ツイッター連載小説「肥満ウイルス」まとめ読みブログ

チャプター7ー7 「ラーメン」 




ハンスはまるでコスプレのような、

大きな襟にフリルの縁取りがついた水色のブラウスに濃いブルーのリボンを

ネクタイ代わりに結び 
茶色いショートパンツにベージュのハイソックス。

足元は厚底のおでこ靴で、今日も人形のように可愛らしかった。

ハンスは身長が165センチほどで、とても痩せている。

ハンスの隣にいるとデイブは自分が余計に大きくなったように感じるのだった。

日本に来たら痩せられると思ったのに 

日本は小人の国みたいに、いろんな物が小さく出来てるから

僕はどうしても大きく見えちゃうんだよな・・。

いつになったらハンスみたいになれるんだろう。


ハンスは何年日本にいるのかなあ??


デイブはハンスに相談してみようと思った。

だが、いきなりこんな個人的な話しをしたらどう思われるだろう。

そんなことをモジモジと考えていたデイブなのだが、

ハンスはフレンドリーに

「デイブ!今日はお祝いだあなあ!一緒にのおみに行こおうぜえー!」

と誘ってくれた。

「ありがとう!飲みに行くってどこか知っているの?僕はまだ・・あまりレストランとか、そういうところ 
行ったことがなくて判らないから・・」


「しーーんぱあいしないで!俺がいーいーところに連れていってあげまーす!」

2人は夜の六本木に繰り出す前に腹ごしらえをしようということになった。

「ハンス、それじゃあ僕はラーメンが食べたいなあ!どこで食べられるか知ってますか?」



「ラーメン?すんなもん、どこにでもあるじゃあん?」

「え?どこですか?」

「ほり!見てみろよ!ラーメンって大きく書いてあるから。」

デイブはハンスに言われた通りに、店が並ぶ通りのサインをじっと見たが

英語、時々ヘンテコな意味の通らない英語ながらアルファベットの文字で書かれているものだけが目に飛び込んで来て、

その他の文字はどれもデイブにはイラストのようにしか見えないのだった。


「どれがラーメン?」

「ほーらほーら、ここここ。さっぽろらあめん、とあるよ」

ハンスはラーメン屋を見つけると、さっさと中へ入って行った。



「らっしゃい!2名さん。空いてる席へどうぞ!」

2人が入ったラーメン屋は、厨房を囲むようにコの字型にテーブルが並んでいるほかに、4人掛けのテーブルが4つほどある小さな店だった。

店内はほぼ満席で奥のテーブル席のサラリーマン風の客が丁度会計に席を立ったところだった 



デイブはお尻に埋まりそうな小ぶりの椅子に腰掛けた。

デイブの知っているラーメンといえば、

学生寮で食べたカップラーメンか、

購買で売っている一番安い袋入りの乾燥したラーメンだ。

だが、見回すと店内のお客の前には大きな丼になにやら野菜が大盛り入りものすごく美味しそうだ!



ここだ!

こここそ僕が来てみたかった店だよ!

ああ!日本バンザイ!

ありがとうハンス!

「ラーメンね?
しおかみそ?」

カウンターの奥の鉢巻のおやじさんが大きな声で聞いてきた。

(シオカミソ???)

早口で全く聞き取れないデイブ。

ハンスは「しおで」と言った。

デイブは 
 ただニコニコして店員を見ていた。

ラーメン屋のおじさんは

「そっちのお兄さんは?」

ハンスはデイブをみている。

おじさんも僕を見ているのだから、きっと僕に聞いているのにちがいない。

「はい」

デイブは笑みを絶やさず答えた。

「しお?しおでいいの?みそ?」

「あ、はい」 

おじさんはデイブとの会話を中断して、ほかの客の注文を取ったあと、

またデイブに

「そっちのお兄さん、ラーメンはしおでいいの?しおとみそ、どちらがおいしい?」

と少しゆっくり聞いてきた。

カウンターに座っていた客の数人がチラチラとデイブの方を見ている。




どちらがおいしい。

そう、ラーメン屋のおじさんは間違いなく、どちらがおいしいかを聞いた!

ここだけは絶対だ!でも何がおいしいんだろう?

デイブはハンスに

「え?なんだって?」と聞いた。

ハンスからラーメンのスープを塩か味噌の味どちらか選べるのだが、どちらが欲しいか?と 
聞かれて「しお」と答えたデイブだが、

ラーメンはラーメンでもスープに色んな味があるなんて考えたこともなかったのでとても感動した。

おじさんは「どちらが美味しいか」

ではなく「どちらが欲しいか」を聞いていたのだが、

デイブには“おいしい”と“ほしい”が同じにしか聞こえなかった。



こうして、デイブはさっぽろ塩ラーメンをはじめて食べた。

ものすごく美味しい!

日本食って最高に美味しい!

デイブはスープの最後の1滴まで完全に飲み干し、

水を3杯お代わりして席を立った。

本当はもう1杯、

今度はもう一つの味の方も食べたい!

そう思ったが、それにはお尻に 



食い込むこの杭のような椅子の拷問を我慢しないといけない。

美味しいさと痛みは紙一重だな・・と思うデイブだった。

デイブはそこで、はっ!と気がついた。

日本人がみんな痩せている理由の一つにはレストランのこの椅子が関係しているのではないか?そうだ。絶対だ! 

24−