連載小説「肥満ウイルス」まとめよみブログ

チャプター8−8 のぐちのりお


「ハンス!付き合ってくれてありがとう! 

今日は、僕がおごるよ!このあとビールでも飲みに行こうよ!」

「まじで?でも、そうだよなー。オマエ明日からダイエットだからなあ。今夜は好きなだけ食べられる最後の夜だよな!付き合うよ!!」

ハンスとデイブの凸凹コンビはカツモリダイエットクリニックをあとにしながら 

デブともお別れ!の最後の晩餐飲み会の話しで盛り上がっていた。




カツモリダイエットクリニックの非常階段で、台所のドアから差し出されたゴミ袋を袋ごと受け取った男は、身軽に階段を駆け下りて行く。

階段を降りながら、半透明のゴミ袋に入っている血液入りのチューブを取り出し

胸ポケットから畳んだ大きな茶封筒を取り出すと、中にチューブを入れた。

そのまま通りの角に駐車してあった50ccバイクに乗って駅とは反対の方角へと走っていった。

バイクはしばらく走ると、セルフのガソリンスタンドへと入って行く。バイクの男はポケットの財布から
カードを取り出し、ガソリン代を支払う。

カードには「ノグチ ノリオ」という名前が入っている。

「野口さん?あー!やっぱり野口さんだ。お久しぶりですね!」

男は後ろからの明るい声に、肩をビクリ!とさせたが、聞こえないふりをして立ち去ろうとした。

「へー。野口さん、バイクに乗られるんですねえ・・。」

男のヘルメット前に回り込むように、黒髪のボブに赤い縁のメガネの女性が立ちふさがる。

「・・・・。」

「え?」

「知りません」男は冷たい声でそう言った。

「いやだなー。忘れちゃいましたか?じゃあ、ヒント。強風。洗濯物。えーーと・・ピンク色。」 

最後のピンク色だけを、恥ずかしそうに間を置いて言ってから、

更に女はヘルメットの中の男の顔を覗き込もうとする。

「さあ・・?」

「ヤダー。野口さん。ほら!高円寺のアパートの3階に住んでたヨウコですっ!あのアパート、今はもうつぶされちゃってなくなっちゃったんですよ。
野口さんが引っ越しちゃってから・・半年ぐらいしてからかなー?アタシの洗濯物、しょっちゅう下の野口さんのとこのベランダに落ちちゃって。いつも届けに来てくれたでしょ。ピンクのブラとか・・。ははは。。」

「あ、ああ・・」

「あ!そうだ。今ちょっと時間ありますか?」 

「え・・」ヨウコは男の腕を強引に取ると、引っ張ってガソリンスタンドの事務所の上にある休憩スペースにつながる階段をぐいぐい上っていく。