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Sevendays vacation〜scene22〜

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「壱馬くん、あそこ座ろ」

俺の少し先を歩いてた茜さんが振り返る。

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海が近づいてくると潮の香がして、耳に届いてくる波の音がだんだんと大きくなる。この感じがほんまに心地よくて。

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彼女が座った流木の隣に、俺もゆっくり腰かけた。

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見えるのは、遠くに走る船の光と、クリアな空に浮かぶ星。

手を伸ばせば、掴めそう。

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そして大きな月。

夜なのに、隣にいる彼女の顔がはっきりと見える位、明るい月夜だった。

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「月がキレイだね」

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「やな」

そう返事をしたら、ふふって笑う。

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「ん？」

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「夢が叶ったなって」

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「ん？夢？」

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「綺麗な月を見てね、『月がキレイだね』って言える人が欲しかったの。私」

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「何やそれ(笑)」

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「いいの、自己満足。ありがと、壱馬くん」

そう言って俺の方を向いてまた、ふふって微笑む。

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「明日…帰るんだね」

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「ん…、そうやな」

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「スマホ…なくてもどうにかなったね」

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「ん」

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「何かちょっと変わったかな、私」

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「変わらんやろ(笑)」

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「えー、『変わったよ』ってそこは言うとこ！」

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「(笑)」

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「帰ったら仕事山積みかな、私」

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「ん、…俺も」

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「がんばらなきゃだね、壱馬くん」

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「茜さんも」

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「壱馬くん…、帰ったらさ、聞くね？あなたの歌。

結局一回も歌ってくれなかったから…」

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「…あっ、ん。ごめん」

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「別に怒ってない。感想…どっかに送る」

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「どっかって…(笑)」

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「絶対送るから」

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「ん、送っといて」

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「…唄えるよ、壱馬くん」

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何でやろ。誰のどんな言葉も気休めにすらならんかったのに。

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でも彼女の『唄えるよ』は、背中を強く押してくれる。

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「ん、茜さんも、『茜さんじゃなきゃ』そうなれる」

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「なれるかなぁ…ん、なれる。なってみせる。…いいお休みだったね。1週間」

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「んーそうやな、早かったな。最初どうなるかと思ったけど」

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「ん、壱馬くんが一緒でよかった。…あなたに出逢えてよかった」

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「俺も…茜さんに出逢えてよかった」

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それ以上は言えなかった。

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『出逢えてよかった』

それが今伝える最上級の言葉。

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少し触れた右手。握りたい衝動に駆られて、ぎゅっと掌を握った。

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違う…、今は違う。

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「帰ろっか、そろそろ」

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「やな…朝の船やろ?」

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「ん…」

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俺らは、帰りは別の船を選んだ。

茜さんは、朝、俺は夕方。

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『一緒に帰ればいいのに、帰る先だって一緒なのに』

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おばさんにそう言われたけど、「これでいいんで」お互いにそう言うてた。

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けじめっていうか、区切りっていうか。

それは、ちゃんとしたかった。

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お休みは終わりやでって。

『一人で来て、一人で帰る』それだけは譲れんかった。

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それは俺ら2人の共通の思い。

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茜side

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「おやすみ、壱馬くん。明日見送りはいらないからね」

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「ん、そのつもりやから。最後に泣かれたりしたらイヤやし(笑)」

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「私もワンワン泣いてる壱馬くんは見たくない(笑)」

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「誰がや(笑)、じゃあおやすみ。バイバイ、茜さん」

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バタンと閉じたドア。

明日慌てないように、荷造りしなきゃ。

そう思ってスーツケースを聞けたけど、半分にも満たない荷物。

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「こんな荷物でよく1週間居たよね、私」

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一応持ってきた化粧ポーチなんて一回も開ける事なんてなくて。

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今更気づいた。

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『あっ、私ずっとすっぴんだったって』

部屋の小さい鏡に映る私は、ちょっと日焼けして。

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「あー、ファンデーション買いなおさないとな、色合わなくなっちゃった…。せっかくだしリップも買いなおそうかなぁ。出費だな…。でもいっか。有給だったし」

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買い直すのはめんどくさいはずなのに、自分が変わった気がして…、なんか嬉しくて。

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スマホを置いてきたからじゃない。

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『彼と出逢えて、彼と過ごしたここでの時間があるから、私は変わった』

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…next

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