フランケ財団(ドイツ、ハレ市) ~ペスタロッチよりも古い時代につくられた貧民学校~ | 原田信之(名古屋市立大学、元岐阜大学)

原田信之(名古屋市立大学、元岐阜大学)

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 ドイツのザクセン・アンハルト州、ハレ・ヴィッテンベルク大学の敷地に置かれているフランケ財団(Franckesche Stiftungen)。白壁に赤褐色の煉瓦屋根をいだく財団の建物は、歴史を感じさせてくれる。ドイツとして、ユネスコ世界文化遺産への登録を目指している。


 この大学の正式名称は、マルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルク(Martin-Luther-Universität Halle-Wittenberg)という。まず、1502年にヴィッテンベルク大学、続いて1694年にハレ大学が設立され、1817年に両大学は統合された。ドイツでも長い歴史を有する大学の一つといってよい。宗教改革の創始者マルティン・ルターの名が冠せられたのは1933年のこと。現在は、9つの学部に約2万人の学生を擁している。


 この大学を最初に訪れたのは、2002年3月のこと。事実教授学会の第11回全国大会がこの大学で開催されたときのことである。大会期間中には、事実教授学の父と呼ばれるヴァルター・ケーンライン教授(元ヒルデスハイム大学)の65歳記念式典も行われた。この時には私も共同で、「日本の生活科及び総合的学習における統合カリキュラムと社会文化的学習」についてポスターセッション発表をした。学会のオプション行事として、フランケ財団や18世紀初の図書館を見学したことは記憶に新しい。


 1698年に設立されたフランケ財団は、当時、ドイツ敬虔主義の中心地として大切な役割を果たした。その活動は、アウグスト・ヘルマン・フランケ(August-Hermann-Francke)に由来する。「誠(まこと)の愛の一滴は、大海のようにあふれ出る知識よりも尊い」という言葉を残している。

 1663年にドイツ北部のハンザ同盟の盟主と呼ばれたリューベックに生まれたフランケは、3歳の時に父親の仕事の関係でゴータに移り住む。エアフルト大学、キール大学で神学を学び、設立されたばかりのハレ大学に招聘され、当初はギリシャ語の、1698年からは神学の教授として従事した。


 ここで取り上げたいのは、ドイツで初めて貧しい子どもたちに教育を施すため、無償の貧民学校(Armen-Schule)をつっくた功績である。

 孤児を集めて教育を施した歴史上の教育者としては、ペスタロッチが有名である。1769年にノイホーフに拓いた農場、イヴェルドンの貧民学校は1804年のことである。フランケもまた、ペスタロッチと同様に、彼より数十年早く、ハレの地に貧民学校を開き、多くの貧しい子に教育を施したのである。

 フランケが64歳でこの世を去った1727年6月8日の時点で、ハレの貧民学校には134人の孤児を含む2200人ほどの生徒が生活していたという記録が残っているという。



原田信之(岐阜大学)-アウグスト・ヘルマン・フランケの銅像


 この学校では、どのような教育が行われていたのだろうか。『フランケ財団をとおして巡るハレ』という出版物から翻訳し紹介する。

 

 「フランケの学校は、・・・直観教授と結びつけた実科授業を導入することで、体系的に各教科を生活に近づけ、職業準備を行う教育に向けていくという目的を追い求めた。フランケはそれまでにない教育の標準を示したのである。後に芸術・自然収納室へと発展した直観教材のコレクション、飛躍的に集まった図書館の蔵書、植物園がフランケの学校の教育理念を支えた。ドイツにおける最初の教員養成所となるすぐれた教員セミナーが設立されたのが1696年のことである。これもフランケの大きな功績に数えられる。」(Thomas Müller-Bahlke/Edmund Baron: Rundgang durch die Franckeschen Stiftungen zu Halle. Verlag der Franckeschen Stiftung fliegenkopf verlag 2008より)


 ※以下の冊子も参考にした。Franckesche Stiftungen (Hg.): Francke-Denkmal, Franckesche Stiftungen zu Halle. Schnell+Steiner 2004.

 ところで、2011年11‐12月末にかけて、光栄なことであるが、同大学より客員教授として招聘を受け、教育学部において教育・研究に携わる機会をいただいた。この機会をつくってくれたのは、ミヒャエル・ゲーバウアー教授(Prof. Dr. Michael Gebauer、学校教育・事実教授研究所・所長)である。

 ゲーバウアー氏とは、2000年に客員研究員としてヒルデスハイム大学に滞在したときたからの友人である。事実教授、とりわけ環境教育の分野に造詣が深い。氏とは、「日独の児童の自然意識」について共同で比較研究を行ってきた。


最後に、その共同研究の成果を以下に紹介しておきたい。


①Gebauer, Michael/Harada, Nobuyuki: Wie Kinder die Natur erleben –Ergebnisse einer kulturvergleichenden Studie in Japan und Deutschland. In: Unterbruner, Ulrike (Hrsg.): Natur erleben. Studien Verlag, 2005, S. 45-61.
②Harada, Nobuyuki:
Aktiv erlebter Umgang mit der Natur – Perspektiven zum Verhältnis von Menschen und Natur. In: Gebhard, Ulrich / Gebauer, Michael (Hrsg.): Naturerfahrung. Die Graue Edition, 2005, S. 97-218.

③Gebauer, Michael/Harada, Nobuyuki: Naturkonzepte und Naturerfahrung bei Grundschulkindern – Ergebnisse einer kulturvergleichenden Studie in Japan und Deutschland. In: Sachunterricht in Praxis und Forschung, Probleme und Perspektiven des Sachunterrichts, 15. Gesellschaft für Didaktik des Sachunterrichts e.V.., 2005, S. 191-206

④Harada, Nobuyuki/Gebauer, Michael: Zwischen Shinto und Widersprüchlichkeit」(umwelt & bildung: Forum umweltbildung, 2/2004, S. 16‐17.

⑤Gebauer, Michael/Harada, Nobuyuki: Naturkonzeptionen von Grundschulkindern in Japan und Deutschland – eine kulturvergleichende empirische Studie (共同発表), Gesellschaft für Didaktik des Sachunterrichts e.V. , Jahrestagung 2004 an der Universität Potsdam.

⑥原田信之、ミヒャエル・ゲーバウアー「児童の自然意識に関する日独比較調査研究の報告 ―ケラート類型法に基づく考察―」(『生活科・総合的学習研究』第8号、2010年、1-7ページ)。