肥満ウイルス

チャプター7−2 ハンス・グルーバーマン

 

 「ヘレン」 イラスト by ブラジル産

 

トッドはコンビニで朝ごはん用に卵サンドやカツサンドを3パックとオレンジジューズを1本。

おやつ用にチョコレートクッキー1箱。

そして板チョコ2枚。

レジのそばのフライドチキンを2パックと水のボトルを買った。

「ダイエット中だからなーー」

トッドは炭酸飲料でなく水を買った自分を褒めてあげたい気分になった。

この後、バス停でバスが来るのを待っていたのだが

トッドが乗るはずのバスはなかなか来なかった。

バス停で座ってサンドイッチを食べていると、

目の前をサーーーッとスポーツタイプの自転車に乗った男が走り抜けた。

トッドにはサンドに気をとられており、

風が吹いたことしかわからなかったが、

その風は一旦走り抜けたあと、

トッドの前に戻ってきた。

 

「よう!」

 

声をかけられてトッドは驚いた。

 

「僕のこと?」

「お前、ガバガバの新人?昨日3階に引っ越してきただろ?俺はハンスよろしくな!」

この男は、早口英語でまくしたてた。 

トッドはハンスが何を言っているのか、理解するのに少し時間が必要だった。

ハンスは来日5年のガバガバの先輩講師だった。

オーストラリア人のハンスの英語は訛りが強すぎて、

トッドはよく聞き取れなかった。

ハンスはトッドに「バスは時間通りに来ない。

遅刻するとその分給料から引かれる。 

だから、腹を空かしたくなかったら自転車に乗れ」

というようなことを言っているようだったが

(自転車に乗ったらもっとお腹が空くじゃないか?へんなガイジンだなー)

と、トッドは思った。

でも、ダイエットには自転車もいいかもしれない。

実際、バスは時刻表より30分も遅れてやってきた。

トッドが約束の時間に大分遅れてガバガバに着くと、オフィスにはたか子一人しかいなかった。

 

「トッド・・あ、いやデイブ。もう授業が始まってますから、

まずは教室に授業を見にいきましょう!」

 

タコに言われて、手にコンビニのビニール袋を下げたまま

トッドは授業中の教室に入って付いて行った。 

15畳ほどの広さの教室の前のホワイトボード。

その前の教卓に男はあぐらをかいて座っている。

ホワイトボードにはミミズがのたくったような文字で何やら書いてある。

男はバス停前で声をかけてくれたハンス。

強烈な訛りのあるハンス・グルーバーマンだった。

 

「それじゃ、いくよー!? 

みんな大きな声で!一緒に せーーの!ハウーメニーーロード・・」

ハンスはあまり上手とは言えないフォークギターをかき鳴らし歌う。

生徒は5人。40代の主婦2人、リタイヤ後の時間を持て余した初老の男性。

20代前半の学生風の男。

制服姿に化粧の濃い年齢不詳の女。

5人はそれぞれに 

どうしたらよいのかわからない様子で、

ハンスのがなる歌声に合わせ蚊の鳴くような声で歌う。

 

「みんなねー。はい!もっと元気に!大きな声で歌って。

歌ううちに自然と英語が話せるようになるから!」

 

ハンスはたか子とデイブが教室に入って来たのを見て、得意げに更に声を張り上げた。 

 

ハンスは黙っていればかなり美男子なのだが・・。

テンガロンハットにフリンジつきの茶色い革ジャン。

黒いピチピチのパンツにブーツ。

教師はネクタイ着用というルールがあるため、首元には紐状のネクタイをしている。

たか子は小さくため息をつき「ハンスはね、アイドル志望なのよ・・」 


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