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if…〜scene3〜
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「サプライズゲスト登場!」
修二の大声にみんなの手が止まる。
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「しょーご!!」
その声の向こう、何か申し訳なさそうに入ってくる小柄な彼。
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 『しょーご、芸能人なんよね?』 
『LDHらしいんよ』
 『マジで?あいつやばいやん!』
そんな声の中、一瞬合った視線。
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三日月型にふっと緩んだ視線が、あの頃と同じで。 一瞬で、駅の窓ガラス越しに合った何年も前のそれと重なった。
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「明日美は今、何しよん?」
個室の隅っこに座った、私と円。
男の子達は彰吾を囲んで盛り上がってる。
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「ん?古着屋さんで働いとる」 
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「そうなん? そいや、昔から洋服好きやったもんね。 西口の古着屋さん、覚えとる?帰りによぉ行ったよね?」
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「ん。やね。懐かしい…今もあるんかな?」
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「あるよ。こないだ行ったんよ、私。
明日美…?帰ってないん?岡山」
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「ん…。私の事はいいけん。円は?修二と今でも…?」
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「ん。なんか色々あったけど、もう5年過ぎたわ」
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「結婚するん?」

「…ん。…わからん。女からプロポーズとか、なんかちゃうやん?」
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そう言うと手元のグラスをぐっと持ち上げた。
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「明日美、お酒飲まんの?」
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「ん。私、お酒苦手なんよ。やし、ちょっとこの後、予定もあるし」
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「えっ、そうなん?」
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「ん、22時には帰るけん」
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伏せたスマホを表に向けると21時を回ったとこ。 時間を確認して、スマホを元に戻すと、右隅から感じる視線に気がついた。
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『話…したい』
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そう思いながらも、部屋の対角線上に座ってる私達。 みんなに囲まれてる彼の元に行くのはちょっと無理そう。
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「彰吾んとこ行く?」
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「ん?」
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「こっち、呼んでこよか?私」
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「えっ、ええって。いや、大丈夫」
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円がせっかく言うてくれたのに「うん」とは言えないまま。
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時間が経つにつれて、みんなお酒が入ってるのもあって、耳馴染みのある岡山弁が飛び交う。 
地元でしか通じない方言が、懐かしくて、ほっとする。 
楽しかった記憶と一緒にあの頃の色、香、全てを連れてくるようだった。
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そんな中、テーブルの上のスマホの振動が制限時間だと告げる。
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「円、ごめんやけど。お金、修二に渡しといて」
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「ほんま行くん?どんかならんの?
この後2次会もするけ、予定済ませてからとか…せめてみんなに挨拶的なんとか」
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「終わるん明け方になるけん。挨拶とか、無理無理…勘弁して(笑)」 
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「そーなん?…わかった。じゃあ、今度明日美の店行くけ、場所教えて」
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「ん、わかった、LINEしとく。じゃね」
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盛り上がるメンツにバレないように、こっそり背中の後ろの襖を引いて外へ出た。 
地下からの階段をタンタンってあがると、雨の匂い。
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「マジで…、最悪」
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駅まで走るしかない。
傘…買う? もったいないな。 
隣のコンビニには、ここぞとばかりに店頭に売り出された傘。 
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「800円は高いやろ、牛丼食べれるやん」
背中のリュックを前にして、意を決した瞬間。
ぎゅっと握られた腕。
反射的に振り返ると息が上がった彰吾がいた。
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「『久しぶり』位、言えや」
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「…えっ、あっ、ごめん」
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「どこ行くん?」
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「…」
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『今からバイトに』なんて、言えなくて。
なんか、惨めだったから。
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「まぁええわ。ちょっ、待っとって。ええか、行くなよ。そこ居れよ」
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そう言い捨てると、コンビニで傘を買って戻ってきて、私の前に差し出した。
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「ん」
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「ええよ、走れるけん」 
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「どんくさい奴がよーいうわ」 
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「はっ?!なんよ!」 
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「ええけん、持ってけって」
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これ以上言うても、埒があかん気がして素直に受け取った。
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「ありがと」
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「ん。……明日美?」
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「ん?」
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「元気やったんか?」
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「ん…。元気。彰吾…すごいやんな。びっくりやわ」
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「ん。まだまだやけどな…。ありがと、そんなん言うて貰えて嬉しいわ」
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そこからの言葉は続かなかった。
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降り方の強まった雨の音と、車が水しぶきを上げる音に我に帰った。
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「ごめん、行かなおえんのよ」
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「ん」
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「じゃあ」
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「ん。気ぃつけや」
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買ってもらった傘を広げて、彼に背を向けた。
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感じる視線に気づかないふりをして、振り返る事もなくただ真っすぐに歩き始めた。
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…next
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