9月の地震のときに、落ちて壊れた時計が何個かありました。
そのうちのひとつで、見た目は大丈夫だけど、秒針などがバラバラになった時計がありました。

とても気に入っていた時計なので、なんとか息を吹き返しやしないかと、それはそれはいろんな時計屋さんに持っていきましたが、
「ウチが扱っているメーカーじゃないから」
と門前払いされ続けていました。

昔、子供の時、動かなくなった時計を持って行くと時計屋さんのおじさんが、片目だけにパコッとはめる顕微鏡の先だけみたいなルーペで見ながら
「どれどれ。あー、これは直るかなぁ」
とか言いながらも、結局は直してくれちゃう頼もしい時計屋さんが、街に一軒はあったものでした。

もっと腕の立つ時計屋さんは、
「もうこの部品は売ってないよ」
と私を絶望させながらも、自分でその部品を手作りしちゃって、1週間後にはその時計が『何ごともなかったかのように』秒針がチクチク動いて手元に戻ってきたことがありました。

昨今、そんな達人のお店の話も聞かなくなりました。

しかし、今回、震災に遭ったこの時計はあきらめきれませんでした。

先日、ダメもとでホーマックに修理を依頼してみたら
「ウチでは出来ませんが、近くの生協の時計屋さんならできるかも」
とのことでした。

ダメでも何でも聞いてみるものです!
ちょっと光が見えてきました!

さっそく時計を持って行くと、店の奥から白髪まじりで、ちょっとおなかあたりに貫禄のあるおじさんが出てきました。

そしておもむろに、あのパコッてはめるルーペを目にあてがったではありませんか!

「できる!このおじさんはできる人だ!!」
直感的にそう確信しました。

「3日後に取りに来てー。」
できるとも、できないとも言わないおじさん。
あえて聞かない自分。

そして運命の3日後。

期待に打ち震える自分とは対照的に、
「あ〜、これねーー。」
となんともゆる〜い口調のおじさん。

手渡された、その針がバラバラだった時計は、昔見た感動の瞬間と全く同じく『何ごともなかったかのように』チクチク動いているではありませんか!!

「よかったーー!」
思わず心の底から出た私の言葉に、そのおじさんは、
「えへへっ。」
と短く笑っていました。

物への執着ではなく、愛着。
その愛着に応えてくれる技術。

これからはAIの時代。
時計のあり方も、物の持ち方も変わってくるかもしれません。
物を修理して使うことも、直しちゃうおじさんがいたことも、
「そんなこともあったよね。」
と話す時代になっていくのかな。