毎朝、お茶だけ買って行く者です。

そんな人、山ほどいるのに。

限りなくノーヒントに近いそのひとことからはじまった、一枚の紙切れ。

一番忙しい時間の終わり際。
一番端のレジの、一番後ろに並んで。

いつもの、おーいお茶の500ミリのペットボトルを、ちょっと丁寧にカウンターの上に乗せた彼が
随分使いこんだ、良く言えば味のある…ストレートに言っちゃうとちょっと汚い感じの
黒い財布から、いつものように1000円札を出すのと同時に

小さな、溜め息にも似た息と

飾り気のないシンプルな封筒を

ハイ。

と差し出してきた。



あー…

今日は朝から雨が降っていて
いつもはちゃんとセットしていた髪も
諦めて、ダッカールで適当に上げただけなのに。

とか、

梅雨も半ばなこんな時期。
洗濯ものが乾いてなくて、仕方なく選んだ
ヨレヨレで厚手のポロシャツが、センスのかけらもない全国共通の制服との相乗効果で
最悪なのにな…

とか…。

そんなことばっかり考えていて
預かった金額を読み上げることも
お釣りの額を伝えることも
ありがとうございました。
ということも、

顔を見ることも

もらった封筒へのリアクションすら

出来なくて。

最後、多分、こっちを見ながら、
いつものあの、柔らかい笑顔を見せていたんじゃないかなという気配を感じた気がして。
ハッと顔を、思い出したように上げたのは、彼の背中が完全にガラスの扉の外に出てしまった3秒後。
透明のビニール傘がバサッと安っぽい音を立てて開かれた瞬間だった。

なんだか、いつもより強張った感じがするワイシャツだけの背中。

緊張…してたのかもって、

カウンターの隅に残った長方形の封筒を
ヘへヘっ。と笑いながら見た。


梅雨の湿気をたっぷり吸った
柔らかい封筒が
彼の印象とぴったりで 手に持ってみて
また、ヘへヘへ。っと微笑んでしまう。


開けた中身の書き出しが、限りなくノーヒントでも、

もらった時に顔も見てなくても、

待ってた彼からの最初のアクションだったから…。



柔らかい封筒の中身の一番最後の
ちっちゃい、アルファベットと数字の羅列を

切ったばっかりの
まだネイルもしてない短い爪で、しろい携帯に、いっこずつ移していく。


最初は こうかな?


毎朝、いっぽんのおーいお茶をスキャンするときだけ、すごく緊張している店員です。