高齢になると涙もろくなる。


しかし、認知症と重なって出るときは


ちょっと手間がかかる。

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朝、いつものように


「おはよう」 と おばさまの部屋をのぞくと、



「ちぃちゃ~ん」


ボロボロ涙を流して、駆け寄ってくる。


抱きつかんばかりに・・・。



朝っぱらからなので驚いた。


氷のような手で、私の両手首をつかみ

大粒の涙をこぼしている。



普通なら、「どうしたの?」とやさしく声をかけ、

背中をさすってあげるのだろう。


でも、私は驚きながらも、冷静で。

起きていることの意味がわからず呆然と立ち尽くしていた。



どうしても、背中をさすることはできない。

私たちに距離があるのだ。ごめん。


そうしている間も、おばさまに掴まれた手首は、

おばさまの体温でどんどん冷やされていく。



「どうしたの?」 と聞いてみる。



「お母さんが・・・」



「お母さんが? 何かあったの?」



「出て行ったぁ」



・・・・?????



何を言っているのだ?


母は仕事に出かけたのだ。

それの何が哀しい??



「帰ってきてくれはるか?」



何を言っているのかさっぱりわからない。

また、認知症がでている。



「仕事にいったんだよ」


「お母さんは、毎日いってるやん」



「そうか」といって、

私をベッドに座れと誘導する。



おばさまが掴んだ私の手首は完全に冷え切り、

体が一気に冷えて、肩が凝ってきた。頭痛もおきてきた。



「あんたらが、よくしてくれて、すまないと思うてるのや」



「・・・・・・・・・・」


「何か、困ったこととか。嫌なことでもあるの?」




「何もない。ないけど・・・」



「ないけど、何?」



「ないねんけど」



「あるんでしょ。教えて」

いらいらしてきた



・・・・・・・・沈黙。



「お母さんもあんたも出て行ったら、どうしようと思うて」



???



おそらく、先日のショートステイのことだ。

おばさまは、勘違いして、「ショートステイ=介護施設に入る」 と思っている。


私たちが、おばさまを介護施設に入れようとしているのだと

思い込んでいて、それが恐怖心となって、


認知とごっちゃになって、不安になっている。



「・・・・・」



ため息をつきながら、

「おばさまの言っている意味がわからないよ」


「お母さんは、仕事。仕事が終わったら帰ってくるよ」

「誰もどこもいかない」


「おばさま。朝ごはんまだでしょ?」


「食べよ」




そういって、食卓へ移動すると



さっきの涙はどこへやら?



おいしそうに、お味噌汁を飲んでいるではないか!!




私に冷えだけ残して・・・。