増加する大人の発達障害 自治体によるサポートも受けられる「障害者手帳」取得のメリット
8/14(月) 7:15配信
マネーポストWEB
社会と折り合いがつけられるよう、必死でがんばってきた。それでもやっぱり自分は周りの人と同じようにできない。そう実感する毎日がつらくて苦しい──。そんな大人が増えているという。しかしその生きづらさは、努力不足のせいでも、性格が悪いせいでもなく、脳の特性、つまり「発達障害」のせいかもしれない。
「“私は発達障害かもしれない”。そう気づいたのは25才のとき。Web制作会社で働いていた頃です。たまたま見ていたテレビ番組で、『物忘れが激しい、行間が読めない、片づけられない……そういう人たちは発達障害の疑いがある』と取り上げられていたんです。その特徴のほとんどが私に当てはまり、“これだ”と思いました」
と話してくれたのは、イラストレーターの雨谷梼里さんだ。すぐに発達障害について調べたという。
「私は小さい頃から、人の目線で物事を考えられなくて、学校の先生からは “感謝の気持ちがない”“傲慢だ”などと言われてきました。それで自分は性格が悪いのだと思っていました。大人になり、憧れだったデザイン関連の仕事に就いても、自分ではできているつもりが、結果的に周りに迷惑をかけてしまう。
努力しているつもりでもできていない。だから、“自分には能力がない、ダメ人間なんだ”と思って生きてきたんです」(雨谷さん)
発達障害とは脳の機能に問題がある状態
雨谷さんの問題は、発達障害の典型的な特徴だと、精神科医の井上智介さんは言う。
「発達障害とは、脳の機能的な問題のせいで、日常生活や学業、就業上に弊害がみられる状態で、ADHD(注意欠如・多動性障害)、ASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)などを総称します。
ADHDの主な特徴は、落ち着きがなく、集中力が続きにくいことにあります。そのため、忘れ物をしやすかったり、遅刻が多かったり、マルチタスクが苦手だったりします。衝動買いや、一方的にしゃべり続けるなどの傾向もあります。
一方、ASDは人とかかわることが苦手で、場の空気を読んだり、相手の気持ちや暗黙のルールを理解することが難しく、言われたことをそのまま受け取ってしまいます。こだわりが強くて自分のやり方に固執したり、生活に支障をきたすほど感覚が過敏といった面もあります。
LDは、聞く、話す、読む、書く、計算するなどの能力の習得、活用が難しいという特徴があります」(井上さん)
いずれの場合も、知能の発達には遅れがないため、そうとは気づかないまま大人になるケースが多いのだという。
早めの受診が本人も周囲も救うことになる
井上さんは産業医として会社員の面談を行っているが、現場の実感としてここ数年、発達障害はもちろん、診断はつかないが発達障害の傾向がある“グレーゾーン”の大人が急激に増えているという。
「患者数が増えた理由としては、発達障害が広く知られるようになった影響もあると思います。本人が気づくケースはもちろん、周囲からのすすめで受診する人もいます」(井上さん)
雨谷さんは25才で受診したが、井上さんによれば、40代以降に受診し、それと気づく人もいるという。とはいえ、なるべく早く精神科や心療内科を受診した方が、適切な対応ができる。
「発達障害の人の言動は、学校や会社において、チームワークを乱すきっかけになることも。そのためにいじめに遭ったり、孤立して引きこもりになってしまうケースが多いんです。さらに、人から責められて傷つき、適応障害やうつといったほかの病気を発症し、最悪、死を選んでしまうこともあります。だからこそ、早めの対応が重要なんです」(井上さん)
雨谷さんも小学校でいじめに遭った経験がある。
「私の場合、もしかして……と思ってすぐに病院を調べました。ただ、発達障害を診てくれる病院が少なくて、どこも予約でいっぱい。受診まで2~3か月待ちがザラでした。それでもいいから自分の生きづらさの原因が知りたいと、待つ覚悟をして予約を入れました」(雨谷さん)
そしてADHDと判明した。
「発達障害だとわかって肩の荷が下りました。電話をしながらメモを取れなかったり、きちんと仕事を処理できなかったのは努力不足ではなかったし、人とのコミュニケーションが苦手なのは性格が悪いせいではないんだとわかり、安心しました」(雨谷さん)
雨谷さんにとって診断はメリットしかなかった。症状がつらい場合は投薬治療が受けられ、会社も対応を考慮してくれるようになった。さらに、障害者手帳を交付されるなど、行政からの支援も受けられることになった。
障害者手帳の申請は自治体の障害者福祉窓口で行う。このときに、厚生労働大臣が「精神保健指定医」として指定した医師の診断書と申請書が必要になる。また、自治体や年金事務所で手続きをすると、障害年金(3級で月額約5万円~、2級で月額約10万円~、1級で月額約12万円~)の受給が可能になることもある。
発達障害の診断でさまざまなサポートも
発達障害の人にとって、障害者手帳の取得はメリットになると、社会保険労務士の井戸美枝さんは言う。
「発達障害の場合は、『精神障害者福祉手帳』が取得できます。障害の種類や程度に応じ、各種福祉サービスが受けられるんです」(井戸さん)
自治体によるが、公共交通機関の割引、就労支援などのサポートが受けられるため、障害者手帳を得ることで、発達障害の人が生きやすくなると井戸さんは言う。雨谷さんも就労支援を活用したという。
「前の職場とは、在宅での業務委託契約を結び、昼はパート、夜は在宅で仕事をしてきました。現在はデザイン系の会社でフルタイム勤務をしています」(雨谷さん)
それまでは、周囲に迷惑をかけないことばかりを考えていたが、自分の正体がわかったことで、やりたいことや適したやり方がわかり、生きやすくなったと雨谷さんは言う。
「診断前の幸福度は3でしたが、いまは8くらいです」と、笑顔で答えてくれた。
※女性セブン2023年8月17・24日号
8/14(月) 7:15配信
マネーポストWEB
社会と折り合いがつけられるよう、必死でがんばってきた。それでもやっぱり自分は周りの人と同じようにできない。そう実感する毎日がつらくて苦しい──。そんな大人が増えているという。しかしその生きづらさは、努力不足のせいでも、性格が悪いせいでもなく、脳の特性、つまり「発達障害」のせいかもしれない。
「“私は発達障害かもしれない”。そう気づいたのは25才のとき。Web制作会社で働いていた頃です。たまたま見ていたテレビ番組で、『物忘れが激しい、行間が読めない、片づけられない……そういう人たちは発達障害の疑いがある』と取り上げられていたんです。その特徴のほとんどが私に当てはまり、“これだ”と思いました」
と話してくれたのは、イラストレーターの雨谷梼里さんだ。すぐに発達障害について調べたという。
「私は小さい頃から、人の目線で物事を考えられなくて、学校の先生からは “感謝の気持ちがない”“傲慢だ”などと言われてきました。それで自分は性格が悪いのだと思っていました。大人になり、憧れだったデザイン関連の仕事に就いても、自分ではできているつもりが、結果的に周りに迷惑をかけてしまう。
努力しているつもりでもできていない。だから、“自分には能力がない、ダメ人間なんだ”と思って生きてきたんです」(雨谷さん)
発達障害とは脳の機能に問題がある状態
雨谷さんの問題は、発達障害の典型的な特徴だと、精神科医の井上智介さんは言う。
「発達障害とは、脳の機能的な問題のせいで、日常生活や学業、就業上に弊害がみられる状態で、ADHD(注意欠如・多動性障害)、ASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)などを総称します。
ADHDの主な特徴は、落ち着きがなく、集中力が続きにくいことにあります。そのため、忘れ物をしやすかったり、遅刻が多かったり、マルチタスクが苦手だったりします。衝動買いや、一方的にしゃべり続けるなどの傾向もあります。
一方、ASDは人とかかわることが苦手で、場の空気を読んだり、相手の気持ちや暗黙のルールを理解することが難しく、言われたことをそのまま受け取ってしまいます。こだわりが強くて自分のやり方に固執したり、生活に支障をきたすほど感覚が過敏といった面もあります。
LDは、聞く、話す、読む、書く、計算するなどの能力の習得、活用が難しいという特徴があります」(井上さん)
いずれの場合も、知能の発達には遅れがないため、そうとは気づかないまま大人になるケースが多いのだという。
早めの受診が本人も周囲も救うことになる
井上さんは産業医として会社員の面談を行っているが、現場の実感としてここ数年、発達障害はもちろん、診断はつかないが発達障害の傾向がある“グレーゾーン”の大人が急激に増えているという。
「患者数が増えた理由としては、発達障害が広く知られるようになった影響もあると思います。本人が気づくケースはもちろん、周囲からのすすめで受診する人もいます」(井上さん)
雨谷さんは25才で受診したが、井上さんによれば、40代以降に受診し、それと気づく人もいるという。とはいえ、なるべく早く精神科や心療内科を受診した方が、適切な対応ができる。
「発達障害の人の言動は、学校や会社において、チームワークを乱すきっかけになることも。そのためにいじめに遭ったり、孤立して引きこもりになってしまうケースが多いんです。さらに、人から責められて傷つき、適応障害やうつといったほかの病気を発症し、最悪、死を選んでしまうこともあります。だからこそ、早めの対応が重要なんです」(井上さん)
雨谷さんも小学校でいじめに遭った経験がある。
「私の場合、もしかして……と思ってすぐに病院を調べました。ただ、発達障害を診てくれる病院が少なくて、どこも予約でいっぱい。受診まで2~3か月待ちがザラでした。それでもいいから自分の生きづらさの原因が知りたいと、待つ覚悟をして予約を入れました」(雨谷さん)
そしてADHDと判明した。
「発達障害だとわかって肩の荷が下りました。電話をしながらメモを取れなかったり、きちんと仕事を処理できなかったのは努力不足ではなかったし、人とのコミュニケーションが苦手なのは性格が悪いせいではないんだとわかり、安心しました」(雨谷さん)
雨谷さんにとって診断はメリットしかなかった。症状がつらい場合は投薬治療が受けられ、会社も対応を考慮してくれるようになった。さらに、障害者手帳を交付されるなど、行政からの支援も受けられることになった。
障害者手帳の申請は自治体の障害者福祉窓口で行う。このときに、厚生労働大臣が「精神保健指定医」として指定した医師の診断書と申請書が必要になる。また、自治体や年金事務所で手続きをすると、障害年金(3級で月額約5万円~、2級で月額約10万円~、1級で月額約12万円~)の受給が可能になることもある。
発達障害の診断でさまざまなサポートも
発達障害の人にとって、障害者手帳の取得はメリットになると、社会保険労務士の井戸美枝さんは言う。
「発達障害の場合は、『精神障害者福祉手帳』が取得できます。障害の種類や程度に応じ、各種福祉サービスが受けられるんです」(井戸さん)
自治体によるが、公共交通機関の割引、就労支援などのサポートが受けられるため、障害者手帳を得ることで、発達障害の人が生きやすくなると井戸さんは言う。雨谷さんも就労支援を活用したという。
「前の職場とは、在宅での業務委託契約を結び、昼はパート、夜は在宅で仕事をしてきました。現在はデザイン系の会社でフルタイム勤務をしています」(雨谷さん)
それまでは、周囲に迷惑をかけないことばかりを考えていたが、自分の正体がわかったことで、やりたいことや適したやり方がわかり、生きやすくなったと雨谷さんは言う。
「診断前の幸福度は3でしたが、いまは8くらいです」と、笑顔で答えてくれた。
※女性セブン2023年8月17・24日号