NaSSAって、日本では新しい機序の抗うつ薬として説明されることが多いけれど、米国あたりでは四環系抗うつ薬の1カテゴリーという位置づけだし、そもそもミルタザピン(レメロン、リフレックス)が最初のNaSSAではなくて、ミアンセリン(テトラミド)、セチプチリン(テシプール)もNaSSAにカテゴライズされている。


そもそもミルタザピンはミアンセリンの発展形とも言えるほど構造が似ているし、作用する部分も似ている。三環系抗うつ薬やSSRIなどではセロトニンやドパミンの再取り込みを阻害することに対して、ミアンセリンやミルタザピンは分泌を抑える受容体そのものをブロック(センサーを止める)することで、ノルアドレナリンやセロトニンの放出そのものを多くしようとするので、作用機序からすると確かに新しくて特異的であると言える。


で、このミアンセリン(テトラミド)は30mg1錠で48.4円、ミルタザピン(レメロン、リフレックス)15mgで169.3円と三環系抗うつ薬に対してかなり高めな設定をされていると思う。ミルタザピンの1日最高用量は45mgなので、3錠では507.9円と恐ろしく高い。


三環系のトフラニールは25mgで10.6円、150mg飲んでも63.6円しかしない。最強の抗うつ薬と言われるトリプタノールはもっと安くて25mgで9.6円しかしない。(まぁだからあまり儲からなくてMSDは日医工に譲渡したのだろうが)

じゃぁ三環系のほうがいいのかと言われると必ずしもそうではなかったりもする。トリプタノールクラスになると口渇や眠気の副作用がかなり強い。一方SSRIは(少なくとも自分には)まったく副作用がないとも言える程度。精神科が心療内科という言葉を使い、うつは誰でもかかる病気というマーケティングによって心療内科受診の敷居をさげ、そこで副作用の少ない薬を処方する。気軽に飲めるようにするには作用が少し落ちても副作用が少ないほうが受けが良い。


抗うつ薬市場が広がりを見せると、それに合わせて製薬会社は自社製品のマーケティング活動を行う。「副作用の多い」三環系や「眠気が強い」四環系よりも、SSRIやNaSSAは「新しい」薬としてこれまでの問題を解決して作用が期待できる薬と宣伝される。マーケティングには言葉が必要だし、イメージも大切。だから小難しい理屈を並べて新しい言葉を作り、従来のものとは画期的に違うことをアピールする。


SSRIになっても結局やっていることは三環系と同じ「再取り込み阻害」。副作用が少ないことは確かに服用者にとってありがたいが、従来の三環系抗うつ薬ではあまり見られなかった抗うつ薬服用による殺人などが問題になっている。(これは製薬会社のマーケティング戦略によって、抗うつ薬を入手することが容易になり、本来処方が必要ない人に大量の薬が処方されたためかもしれない。だとすればSSRIに限らずこうした問題は起こりうるので、処方する精神科医の責務は大きい)


NaSSAといっても、やっぱり四環系、眠気の副作用はかなりの人が感じるらしい(私は眠くならない)。ミルタザピンがNaSSAという新しいカテゴリーではなく四環系抗うつ薬としてカテゴライズされていたら、ここまで薬価が高くなかったものと思われる。


これと比較すると、新しい機序のはずのトレドミンの薬価は非常に安い。先発薬のトレドミンでさえ50mgで66.6円。ジェネリックも発売されて沢井製薬のものだと45.9円。1日の最高量は100mgなので、100円切ってしまう。


SSRIよりも新しいはずなのに、SxRIの中ではもっとも安い設定。これはミルナシプランが海外で抗うつ薬としてほとんど認められていないからなのか。ただ、ルボックスが先に出ているんだから同じ値段でもよさそうだけど、そのルボックスより安いのはどうしたことか。