福笑いがこの世で一番面白い遊びだと思っていた編集者の定(さだ)。紀行作家の父 栄蔵は世界中を旅し、変わった現地の風習や生き物、部族の面、女性器の形状区分など奇異な内容を原稿とした。定は幼少期に母が亡くなってから父と共に旅をするようになり、その旅で亡くなった人の体を焼き、その肉を削ぎ、口に含み、仲間と一体となって新しい生を生きるという習わしと出会う。大人になって礼儀正しく仕事が出来るが、どこか人間味に欠ける定。編集という仕事を通じて関わる人々により変化していく感情が描かれる。

目を伏せたくなるような習わし、顔が歪むほどのプロレス、目が視えない乳母と通行人、生物にとっての顔の重要性。色んなパーツが作中で、それこそふくわらいのように動き、また動き、収まっていく。

顔って何なのでしょうか?作中で定が守口廃尊に問いかけた後、でも「顔は食べられなかった。」というシーンが最もドキっとした。何故なんだろう。誰かの名前が出る時、頭の中で思い出されるのはその人の顔だし、このことで人間が認識するあらゆる生物にとって顔が持つ重要性の大きさを感じた。

以下、お気に入り引用

「やりたいんじゃないですか!一目ぼれだとか女神だとか綺麗なこと言っておいて、結局、やれたらそれでいいんでしょ!」

定は、小さな声で、小暮さん、と言った。だが、小暮しずくは聞かなかった。

「男って、皆そう!女とやるためなら全力を尽くすのに、やった途端態度が変わる!」

「態度は変わりません、ただ僕は定さんと、途方もなくセックスがしたい。毎日そのことばかり考えています。それの何が悪いというんですか、小島さん。」

「小暮だよ!」
小暮しずくは、腰を浮かせた。