【対談】いとうまい子/早稲田大学理工学術院長・菅野重樹教授
5/13(金) 10:50配信
TOKYO HEADLINE WEB
女優・タレントとして芸能活動を続けながら40代で早稲田大学のeスクールに入学し、大学院博士課程を経て研究者となったいとうまい子と、ロボット工学の第一人者であり、早稲田大学理工学術院長として広い視野で教育・人材育成をリードする菅野重樹教授。2人が語る、これからの「学び」に必要な視点とは。
ーまず、お2人が現在の専門に至った背景を聞かせてください。
菅野重樹教授(以下:菅野)「私はもともとSFやロボットが好きな子どもだったんですが、中学3年のころ、加藤一郎先生が開発したヒューマノイドロボット〈WABOT-1〉のことを新聞で読み、人間に近いロボットを研究する加藤先生のもとで学びたいと、先生のいる早稲田大学に進学しました。実は大学に入って間もなく、アポも取らず加藤先生のもとを訪ねて行きまして…。先生は出張でおられなかったのですが、そのことが先生に伝わり“この日にいらっしゃい”と伝言を頂いた。今考えると、あんな大先生のところによくいきなり訪ねていったものだと思います(笑)。後日、改めて加藤先生にお話を伺うことができ、これはもう絶対に加藤研に行くしかない、と。運よく研究室に入ることが出来て、つくば科学博(国際科学技術博覧会)に出展した鍵盤演奏ロボット(WABOT-2)の開発にも参加しました。その後も、バイオメカニズムの視点をふまえ、人間と共存するロボットの研究を続けてきました」
いとうまい子(以下:いとう)「私は10代から芸能界で仕事をしてきましたが、紆余曲折ありながらも、この不安定な業界で仕事を続けられてきたのは、この社会のおかげなんだと、40代に入って改めて感じるようになったんです。番組や作品を作る人、スポンサー、作品を見てくれる方々…すべての人のおかげで生活できているのだから、社会に対して恩返しをしたいと思うようになりました。でも高校を卒業してすぐにこの世界に入ったので何も知らなかった。それで、まずは恩返しの土台を大学に行って見つけよう、と。あれこれ探したところ早稲田大学のeスクールでいろいろな領域を学べると分かり、もともと興味があった予防医学やロボット工学を受講しました」
ーいとうさんが、大学から、さらに博士課程に進んだ理由とは?
いとう「ゼミはロボット工学を選択し、国際ロボット展に出展して企業の方に興味を持っていただいたりもして、もっと研究したいという思いが強くなり、早稲田大学大学院の人間科学研究科に進みました。博士課程の面接では、ロボット工学をやっていた人がいきなりバイオメカニズムを学ぶのは難しいよと教授に言われたのですが、もともとアンチエイジングやロコモ対策に関心があり、その授業も受講していたので、面接の設問にも全部答えることが出来たんです。大学院で学びながら、いろいろな方の研究に触れさせていただき、AIを活用した高齢化社会の課題解決というテーマでの研究に至りました」
菅野「私は、いずれロボットはスマホのように、1台であらゆる局面で人間をサポートする形になると考えていて、現在、ムーンショット型研究開発として〈一人に一台一生寄り添うスマートロボット〉というプロジェクトのリーダーを務めています。そういった人間との共存を目指すロボットには、いとうさんの研究のように医療の分野の視点が必須になってくると思いますし、人とのコミュニケーションの必要性を考えると、今後は社会受容性、ソーシャルな視点なども必要になってくるでしょう」
ーこれからのロボット研究にはさまざまな分野の視点が必要ということですね。しかし日本では“理系文系”で分けられてしまいがちです。
いとう「小学校で“算数が嫌いになった”という人ってけっこう多いですよね。でもそこで“嫌い”にならなければ、その後の可能性ももっと広がるんじゃないかなと思うんです」
菅野「よく分かります。中高の授業でも同様ですよね。それこそ理工学はいろいろな分野が関係する学問ですが、中高のカリキュラムにはほとんど入ってこない。だから、こんな建物が作りたいとか、こんな自動車が作りたいといったイメージと、数学や物理の授業とが結びつきにくいんじゃないかと思うんです」
いとう「せめて大学では、文系理系はもちろん、いろいろな分野に触れられることが大切ですね。実際に私は早稲田では、自由に学ばせてくれる先生が多いと感じました。他大学や企業など外部の人とつながったり、産学連携をしたり」
菅野「そうですね。文理融合や、異なる分野の学部による連携などがもっと進めば、早稲田はさらに面白い大学になると思います」
ー最後に「学び」を志す人へのメッセージをお願いします。
菅野「私は前進という言葉が好きなんです。何かを学ぶ人は必ず悩んで立ち止まることがあると思いますが、そんなとき、とにかくやってみることが大事だと思います」
いとう「私も、とりあえず前へ進もうと、やってきたことの連続で今があるので、とてもよく分かります。あと大事なのは、楽しむこと。学業や研究と芸能の仕事の両立は大変ではとよく聞かれるのですが、私にとってはすべて楽しみでやっているので、大変だと感じたことがないんです。若い学生の方も、リカレントで学ぶ方も、その“学び”を楽しんでほしいです」
5/13(金) 10:50配信
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女優・タレントとして芸能活動を続けながら40代で早稲田大学のeスクールに入学し、大学院博士課程を経て研究者となったいとうまい子と、ロボット工学の第一人者であり、早稲田大学理工学術院長として広い視野で教育・人材育成をリードする菅野重樹教授。2人が語る、これからの「学び」に必要な視点とは。
ーまず、お2人が現在の専門に至った背景を聞かせてください。
菅野重樹教授(以下:菅野)「私はもともとSFやロボットが好きな子どもだったんですが、中学3年のころ、加藤一郎先生が開発したヒューマノイドロボット〈WABOT-1〉のことを新聞で読み、人間に近いロボットを研究する加藤先生のもとで学びたいと、先生のいる早稲田大学に進学しました。実は大学に入って間もなく、アポも取らず加藤先生のもとを訪ねて行きまして…。先生は出張でおられなかったのですが、そのことが先生に伝わり“この日にいらっしゃい”と伝言を頂いた。今考えると、あんな大先生のところによくいきなり訪ねていったものだと思います(笑)。後日、改めて加藤先生にお話を伺うことができ、これはもう絶対に加藤研に行くしかない、と。運よく研究室に入ることが出来て、つくば科学博(国際科学技術博覧会)に出展した鍵盤演奏ロボット(WABOT-2)の開発にも参加しました。その後も、バイオメカニズムの視点をふまえ、人間と共存するロボットの研究を続けてきました」
いとうまい子(以下:いとう)「私は10代から芸能界で仕事をしてきましたが、紆余曲折ありながらも、この不安定な業界で仕事を続けられてきたのは、この社会のおかげなんだと、40代に入って改めて感じるようになったんです。番組や作品を作る人、スポンサー、作品を見てくれる方々…すべての人のおかげで生活できているのだから、社会に対して恩返しをしたいと思うようになりました。でも高校を卒業してすぐにこの世界に入ったので何も知らなかった。それで、まずは恩返しの土台を大学に行って見つけよう、と。あれこれ探したところ早稲田大学のeスクールでいろいろな領域を学べると分かり、もともと興味があった予防医学やロボット工学を受講しました」
ーいとうさんが、大学から、さらに博士課程に進んだ理由とは?
いとう「ゼミはロボット工学を選択し、国際ロボット展に出展して企業の方に興味を持っていただいたりもして、もっと研究したいという思いが強くなり、早稲田大学大学院の人間科学研究科に進みました。博士課程の面接では、ロボット工学をやっていた人がいきなりバイオメカニズムを学ぶのは難しいよと教授に言われたのですが、もともとアンチエイジングやロコモ対策に関心があり、その授業も受講していたので、面接の設問にも全部答えることが出来たんです。大学院で学びながら、いろいろな方の研究に触れさせていただき、AIを活用した高齢化社会の課題解決というテーマでの研究に至りました」
菅野「私は、いずれロボットはスマホのように、1台であらゆる局面で人間をサポートする形になると考えていて、現在、ムーンショット型研究開発として〈一人に一台一生寄り添うスマートロボット〉というプロジェクトのリーダーを務めています。そういった人間との共存を目指すロボットには、いとうさんの研究のように医療の分野の視点が必須になってくると思いますし、人とのコミュニケーションの必要性を考えると、今後は社会受容性、ソーシャルな視点なども必要になってくるでしょう」
ーこれからのロボット研究にはさまざまな分野の視点が必要ということですね。しかし日本では“理系文系”で分けられてしまいがちです。
いとう「小学校で“算数が嫌いになった”という人ってけっこう多いですよね。でもそこで“嫌い”にならなければ、その後の可能性ももっと広がるんじゃないかなと思うんです」
菅野「よく分かります。中高の授業でも同様ですよね。それこそ理工学はいろいろな分野が関係する学問ですが、中高のカリキュラムにはほとんど入ってこない。だから、こんな建物が作りたいとか、こんな自動車が作りたいといったイメージと、数学や物理の授業とが結びつきにくいんじゃないかと思うんです」
いとう「せめて大学では、文系理系はもちろん、いろいろな分野に触れられることが大切ですね。実際に私は早稲田では、自由に学ばせてくれる先生が多いと感じました。他大学や企業など外部の人とつながったり、産学連携をしたり」
菅野「そうですね。文理融合や、異なる分野の学部による連携などがもっと進めば、早稲田はさらに面白い大学になると思います」
ー最後に「学び」を志す人へのメッセージをお願いします。
菅野「私は前進という言葉が好きなんです。何かを学ぶ人は必ず悩んで立ち止まることがあると思いますが、そんなとき、とにかくやってみることが大事だと思います」
いとう「私も、とりあえず前へ進もうと、やってきたことの連続で今があるので、とてもよく分かります。あと大事なのは、楽しむこと。学業や研究と芸能の仕事の両立は大変ではとよく聞かれるのですが、私にとってはすべて楽しみでやっているので、大変だと感じたことがないんです。若い学生の方も、リカレントで学ぶ方も、その“学び”を楽しんでほしいです」