目の前に突然 壁が立ち塞がる

肉眼で見える物理的な壁ならばあの手この手、努力と人知を尽くし頑張れば越える事が出来るかもしれない

でもこの壁は行く手を阻む

自分にしか見えない幻想の壁

数年前、いつもの日課ルーティンを故意に停止させ、その日は壊れて動かないロボットの様にじっとしていた

陽が落ちても照明も点けない暗い工房で息を殺し動く事を自ら拒む

何もしたくない

やがて空の色が紫から白みはじめるのを合図に動き出す

糸の切れた凧

何処に行こうが風の向くまま

駅に向かい朝イチの東京行きの新幹線に乗った

行くあてなどない

取り敢えず上野で降りて周辺の博物館を行けるだけ巡る

貪るよう見てまわった

ふと気づいた
私は展示物の素晴らしさに感動はしていない

目の前の作品に目を凝らしこれを創った作者の苦悩を探しているのだ

作品が囁く

「おまえに何がわかるんだ?」

自分が小さく、そして恥ずかしかった

ちっ! 悔しいから帰るか…

途中、小さな間口の名もなきアクセサリー屋にふらり立ち寄る

何でもよい
自分が気になる小物を掴み購入した
そこそこ高価で驚いた

長い間置かれたまま売れないデッドストックのように経年の風合を醸し出している
ロケットのように開く
開けたらシルバーが硫化して黒くなっていた

このペンダントトップはしばらく放置したまま我が工房でデッドストックの続きを過ごすことに…

そして私の前にまた壁が立ち塞がる

今は壁を乗り越えようとせず遠回りを選ぶようになった

遠回りをしながら過去を巡る

思い出したように数年ぶり出した

少し綺麗にするか
重曹とアルミの定番クリーニング

ピカピカにするよりビンテージ感を残したい

私は石屋

このままで済むはずも無い

こいつにはミステリアスなブルーがいい

iimori stone  IL-ブルースピネル(人造石)






自分だけの宝物


その中に夢があるのか希望があるのか

チラリと見える甘美に誘われて開けたくなる

人生もパンドラの箱のように開けてみないと分からない