書かれ可愛くなってる

 

以前仕事で来た時はヒスイってあの緑色の? 宝石の翡翠? 拾えるの?

ヒスイには興味もないくせに単なる野次馬で海岸を歩いた記憶がある。

 

横浜で育った私は海といえば防波堤、ふ頭、工業地帯、砂浜 当たり前のように思い浮かべる。

糸魚川の海岸はまるで河原の石が海岸一面に広がり転がっているようだった。

足元には見た事のない石ころが沢山ある

石ころが波の力に押し出され「ゴロゴロ」

引き戻され「カラカラカラ」と規則正しいリズムを刻んでいる。

白い石、赤い石、青い石、緑の石、黒い石

大きい石、小さい石、割れた石

幼い子供のリトミック教材に事欠かないな。

 

地球が深呼吸する度に石ころ達は転がり回り攪拌されているようだった。

ヒスイって確か緑色だったかな?どんな石なのかも知らず緑色の石ばかり拾っては投げてを繰り返した。

そもそも緑色で綺麗な石を拾ってもそれがヒスイなのかも分からないし辺りに石拾いしている人の姿もない。

そんなに簡単に宝石が拾えたらゴールドラッシュで賑わうはずだが拾えないから人がいないのだろう。

(当時はヒスイ拾いしている人はほぼ見かけることはなかった)

 

精霊の誘いで潮風に酔わされたのか車に戻ると強烈な睡魔に襲われた。

地球は石を作り、石を転がし演奏する。

車内に反響するそれはセイレーンの美声さながら石の調べに堕とされた。

 

起きると凄い夕陽

太平洋から日本海に来たことを実感した。

見る見る海岸線に飲み込まれて行く夕陽。

夕陽ってこんなに速く沈むのかと驚いた。

地球の自転を目視しているってことか。

晴れていれば24時間後にまた観れる。

寝汗と潮風で身体中ベタベタだ。

シャワーを浴びたい

糸魚川駅周辺のビジネスホテルに電話したが満室。

予約してないし当然か。

ダメもとで以前仕事で泊まった事のある少し郊外のビジネスホテルに電話したらなんとokだった。

その辺で飯を食ってチェックインする。

アットホームな感じのビジネスホテルで夜勤のオッチャンが今日は清掃で大浴場のお湯落としてるからと部屋のユニットバスにお湯張ってこの石入れてみてくださいな。 「身体が温まりますよ」  と2kgほどありそうな茶色く気持ち悪い模様の天然石を渡された。

 

風呂にこんな得体の知れない石なんか入れて大丈夫か? 肌にブツブツとか出来ないだろーな?

よく分からないが言われるがまま風呂に入れた。

言われるがまま とても素直な私…

 

なんかお湯が柔らかくなったような

風呂上がりポカポカ

これは湯冷めしにくいかもしれない

不思議な体験だ。

そう、その天然石こそ、その後 私のターニングポイントとなった姫川薬石だった。

 

次回に続く