勝盛博士は札幌で幼少時代を過ごした。

父親は獣医師、母親は歯科医師で勝盛少年の興味はいつも歯か動物だった。

特に獣医の父親は犬や猫などのペットだけでなく、

土地柄農場への出張診療を行うことが多かった。

牛の病気や羊の出産だといえば手伝に行った。

,

父親の仕事について農場へ往診に行っていた勝盛少年。

飽きるとその辺をぶらぶらして他の動物たちと遊んだりした。

今でも勝盛博士は、

あの農場のフレッシュなにおいが大好きなのだ。

特に自分の研究が日の目を見るかもしれないという今、

あの動物達の匂いを懐かしく思い出す。

 

勝盛博士はピアノの前に座ると、

心を落ち着かせじっと目を閉じた。

ほぼ1日の全てを研究所で過ごしている博士だが、

着替えや風呂に入りに帰宅すると部屋の明かりはつけずピアノの前に座る。

すると目の前に子供の自分と両親の姿が浮かぶのだ。

歯型をおもちゃに 動物の解剖ごっこをして一人遊びが好きだった努が,

一時期何よりも興味を惹かれて夢中になったもの。

それはピアノだ。

結局研究の道に進んだ勝盛博士だが、

未だに他の道があったならピアノを続けたかったと思うのだった。

時計の針は夜中の1時をまわりもう音を出せる時間ではない。

勝盛博士はピアノの蓋をあけて、

そっと鍵盤に指をはわせて音をイメージして・・そして蓋をまた閉じた。

いつもだと、

ピアノの前に座るこのとき、

子供時代の夢や希望にあふれた自分を思い出して

リフレッシュしたような気になるのだが、

今夜は目を閉じても頭はウイルスを

 

ウイルスを人間から検出するための方法をどうするか・・

というところから離れられないでいた。

まずは、

標準を大幅に上回る体格の肥満ウイルスを持っていると予測し易い

ボランティアを探す。

そういう人ばかりを集めるためには・・

血液検査をするための最もらしいエサが必要だ。

 

早朝。

 

寝癖を直す暇もなく勝盛博士は玄関を出た。

薄手コート姿の博士は思わず寒さに身震いした。

玄関先のポストからは取り忘れた郵便物や新聞、

そしてチラシの類が溢れおちていた。

1枚のチラシを何気なく手にした博士は何を思ったのか

それを丁寧にたたんでポケットにしまった。

「エサだ」

勝盛博士が拾ったチラシは、

博士の家のある駅の近くにオープンしたばかりのスポーツクラブのものだった。

「ダイエットしたいなら!専門インストラクターがマンツーマン指導!今なら入会金無料というキャンペーン中のチラシだ。

肥満患者を調べるなら肥満患者の気持ちになるべきだったのだ。

博士は肥満率180%以上の肥満患者は治療費無料!

というダイエットクリニックを開くことを決めた。

古今東西のありとあらゆる減量プログラムから、

血液検査でその人に向くダイエット方を取り入れるのだ。

もちろん治療参加者には、

きちんとダイエットに取り組んでもらう。

 

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