原田信之(中部大学、元名古屋市立大学、元岐阜大学)

ジョン・ハッティ(John Hattie)氏の講演会が、2026年3月18日に盛大に開催された。

 

開催地は、スイス・ドイツ語圏に位置する北西スイス教育大学。主催者は、教授学者ヴォルフガング・バイブル教授 (Prof. Dr. Wolfgang Beywl)であった。

 

ハッティの教育論はドイツ語圏において、ますます盛んに研究・実践されている様子が伝わってくる講演会であったようだ。

 

会場には、700名を超える参加者が集い、オンラインでも1000名を超えるアクセスがあった。

 

講演会とともにパネルディスカッションも開かれたこのイベントへの反響は、「学習の可視化研究が、授業や学校運営の改善に向けた具体的な指針を提供していることを如実に示している」とコメントされている(Newsletter Lernen sichtbar machen, Nr. 42, Mai 2026より)。

 

以下、ニューズレター(同)の内容をかいつまんで紹介する。

 

授業では、ほぼどんな働きかけでも効果をもたらすため、その影響力の強さが重要になる。

だからこそ、

  • エビデンスに基づいて授業に関する決定を行い、
  • 「評価的」に検証し、さらに発展させ、
  • それによって「好意的な意図」の域を超え、「実証された効果」へと到達することが重要になる。

その際、達成された成績レベルだけが重視されるべきではなく、むしろ学習における進歩こそが重要となる。

 

ハッティは、最も強力な影響要因を4つの「大きなアイデア」にまとめた。以下の図は、彼の講演の構成の軸となる、これらのアイデアを示している。

 

1.学習風土と教師の考え方が成果を左右する

 大きな学習の進歩の基盤となるのは、学習風土と教師の姿勢である。これに続いて学習プロセスが進行し、その後、学習者の成果が現れるが、その中心となるのは、学習者が学級やグループの一員としての帰属意識を持てること、間違えても学びの糧として前向きに捉える文化の醸成、そして現在の成績レベルを超えて全員に高い期待を寄せていることである。

 

2.学習者は自らの学習を自己操作的に進めるべきだ

 ハッティは、学習者がいかにして自らの学習を能動的にかたちづくれるかという問題を取り上げている。教師も学習者も、すべての人にとって、「何を」知っているかと「いかに」知っているかの違い、そしてその両者が互いに関連し合っていることが明確でなければならない。教え方の方略を、まずこの表面的な理解、次に深い理解、そして最終的には転移・応用的な理解に合わせて明確に調整することが極めて重要である。講演会では、これら3つの理解レベルに対して、どのような学習方略を指導し、習得させるべきかが示された。

 

3.自分の影響力を把握せよ

 可視化された学習の中心にある核心的な考え方は、優れた教師は、自分の授業が実際にどのような影響を与えているかを把握している、ということだ。このことを教師は教室に入るたびに常に自問すべきである。これにより、教師の役割は拡大する。つまり、教師は自身の授業を自ら評価する役割も担うことになるのだ。

 ハッティは、次のように問いかけることを促した。

 自分の授業は、意図した通りの効果を生徒に引き出せているだろうか?誰に届き、誰には届かなかったのか?私の指導法は、これをどの程度促進したのか、妨げたのか?

 教師は積極的にフィードバックを求めるべきであり、学習成果だけでなく学習プロセスも可視化し、エビデンスに基づいて振り返る必要がある。教師は好奇心を持つべきだ。

 

4.学習に対する責任を共に担う

 学習の可能性を広げるのは、個々の教師だけの役割ではなく、全員の共通の課題である。ハッティが見学し、北西スイス教育大学のチームが支援する2つの学校の事例のように、教師全体が教授と学習を可視化すれば、明確な集団的な有効性への期待が生まれる。これは、学習の進歩と最も強く関連している要因の一つである。

 

さっと、以上がニューズレターが伝えている講演会のダイジェストである。

 

ハッティ研究に基づく実践は、着実に浸透していっているように見うけられる。

 

 

『スクールリーダーのための教育効果を高めるマインドフレーム:可視化された学校づくりの10の秘訣』

 

ジョン・ハッティ、レイモンド・スミス 編著
原田 信之 訳者代表


子どもも教師も伸ばす学校経営

 本書は、生徒の学力を高める学校を導く「できる」リーダーの特性はどのようなものかについて「10のマインドフレーム」を紹介している。特徴的なのは、「何を実践するか(すべきか)」という行動の提示ではなく、その根底にあるべき「なぜそれを実践するのか」という信念や価値観(マインドフレーム)に着目しているという点であろう。
 また、子どもがよく学び育つ学校と、教師が力を発揮し、能力を伸長させる学校には共通性がある、という考え方が一貫している点も特徴的である。すなわち、よく子どもを伸ばすための教育や学習のデザインは、そのまま教師の力を伸ばす学校マネジメントにも応用できる、という考えが示されている。
 これを受けて、10のマインドフレームは、学校が向かうべき方向性に関する「診断」の場面のもの、診断を受けて「介入」を検討する場面のもの、それらを同僚教師との協働において「実施」する場面のもの、その結果を適切に「評価」して次のサイクルに向けた「診断」として活用する場面のもの、といったように、生徒の学習に関する改善プロセスになぞらえて提示される。目の前の子どもの学力を伸ばすべく備えるマインドフレームが、部下・同僚や組織の力を伸ばすのにも活用できるという構造は、「良い教師」と「良い管理職」を連続的に捉えるヒントにもなるだろう。
(2970円 北大路書房)


(川上 泰彦・兵庫教育大学教授)

 

日本教育新聞↓

https://www.kyoiku-press.com/post-263215/

フィードバックの効果量の分散原因

 

 フィードバックの効果量の分散原因を探るために、25のメタ分析のいくつかから確かめておこう。

 

 まず、スタンドレーの「教育/治療目的の強化としての音楽の効果に関するメタ分析」(1996)に示されたフィードバックの効果量は2.87、リサコヴスキー&ウォルバーグの『教室での強化学習』(1980)に示された効果量は1.17、ウィットらの「教師の即応性と生徒の学習との関係:メタ分析」に示された効果量は1.15、スワンソン&ルシア「ダイナミックなアセスメントに関する実験的文献の選択的統合」(2001)に示された効果量は1.12と極めて高い結果を示している。一方、スーザン・ウィルキンソン『教師の賞賛と生徒の学力の関係性』 (1980)に示された効果量は0.12、賞罰を影響要因として分析したゲッツィーらの「子どもの識別学習におけるフィードバックの種類と組み合わせの効果に関するメタ分析」(1985)に示された効果量は0.14など、効果がわずかしかないものが含まれていることがわかる(ハッティ 2017、付表B「900超のメタ分析結果」参照)。

 

 そもそもフィードバックとは、「課題に関する現状の理解と目標とされる理解の程度との間の隔たり(gap)を埋め合わせるために提供される情報」(本書4頁)のことである。この課題に関する現状と目標(達成規準)との間の隔たりを埋め合わせるために差し向けられる支援的な指導行為に着目したのはランプラサードである。ランプラサードは、「フィードバックとは、あるシステム要因の現状レベルと参照レベルとの隔たりに関する情報であり、その隔たりを何らかの方法で修正するために使用されるものである」(Ramaprasad 1983, p.4)とした。

 

 学習目標(達成規準)に近づけるために提供される情報がフィードバックであるとすると、それを受けとる生徒側は、教師からどのような情報が与えられることを期待しているのだろうか。それは「さらによくできるように、活動をどのように改善すればよいのか」(ハッティ&イエーツ 2020、102頁、引用文中の傍点省略)がわかる情報であり、これは学習目標との隔たりを埋め合わせ、目標に接近していくのに有意な情報のことである。

 

 ハッティによれば、生徒の側はうまくいかなかったことや、やり残したことがあったとしても、その過ぎ去った過去のことを考えるより、「次はどこに向かえばよいのか」という未来志向のマインド傾向を有するという(同102-103頁)。反対に、生徒が望まないのは「不必要に長たらしく、個人的に傷つけられるように感じる批判」(同102頁)である。教師側からすると、生徒の誤認や間違いを修正するのに有益な情報を与えているつもりの言葉、すなわち、教師には生徒のためを思ってのフィードバックのつもりのものが、批判めいた言葉として受けとられ、結果的に「生徒の目には個人的で勝手な評価と映ってしまう」(同)ことがあるという。ここで考えるべきは、生徒の誤認や間違いは数が多いうえに目立ちやすく、教師側からすると可視化しやすい(取り上げやすい)ということである。「教師はあたかも負のフィードバックを通してその情報が獲得されるかのようにしばしば振舞ってしまう」(同103頁)ことである。つまり、教師から生徒への口頭フィードバックは、意図的ではないとしても、誤認や間違いをあげつらうのと大差ないような言葉を生徒に返していることも起こりうるということであり、繊細に扱うべき教育行為である。教育方法を通しての教師の成長という視点からも、フィードバックの奥は深い。

 

「あとがき」(『教育の効果:フィードバック編』法律文化社、2023年6月、248-250頁)より抜粋

 

 

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