うつ病の薬物療法は脳内のセロトニン(やノルアドレナリン)が減少しているという仮説に基づいた薬物治療が主となっている。


ところが、調べれば調べるほど、この「セロトニン仮説」には明確なエビデンスが無いらしい。


うつ状態に効果があった薬物がセロトニンに影響を与えているから、おそらく脳内のセロトニン減少がうつ病の原因なんだろう、という仮説があるだけ。生きている人間の脳内のセロトニン濃度を測る方法は無いそうだ。


これって実は大変なことなんじゃないかと思う。


1930年代に、人間の脳の前頭葉を切断するロボトミーが発明され、ロボトミーを初めて人間に行ったエガス・モニスがノーベル賞を受賞した。日本でも1940年代から1960年代に広く実施されてきた。今ではこうした「精神外科」は否定されているが、当時は30年以上にわたり問題点を認識されながらも一部では支持されていた療法だ。


抗うつ薬が世に出たのが1950年代。SSRIが発売されたのは1980年代。まだ30年くらいしか経っていない。最近ではSSRIに破壊衝動や殺人衝動を起こすのではないか、それが自分に向けられて自傷行為、ひいては自殺企図につながるのではないかと言われてきた。


1999年に米国で起きたコロンバイン高校乱射事件(2人の生徒が13名を殺害した事件)では犯人の1人から高濃度のルボックスが検出されたことが判っている。2007年にはバージニア工科大学で32人を銃で射殺したあと自殺した犯人もSSRIを処方されていたという。


何年か先に、果たしてSSRIは正しい選択だったのかと振り返ってみたときに、それがYESであると信じたい。100万人を超えるうつ病患者が抗うつ薬を処方されているが、問題を起こしているのは数えるほど。多くの人は抗うつ薬によって救われている。でもそれが本当に救われているのか、それが判るにはまだ時間が必要なのかもしれない。