靄の掛かった空

 

 

山の頂である。

標高は500㍍前後。傾斜はきつく、道を逸れたら獣のように両手を使わなければ、登るのは難しい。

が、樹木は剃り残された髭のように、チラホラだった。

 

山間を縫うように県道が走り、その県道を挟んで、幾つかの家があり、窓からは、淡いオレンジ色の灯りが漏れている。

 

 

暮れなずんだ空には気の早い月が浮かんでいる。上弦の月だ。

 

風が山肌に添って吹き上げてくる。

夕餉の生活臭を含んだ風は、物足りなさと、一瞬の安らぎを運び去る。

 

人の立ち入ることの無い、頂は地を這うような雑草が覆っている。野宿には良さそうだ。

 

 

ペットボトルに入れて持ち込んだ水。携帯用コンロ…煤だらけのヤカン。使い慣れたコップ。

 

4月の終り…小鳥の囀りを聴き、春霞に覆われた山合を眺めながら珈琲を飲む。

 

 

大地に横になり、薄く霞んだ空を見上げる。

見渡す限りの空…指を広げ伸ばした腕の先には、淡いオレンジ色の光を放つ、ボヤケタ星が瞬いている。