解いてみた。

〔設問1〕

民事訴訟法上採り得る手段は、Wを被告として建物退去土地明渡しを求める訴訟を、本件訴訟を提起した裁判所に提起し、口頭弁論の併合を求める職権の発動(民事訴訟法152条1項)を求めることである。
なお、本訴を提起した時点で既にWに乙建物が賃貸されていたという本件では、Yを被告とする建物収去土地明渡請求とWを被告とする建物退去土地明渡請求とは、「訴訟の目的である権利又は義務が・・・同一の事実上又は法律上の原因に基づくとき」(同法38条前段)に該当し、共同訴訟として訴えることができ、さらに「その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合」(同法9条)として、重複する限度で訴訟物の価額を抑えることができ、印紙代の節約にもなるが、上記方法によると、新たにWを被告として新件を提訴することになるため、通常は、訴状の受理に際し、別途印紙代の支払を請求されることになる。そのため、本件訴訟を審理する裁判所(裁判体)に対し、訴えの変更(同法143条)と同様の手続により、Wを被告とする建物退去土地明渡請求を追加することができないか(いわゆる主観的追加的併合の可否)が問題となり得るが、現在の運用上は、明文の規定によらないかかる取扱いは認められていない。

【補足】
なお、本件は、「訴訟の係属中第三者がその訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継したとき」(同法50条)ではなく、訴訟の係属前からWの地位に変化はないから、訴訟引受けによりWに訴訟を引き受けさせることはできない。

別訴提起+併合上申しかないと思われるが、それだけだとあまりにも寂しいので、主観的追加的併合に触れざるを得ないか。


〔設問2〕

口頭弁論期日における、Yの、AX間で本件売買契約が締結されたことを認める旨の陳述は、自己に不利益な陳述であり、「自白」が成立する。したがって、Yは、本件訴訟において、これに両立しない事実主張をすることが許されず(当事者拘束力・撤回禁止効。弁論主義の第3テーゼ)、裁判所も、これと異なる認定をすることは許されない(裁判所拘束力。同第1テーゼ)。

①② Wは、訴訟が係属した平成26年4月21日以降に甲土地上の乙建物を本件訴訟の被告であるYから賃借しており、かかるWが本件訴訟に当事者として参加する方法としては、義務承継人の訴訟参加(法51条)によることになる。
この場合、法47条から49条までの規定が準用されることになり、参加した者(義務承継人)と被参加人(被承継人)のうち、一人の訴訟行為は、他の当事者の利益においてのみその効力を生ずることになる(法47条4項により準用される40条1項)。
したがって、②Wが本件訴訟に当事者として参加した後の口頭弁論期日において、Yが自白をした場合には、Yの自白(不利益な事実の陳述)は、効力を生じない。
他方、①Wが本件訴訟に当事者として参加する前の口頭弁論期日におけるYの自白は、その効力を制限する規定がないため、有効に成立し、Y及び裁判所を拘束することになる。そして、かかる訴訟に参加した者(承継人)は、かかる被承継人の地位を承継し、その訴訟行為を前提として訴訟に参加することになるから、承継人であるWは、参加前に生じたYの自白の拘束力を受けることになり、Yのみならず、WもYの自白と両立しない事実主張をすることが許されないこととなる。

【補足】
かかる拘束力を認めることは、当事者としてのWの権利を害することになるとも思われるが、かかる拘束力があるからこそ、義務承継人に訴訟参加という手段も認められている(訴訟参加後の被参加人の自白が効力を有しないことは前述のとおり。)のであるから、Wの権利がただ制限されているということになるわけではない。


③ 他方、Wに訴訟を引き受けさせる旨の決定をした場合(法50条1項)には、同時審判共同訴訟の規定が準用され(法50条3項)、弁論及び裁判の分離が禁止される(法50条3項による41条1項の準用)が、法40条の規定は準用されていないから、共同訴訟人独立の原則が妥当することになる(法39条)。したがって、Yの自白は、Wには効力を及ぼさず、Wは独自にAX間で本件売買契約が締結された事実を争うことができる(主張共通の原則の否定)。

【補足】
なお、同じ事実状態を前提としつつ、一方では共同訴訟人独立の原則が妥当し(訴訟引受けの場合)、他方ではこれが妥当しないで全員の利益においてのみ訴訟行為の効力が認められる(訴訟参加の場合)ということになるが、これは、訴訟参加が、共同訴訟における合一確定の併合審判の技術(法40条)を応用し、これにより既存の当事者の訴訟追行を牽制してその間に自己に不利な判決が生じることを阻止しながら、自己の請求を貫徹し、あるいは統一的解決を図るための訴訟追行の地位と機会を確保するための制度であるがゆえである。

【更に補足(蛇足)】
なお、既存の当事者(被承継人)からすると、自己の訴訟に別個の訴訟物が追加され、手続が重くなり、訴訟追行の事由もある程度制約を受けざるを得ないという点で、承継人とは利害が対立する関係にあることになる。したがって、そのような参加を許すのは一定の場合に制限されており、また、被承継人については、相手方の承諾を得て訴訟から脱退することも認められている(法51条による48条の準用)。


条文を忠実に適用し、あとはリーガルマインドに頼るのみ。
裏は取れていないけど、まあ、あり得る結論かと思う。


<追記>

主観的追加的併合が認められない理由について、判例によると、
①かかる併合を認める明文の規定がないのみでなく、
②これを認めた場合でも、新訴につき旧訴訟の訴訟状態を当然に利用することができるかどうかについては問題があり、必ずしも訴訟経済に適うものでもなく、かえつて訴訟を複雑化させるという弊害も予想され、また、
③軽率な提訴ないし濫訴が増えるおそれもあり、
④新訴の提起の時期いかんによつては訴訟の遅延を招きやすいこと
などを勘案すれば、所論のいう追加的併合を認めるのは相当ではない、
ということのようです。
追加される当事者の地位の不安定、というのは、主観的「予備的」併合の場合のキーワードだけど、主観的「追加的」併合の場合には、妥当しないっぽい(確定的な追加であって、地位は不安定ではない。)。
解いてみた。

〔設問1〕

(1) Yは、Xに対し、甲土地について平成15年12月1日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

司法研修所的には、
事件類型:所有権移転登記「手続」請求
訴訟物:(所有権に基づく妨害排除請求権としての)所有権移転登記・・請求権
請求の趣旨:被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の不動産について平成○年○月○日○○を原因とする所有権移転登記「手続」をせよ。
という、訴訟物だけなぜか「手続」がないことになっている(いた)が、厳密には、相手方(私人)に対して請求できるのは、「手続」であって、登記そのものは登記官にしてもらうものなので、訴訟物も「手続」を入れる方向で変えるべきという批判があったような。

いずれにせよ、ポイントは、
①「手続」が入っているか。
②登記原因は特定されているか。
③「所有権登記」などという不正確な用語が使用されていないか。(こちらの方が重傷)
と思われる。

③についていえば、
[所有権/移転/登記手続]というように分析すれば、
何か抜けるということはないはず。

なお、「別紙物件目録記載の甲土地」と記載したいところであるが、「甲土地」で既に特定されている(甲土地=別紙物件目録記載の土地)ため、不要だと思われる。

いずれにせよ、本来的には考えるまでもない瞬殺の設問。


(2) 足りる。
贈与契約(民法549条)の成立により、贈与者は、受贈者に対し、贈与の目的である物についての権利移転義務を負い、贈与の目的が不動産の場合には、所有権移転登記手続義務を負う(債権的登記請求権)。そして、贈与契約は諾成契約であり(民法549条)、契約締結の事実のみで贈与契約が成立し、贈与者は、受贈者に対し、前記義務を負うことになるから、その余の事実は、所有権移転登記手続請求権を理由付ける事実としては不要である。

【補足】
なお、他人の財産を贈与の目的物とすることも可能であり、その場合には、贈与者は他人の財産を自己の財産としたうえでこれを受贈者に移転する義務を負うことになるだけであるから、贈与者(Y)が贈与の目的物の所有権を有すること(有していたこと)、及び贈与者(Y)が贈与の目的物の所有権登記を有していることは、所有権移転登記手続請求権を理由付ける事実としては不要である。

債権的登記請求という理解さえ示せれば、特に問題ないように思われる。


〔設問2〕

(1)
〔ア〕 Xは、平成25年12月1日経過時、甲土地を占有していた。

「現在」甲土地を占有している、と書きたくなるかもしれないが、時効取得後の第三者との関係があるため、要件事実的には、時効期間経過時の占有が問題となる。


〔イ〕 甲土地について、Y名義の所有権移転登記がある。

通常は、「別紙登記目録記載の所有権移転登記がある」という記載をするが、問題文からすると、この記載で問題ないと思われる。


(2)
【妨害排除請求権の要件事実】
物権に基づく妨害排除請求権の発生要件は、(ア)原告が物権を有していること、(イ)被告が原告の物権を(占有以外の方法により)侵害していることであり、本問では、(ア)原告の物権として所有権が主張されているので、その取得原因事実を主張する必要があり、(イ)被告が原告の物権(所有権)を侵害していることを基礎付ける事実として、⑤の事実を主張する必要がある。

【所有権の取得原因事実】
(ア)に関し、本問では、所有権の取得原因事実として、短期取得時効(民法162条2項)が主張されているが、短期取得時効の要件事実のうち、「所有の意思」、「平穏」、「公然」及び「善意」は、民法186条1項により暫定真実となり、その反対事実が再抗弁となるため、これらは短期取得時効を基礎付ける請求原因とはならない。他方、当該不動産を自己の所有と信じたこと(無過失)は暫定真実とはならず、短期取得時効を主張するものがその主張立証責任を負う。
したがって、短期取得時効の要件事実は、(a)10年間の占有継続、(b)占有開始時における無過失、及び(c)時効援用の意思表示(民法145条)となる。よって、(b)を基礎付ける事実として③の事実を、(c)を基礎付ける事実として④を、それぞれ主張する必要がある。
また、(a)10年間の占有継続については、その両端の時点における占有を主張すれば、民法186条2項により、その間占有を継続したものと推定される(法律上の事実推定)。よって、(a)を推定させる事実として、①及び②の事実を主張する必要がある(なお、①及び②の事実の主張に代えて、「Xは、平成15年12月1日から甲土地を占有している。」との主張をすることも許される。証明主題の選択)。
他方、自己の物の時効取得も認められるから、従前誰の所有であったかを確定する必要はなく、したがって、「他人の物」であることは要件事実とはならない。

【補足】
①に関し、時効起算点の任意選択は許されないが、公平の見地から、「20年間(又は10年間)占有を継続していたこと」が要件事実となり、「原告の主張する時点より前から占有していたこと」が抗弁に回る。したがって、①に関し、「占有を開始したこと」は要件事実ではない。

要件事実の説明問は頻出なので、書き方はパターン化しておいた方がよさそう。研修所まで使う。


(3) 甲土地が自己の所有に属すると信じるにつき過失がなかった(無過失)か否かは、そのように信じる以前の認識(事情)をもとに判断されるものであり、掲記の事実は、そのように信じたと主張する時点より後の事情であるから、無過失の評価根拠事実としては不適切である。

【補足】
なお、掲記の事実は、所有の意思及び善意を基礎付ける間接事実足り得る。


〔設問3〕

弁護士Qとしては、短期取得時効の請求原因に対し、他主占有権原(所有の意思の不存在)の抗弁をすることになると考えられる。
所有の意思の存否は、(ア)占有所得の原因である権原又は(イ)占有に関する事情により外形的客観的に定められる。したがって、所有の意思の不存在としては、(ア)その性質上所有の意思が認められない権原に基づいて占有していること(他主占有権原)、又は(イ)所有の意思がないと評価される、占有に関する事情(他主占有事情)のいずれかを主張することになる。
本問では、他主占有権原として使用貸借を主張するものであるから、「Yは、Xに対し、平成15年11月1日、甲土地を、期間の定めなく、無償で貸し渡した。」との事実を主張することになる。

【不明点】

「いずれの請求原因に関するものかを明らかにした上で」というのがよくわからん。贈与契約と短期取得時効とを「請求原因」とする趣旨か、①ないし⑤までの各事実を請求原因とする趣旨か(後者だとわけわからなくなるので、前者で考えざるを得ない。)。


〔設問4〕

(1) Xに有利な事実への反論
 YからXに対し、平成15年11月1日に甲土地の権利証を交付した事実はあるが、これは、旧建物を取り壊すに際し、権利証を保管する場所がなくなるため、保管を依頼する趣旨で交付したものである。
 甲土地上のY名義の旧建物は取り壊され、耐用年数が長い鉄筋コンクリート造の新建物がXの費用で建築され、当該新築建物はYの意向も踏まえた二世帯住宅であり、その後Yは新建物でXと同居し、Xに生活の面倒を見てもらっているが、これらは、直ちに新建物建築時点で甲土地がXに贈与されていたことを推認させるものではなく、Yの主張する使用貸借とも矛盾しない事実である。
 平成16年以降、甲土地の固定資産税等の支払は、Xが行っているが、使用貸借の借主が通常の必要費を負担することは当然(民法595条1項参照)であり、Yの主張する使用貸借とも矛盾しない事実である。
 以上のとおり、本問において、甲土地を贈与したことを前提としなければ合理的に説明できない事実はない。

(2) Yに有利な事実
 他方、真実、YからXに対し、平成15年11月1日に甲土地が贈与されていたのであれば、贈与税の申告をしていないことの説明がつかない。
 また、甲土地の贈与に関する書面はなく、贈与の事実を証する書面がなければ、登記義務者であるYの意思を離れてYからXへの甲土地の所有権移転登記手続をする方法はないにもかかわらず、未だYからXへの所有権移転登記はなされていない。真実、平成15年11月1日の時点で贈与がなされていたのであれば、贈与の書面がなく、所有権移転登記もなされていない、という事実状態を合理的に説明ができない(Yが翻意した場合のみならず、Yが死亡した場合にも、生前贈与の事実を証するものはXの証言以外なにもない、という事態に陥ることは明白であり、Xがそのことを認識していないはずがない。)。
 以上のとおり、本問において、甲土地を贈与したとすれば合理的に説明できない事実が存するのであって、贈与の事実がないことは明らかである。
 
贈与税の無申告が決め手か。登記をしなければ贈与税の申告はしなくてもいいと思っていた、という主張がなされる可能性もあるが、税理士に対する相談もしていない(していれば、そのことは尋問で出ているはず。)し、じゃあ、いつ登記するの?登記をする必要が生じたとき=Yが翻意する可能性が出てきたとき?Yが翻意したときに、登記をする手段は講じているの(→贈与の書面なし)?権利証があればいいと思った?司法書士には相談したの?相談もせずにそう思っていただけ?それを裁判官が信じてくれると思うの?贈与がされたんじゃなくて、相続を期待していただけじゃないの?ということになると思われるが、本問で記載すべきこととしては、上記程度でいいのかな、と。


〔設問5〕

省略

問題を見た以上、今の司法試験受験生の思考方法が気になって、巷の再現答案を見てみる。


以下、感想。



〔設問1〕


・代理人による契約が有効となるためには、先立つ代理権の授与が必要。

  ↓

 本件ではない。

  ↓

 よって、原則として無効。

  ↓

 もっとも、追認ある場合は、遡及的に有効となる。

  ↓

 本件では、追認ある。


という件って、やはり必要なんでしょうか。


基本的に、司法試験は、実務家登用試験なので、裁判官相手の主張書面をイメージして採点することになるんじゃないかと思います。


訴状とか、準備書面で、こういう流れって、書くんでしょうか。


もちろん、法律の素人に対し、本件がどういう解決になるか、という法律相談をイメージした説明が求められる、と解する余地もあります。


しかし、法律の素人に対し、「原則として、先立つ代理権の授与が必要なんだけど、本件ではないよね。だから原則として無効となるんだよ。でも、民法上は、追認があれば、遡及的に有効となるんだ。本件では、追認あるよね。」という話をするんでしょうか。



端的に、本件では、


・先立つ代理権の授与のない事案

→代理人による効果が本人に帰属するためには、追認が必要。追認があれば、遡及的に有効となる。


でいいんじゃないかと思うんですよね。コンパクトにまとまるし。



で、本題。


まず、書面の交付がない、という問題点を指摘しているものがあるが、民法上要求されているのは、書面の作成(保証意思の書面への顕出)であって、交付ではないはず。


問題文に、書面の交付がない、とあるので、それに引きずられたのかもしれないが、書面の交付が民法の条文とどう関係があるのか示せていないのは、残念だと思う。




あとは、有効か無効かだけれども。


最初は、原則無効かと考えていたのだが、どうやらそうでもないのかなと。



民法上は、「保証契約」を書面でするものとされている。


これを字義どおりとらえると、代理人による保証の場合、代理権授与に書面性が求められるのではなく、代理人のなした「保証契約」の締結に書面性が要求されることになるはず。


つまり、先立つ代理権授与の場合であれば、「保証行為」の代理権を授与すれば、代理人が書面で保証契約を締結すれば、民法446条2項の要件はクリアする、と考えられる。


その場合に、保証人の保護に欠けるのではないか、という気がしなくもないが、代理行為の瑕疵についての判断基準が代理人にある(民法101条1項)ことをも考えると、代理人が、保証契約の内容を理解して保証すれば、民法446条2項の要件はクリアしている、と考えるのにも、一応筋は通ってると思う。


その場合に、代理人が勝手なことをすれば、代理人の責任を追及すればよい話である。


「代理人に保証契約を締結することは認めたけれど、保証契約を書面ですることは認めていない」という抗弁を、代理人を使用した保証人に認める必要はないだろう。



他方、追認の場合にどうかというと、やはり代理人を使ってやっている以上、代理人が保証契約を書面でしていれば、基本的に民法446条2項の要件をクリアしていると考えてよいのではなかろうか。


無権代理行為の追認というのは、代理人として契約する権限を事後に追完する、という趣旨でなされるものであり、代理人の意思表示が適式になされていれば、その効果を本人に帰属させることに支障はない、というのも、悪くない筋だと思う。



ただ、前の記事に書いたとおり、長崎地判平成21年12月22日は、どうやら「無権代理行為による保証契約を追認する旨の意思表示についても、これによって保証契約が効力を有するためためには、その追認の意思が書面により外部的にも明らかになっていることが必要であると解される。」としているらしい(公刊集未登載のため、詳細不明)ので、保証人保護のため、そっちの方向で立論するのも間違いではないのだろう。


ちなみに、東京高判平成24年1月19日は、保証意思の確認についても丁寧に事実認定をしているので、必ずしも「追認」そのものに書面性を要求しているわけではない、といえると思う。



ちなみに、上記のように、代理人が書面で保証契約を締結していれば、代理人の法律行為に対する権限付与(代理権授与ないし追認)そのものに書面性を要求しない、という立場に立った場合、代理人に対する信頼(=その信頼を裏切った場合の責任追求)が前提となるから、単なる「保証意思」の確認だけではなくて、「代理人による保証契約の締結」に対する確認(追認)が必要になるはず。


そう考えると、前記東京高判も、整合的に理解できるんじゃなかろうか。



〔設問2〕


不当利得構成が少なくないのが気になる。


不当利得は、契約関係がない場合の裏庭、というような話を聞いたことがないのだろうか。


契約関係に基づく請求と不当利得返還請求を両方立てるのも意味がわからない。



確かに、不法行為と契約責任を両方立てることはないわけではない(医療過誤や安全配慮義務違反等)。


しかし、不当利得と契約責任を両方立てる、というのは容易に想定し難い。

(契約当事者間の信義則上の義務違反を主張しつつ、それがなくても不当利得、というような主張はあり得るかもしれない。)



本件では、賃借物を傷つけてはいけない、というのは、当然賃借人の義務内容を構成しているので、どう考えてもその不履行に対しては契約責任を追及できるのであって、不当利得返還請求が出てくる余地はない、はず。



で、不法行為は、民法716条があるので、基本的にアウト。


その場合に、債務不履行責任を問えるか、というのが問題の所在かと。



〔設問3〕


基本的に、判例の事案は執行妨害的要素がある、本件ではない、よって判例の射程は及ばない、という答案しか目にしない。


法科大学院のレターでも、そのような検討しかなされていないものが出回っているので、それを理由として不合格にはできないのだろう。


◆参考:鹿児島大学法科大学院 KULS ニューズレター No.47

http://www.ls.kagoshima-u.ac.jp/news-letter/data



しかし、あの最高裁の判旨からは、執行妨害事案に限定していると読むのは困難じゃないかと思います。


最高裁の射程の論じ方(射程の対象外との主張の仕方)には、

①判例の規範に当てはめて、判例と逆の結論を導く。

(ただし、それで逆の結論が導けるのであれば、そもそも最高裁の射程の範囲内、ということになる。)

②判例の理由付け部分が、本件では及ばない、とする。

(理由付けが妥当しない以上、一般化した規範も及ばない、という論理。)

③判例のもととなった事案と、本件事案の違いを述べる。

(最高裁はここまで考えが及ばなかったかもしれないけれども、こういう事案ではさすがに不都合じゃないですか、という論理。)

というレベルがあると思います。


基本的に、上のレベルの方が、裁判所には受けがいいはずです。最高裁の考え方を否定しなくて済むので。



で、本件がどうかというと、執行妨害事案云々は、判旨のいずれも(規範も理由付けも)否定していない(できていない)ということになります。


最高裁は、

「抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理由はないというべきである」

と言っているわけですから、

いやいや、本件では、優先させる理由があるんです、あるいは、相殺を認めても、特に賃借人を優先させているわけではないんです、というのが、最高裁判例を前提とした射程の論じ方、だと思います。


執行妨害事案でないので、相殺に対する賃借人の期待を優先させるべき、というのは、最高裁判例を踏まえた射程を論じられていない(まず裁判所が採用するものではない)と感じるのは私だけでしょうか。



もちろん、現場でどこまで思いつくか、というのはあると思いますが、

「本件」の射程をできる限り狭くし、これこれこういう事情があるから、最高裁とは逆の結論を採るんです、というところまでは示したいところだと思います。


判例が執行妨害的事案(+相殺合意)を前提とした特殊な事案、という前提で論じるのであれば、判旨でなぜ一般化しているのかの説明に窮すると思います。


本件の限定要素としては、

①執行妨害事案ではない。

②賃貸人との契約(合意)によって生じた債権ではない(≒性質としては法定債権)。

③賃貸借契約の本質的要素に関わる債権(→賃料との対価関係が強い)。

④賃料債権との同時履行関係にある。

というものがあると思います(下にいくほど「本件」の射程を限定)が、①だけを示すのでは、物足りない(最高裁判例の射程をそこまで限定する裁判官を期待するのは難しい)と思います。


まあ、判旨だけではなく、事案の概要をも示して判例の射程を論じさせていることからすると、事案の違い(執行妨害事案ではない)ということを示すだけでも、ある程度(一応の水準にあると認められる)点数は入るんだと思いますが。

平成25年の司法試験の問題が公表されたので、ちょっと見てみる。


気になる民事系第1問(民法)から。



〔設問1〕


何というか、保証の書面性の要件について、とある筋から東京高裁の判例(最高裁HPに掲載中)が金融法務事情に掲載されているらしいと聞き、つい最近チェックしていたこともあり、それがタイムリーに出題されていることに吃驚。


「無権代理行為による保証契約を追認する旨の意思表示についても、これによって保証契約が効力を有するためには、その追認の意思が書面により外部的にも明らかになっていることが必要であると解されるところ、そうした書面は存在しない。」として、保証契約の効力を否定した裁判例(長崎地判平成21年12月22日)があり、これに関する初めての高裁判例が東京高判平成24年1月19日という位置付けらしい。


上記東京高裁も、1年以上前に出されているので、通常の法科大学院生であれば、その存在くらいは知っているということになるのだろうか。


それは、さておき、この裁判例等を踏まえ、設問1について考えてみると、おおよそこんな感じになるのだろうか。


1.AがCに対して保証債務の履行を請求するのに必要な主張


要件事実的には、保証債務の履行請求に必要な要件事実(請求原因事実)は、

・主債務の発生原因事実

・保証契約の成立

・保証の意思表示(ないし保証契約)の書面性

であり、無権代理人が締結した契約の効果が本人に帰属するために必要な要件事実は、

・無権代理人による法律行為

・顕名

・本人による追認

である。


したがって、Bの売買代金債務につき、Aが、Bと締結した保証契約に基づき、Cに対して保証債務の履行を請求するのに必要な要件事実は、

・AB間の売買契約の締結(主債務・Bの売買代金債務の発生原因事実)

・AB間の保証契約の締結

・上記保証契約における、Bの顕名(Cのためにする表示)

・Cによる、AB間の保証契約の追認

及び

・保証の意思表示が書面でなされたこと

である。


2.前記1の主張に含まれる問題点


保証契約は、書面(ないし電磁的記録)でしなければ、その効力を生じない(民法446条2項及び3項)。


本件においては、代理人Bによる保証の意思表示は、書面でなされている。

そして、本人であるCも、Bからその書面を見せられて追認を求められていることから、当然Bによる保証の意思表示が書面でなされていることを認識しているといえる。


しかしながら、保証人となるCによる追認の意思表示自体は、書面でなされているわけではない。


したがって、このように、第三者が保証人となる者の代理人として保証契約を締結した場合において、民法446条2項に規定する要件(保証の要式性)を満たすために必要な書面の内容が問題となる。


民法550条については、贈与の意思を確実に看取しうる書面であれば足りると解されているが、この規定は、一方当事者による贈与の撤回を制限する規定であり、民法446条2項の趣旨とは明らかに異なり、同様に論ずることはできない。


(民法550条を出す必要はないが、東京高判の事案において出されている反対説が、おそらく民法550条を意識したものであるため、知識をアピールするためにも出して損はないはず。)


民法446条2項の趣旨は、保証契約が無償で情義に基づいて行われることが多いことや、保証人において自己の責任を十分に認識していない場合が少なくないことなどから、保証を慎重にさせることにある。


かかる趣旨及び規定の文言からすれば、同項は、保証契約を成立させる意思表示のうち、保証人になろうとする者がする保証契約申込み又は承諾の意思表示を慎重かつ確実にさせることを主眼とするものということができるから、保証人となろうとする者がする保証契約申込み又は承諾の意思表示を書面でしなければその効力を生じないとするものであり、保証人となろうとする者が保証契約書の作成に主体的に関与した場合その他その者が保証債務の内容を了知した上で債権者に対して書面で明確に保証意思を表示した場合に限り、その効力を生ずるものと解すべきである。


そして、保証人となろうとする者がする保証契約の申込み又は承諾の意思表示は、口頭で行ってもその効力を生じないものであるから、保証債務の内容が明確に記載された保証契約書又はその申込み若しくは承諾の意思表示が記載された書面等にその者が直接署名し若しくは記名して押印するのでない場合には、その内容を了知した上で他の者に指示ないし依頼して署名ないし記名押印の代行をさせることにより当該書面等を作成したとき、その他保証人となろうとする者が保証債務の内容を了知した上で債権者に対して書面でこれと同視し得る程度に明確に保証意思を表示したと認められるときに限り、その効力を生ずる者と解するのが相当である。


本件については、保証債務の内容が明確に記載された保証契約書を作成したのは、A及びBであり、Cは、その作成に一切関与していない。

そして、Cは、BがCの代理人として署名した当該保証契約書をBから見せられてはいるが、かかるBの署名は、当該保証契約書の内容を了知した上でCから指示ないし依頼を受けて署名されたものではなく、その他Cが保証債務の内容を了知した上で債権者であるAに対して明確に保証意思を表示したと認められる書面は存しない。


よって、本件については、AのCに対する保証債務の履行請求は、認められない。



裁判例を一切知らなくても、保証人の保証意思につき、書面性が要求されるというところから考えれば、この筋は導き出せるかもしれないが、Cが明確に追認の意思表示をしていることからすると、純理論的にこの結論を導くのには抵抗があるかもしれない。

前記東京高判の原審が保証契約の成立を認めていることも考えると、その結論が直ちに不当とも言えないとは思うが、理論的には保証契約の成立は否定されるが、信義則上その不成立を主張できない、とかすると、保証契約の書面性の要件をなんと心得る!!とか言って逆鱗に触れたりするのかもしれない。



〔設問2〕


設問1が難しいので、サービス問題なんだろうか。基本的理解を見るのは、むしろこちらか。


1.BがFに100万円の支払を求めるためになし得る主張


賃借人Bは、賃借物である丙建物の1階部分について、これを返還するまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存する義務を負う(いわゆる善管注意義務。民法400条)。


丙建物の1階部分の雨漏りは、Fから内装工事を受注したHが誤って丙建物の一部に亀裂を生じさせたことが原因である。


Fから内装工事を受注したHは、Fの履行補助者といえるから、Hが誤って丙建物の一部に亀裂を生じさせた行為は、信義則上、F自身の故意・過失と同視すべき事由にあたる。


したがって、賃貸人たるBは、賃借人Bに対し、上記善管注意義務に違反して丙建物の一部に亀裂を生じさせたことにより負担を余儀なくされた100万円の修繕費用につき、損害賠償を請求することができる。


2.前記1の主張に対し、Fがなしうる主張


① そもそも、賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う(民法606条)のであって、かかる修繕費用に相当する100万円の修繕費用を、賃借人たるFが負担する理由はない。


② また、Hは、Fから内装工事を受注したとはいえ、飲食店の内装工事を専門とし、内装業を営む専門業者である。


しかも、内装の仕様及び施工方法について、Hと検討した結果の概要をBに説明したうえ、それに従いHに内装工事を行わせることについてBの承諾を得ている。


Fは、これを受けて、Hに内装工事を発注しているのであって、HをFの手足ないし履行補助者ということはできず、Hの行為をもって、信義則上、Fの故意・過失と同視すべき事由と評価することはできない。


よって、賃借人Bにおいて、善管注意義務の違反はなく、これを理由とする損害賠償請求は認められない。


3.両主張の当否


Fの①の主張について


民法606条は、賃借人に目的物の保存につき善管注意義務違反があるときにまで、賃貸人に修繕義務を負わせたものではない。


したがって、賃借人に善管注意義務違反があれば、民法606条の規定にかかわらず、賃借人は損害賠償責任を免れないのであって、結局は②の主張の当否に収斂される。


(そもそも記載自体不要とも思われるが、民法606条を知っていることをアピールするのは、無駄にはならないはず。論証パターンの吐き出しではないから、マイナス印象は与えない、はず。)


Fの②の主張について


従来の支配的学説は、履行代行者(債務者に代わって履行の全部又は重要な部分を引き受ける者)について、履行代行者の使用が許されている場合には、本人の許諾を得て復代理人を選任したときと同様、代行者の選任・監督につき債務者に故意・過失があったときだけ、債務者は債務不履行責任を負えば足りると解している。


かかる学説によれば、賃借人(善管注意義務を負う債務者)Fは、履行代行者であるHの使用がBから許されていたのであり、代行者であるHの選任・監督につき故意・過失があったということはできないから、Hが誤って丙建物の一部に亀裂を生じさせたことにつき、信義則上、Fの故意・過失と同視すべき事由があったということはできず、Fは損害賠償責任を負わないということになる。


しかしながら、かかる支配的学説に対しては、新の意味の履行補助者(債務者の手足として行動する者)と、履行代行者との区別があいまいであるとか、復代理と履行補助との制度面での違いを無視して立論している、といった批判がなされており、債権者が補助者使用について同意を与えていたときには、債務者の責任は選任・監督上の過失に限定される、といった見解は、判例には採用されていない。


かかる履行補助者問題を考える際には、債務発生原因としての契約及びその履行過程に当該履行補助者がどのように組み込まれ、評価されるのかという視点のもとで整理をする必要がある。

そして、本件の善管注意義務のように、結果実現保証を含まない債務(手段債務)の場合には、「いかなる者を利用して行為義務を果たすべきか」ということも、債務者の行為義務の内容の問題となり、被用者の選任や技術指導などを適切に行って履行のために使用すべき行為義務が、手段債務の内容となる。この段階で義務違反が認められれば、直ちに手段債務の不履行が認められるが、この段階での不履行が認められなくても、債務者が自分のリスクで履行補助者を使用すべき場合は、履行補助者の行為が契約上要求される注意を尽くすものでない限り、債務者の行為と同視され債務不履行責任が認められると解すべきである。


本件では、賃借人であるFは、賃借目的物を使用し、それから収益を挙げるために、内装業を営むHに内装工事を発注しているのであるから、債務者である賃借人Fが自分のリスクで履行補助者を使用すべき場合といえる。

したがって、履行補助者であるHの行為が賃貸借契約上要求される注意を尽くさずに、誤って丙建物の一部に亀裂を生じさせた以上、その行為は債務者(賃借人)Fの行為と同視され、債務不履行責任が認められると解すべきである。



履行補助者の類型論に関する問題意識が問題文において明確に摘示されているので、履行補助者論がメインの論点なのかと思われる。


・Hは専門業者。素人であるFの指揮・監督を受け得る立場にない。

・Hの選任については、Bの承諾がある。

・内装の仕様及び施工方法についても、Bの承諾がある。

という事情があっても、簡単にFの責任を免除してはいけませんよ、という出題趣旨か。


Fは、契約責任に基づいてHに求償(損害賠償請求)をしたらいいのであり、第三者たるBがHに損害賠償請求をすることを原則とするわけにはいかないというのが、基本的な判例の立場だと思うのですが、いかがでしょう。


〔設問3〕


最高裁判例の射程を考えさせる問題。

実務についたら、類似判例を見つけて、その射程を検討することは日常茶飯事なので、実務を意識した良問といえるのでは。



【Dの依拠する判例との類似点】


・抵当権設定及びその登記後、賃貸借契約が締結されている。

→賃借人は、賃借目的物に抵当権が設定されており、その後に賃料債権が物上代位により差し押さえられる可能性を認識し得た。


・賃料債権と相殺する自働債権は、抵当権設定後に発生したものである。



【相違点】

=判例の結論は妥当としつつも、本件でその理屈をそのまま妥当させると賃借人に酷な事情


・判例の事案における自働債権(保証金返還債権)は、(後に締結された)賃貸借契約とは全く別個の原因により発生したものであり、物上代位の対象となっている賃料債権との関係では、いわば一般債権というべきものである。


・本問における自働債権(民法608条1項に基づく必要費償還請求権)は、賃貸借契約そのものと密接に関連する債権であり、賃料債権との同時履行の抗弁が認められるもの(学説多数説)。



【Gのなし得る主張】


GがBから賃借していた丙建物の2階部分は、暴風のため窓が損傷し、外気が吹き込む状態となった。

そこで、Gは、丙建物の2階部分について、Eに修繕をさせ、Eに報酬30万円を支払った。

この報酬は、丙建物2階部分の原状を回復するために支出した費用であり、その額は、修繕に要する工事の対価として適正なものであるから、その費用を支出した賃借人Gは、賃貸人Bに対し、直ちにその必要費の償還を請求する権利を有する(民法608条1項)。


Dが依拠する判例は、抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理由はないというべきであるとして、抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできないと解するのが相当であると判示するものである。


しかしながら、賃料が、賃借物の使用及び収益の対価であり、賃貸人の使用収益供与義務と賃借人の賃料支払義務が同時履行の関係にあることからすると、賃貸人のなすべき賃貸物修繕義務と賃借人の負担する賃料支払義務とも同時履行の関係にあり、したがって、賃借人が修繕費を支出したことによって賃貸人の負担する必要費償還義務と賃借人の賃料支払義務ともまた同時履行の関係にあると解すべきである。


そして、債権者が差し押さえた債権についての第三債務者は、当該差押えに係る差押命令が第三債務者に送達されるまでに債務者に対して生じた事由をもって、差押債権者に対抗することができる(民事執行法145条4項参照)から、第三債務者である賃借人Gは、差押命令が自己に送達された平成24年9月21日より前の同月9日に取得した30万円の必要費償還請求権をもって、その償還義務と賃料支払義務との同時履行を主張して、賃料の支払義務を拒むことができると解すべきである。


したがって、少なくとも、GがDに対して(無条件に)90万円全額の支払義務を負うはずであるというDの反論は、明らかに理由がない。



加えて、賃貸人の賃借人に対する賃料債権と、賃借人の賃貸人に対する必要費償還請求権は、ともに同一の原因関係に基づく金銭債権であり、両債権は同時履行の関係にあるとはいえ、相互に現実の履行をさせなければならない特別の利益があるものではなく、両債権の間で相殺を認めても、相手方に対し抗弁権の喪失による不利益を与えることにはならないものと解されるのであって、むしろ、このような場合には、相殺により清算的調整を図ることが当事者双方の便宜と公平にかない、法律関係を簡明にならしめるものであるから、賃料債権と必要費償還請求権とは、その対当額による相殺を認めるのが相当である(請負報酬債権と瑕疵修補に代わる損害賠償債権との相殺を認める最判昭和53年9月21日参照)。


そして、賃借人が、差押命令の送達前に取得した必要費償還請求権については、物上代位の目的となった賃料債権と同時履行の関係にあり、賃借人は、当該必要費償還請求権についての履行があるまで賃料の支払を拒むことができるのであり、相互に現実の履行をさせなければならない理由はなく、少なくとも対当額の限度において、相殺により清算的調整を図ったとしても、物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力を侵害することにはならないから、抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後であっても、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得し、賃料債権と同時履行の関係にある債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することができると解するのが相当であり、これは、Dの依拠する判例の射程外と解すべきである。



というようなところでしょうか。



設問3については、時間的に余裕があれば、姑息なアピールとして、抵当権者の賃料債権に対する物上代位の期待が必ずしも保護されているわけではないことについて、敷金が差し入れられているときの、賃料債権の当然消滅も書きたい。


賃借人としては、賃貸借契約終了間際の賃料の支払を拒絶した場合でも、賃借物の明渡後には、敷金が当然未払賃料に充当されるのであって、この場合にも、抵当権者の賃料債権に対する物上代位の期待は保護されていない。


加えて、最近最高裁が出た、賃借人が賃貸人から賃借物を買ったときの賃料債権の消滅についても、書いてもいい範囲かもしれない。



まあ、所詮は姑息なアピールの手段に過ぎませんが、少なくとも、法曹としての資質を持っている(=必要十分な知識)を持っていることについてのアピールとしては、小さくないと思うんですよね。


「抵当権者の賃料債権に対する物上代位の期待が貫徹されない場合」の卑近な例として挙げるのであれば、余事記載でもないでしょうし。



誤った理解を自信満々で記載して間違った方向に行くと、目も当てられませんけど。




【追記】


辰巳の解答速報を見てみた。



設問1は、裁判例さえわかれば、それに沿って書くだけなので、予備校間で差がつくものでもないだろう。



設問2は、履行補助者に該当しない?しかも、善管注意義務の履行を補助しているものではないから、という理由で?


そんなばっさりと切れる問題を作るかなあ。



設問3は、法律論になっているのかな。相違点をただ羅列しただけなんじゃなかろうか。


少なくとも、賃料債権と必要費償還請求権が同時履行の関係にあり、抵当権者は、本来的に賃料全額の支払を受けられる状況ではない、という法律論は摘示する必要があるんじゃないかと思うんだが。


【追記】


設問2について、不法行為責任で請求する場合については、注文者は、請負人のミスについて、無制限に責任を負うわけではないので、Fが勝つ、という構成を見ました。


そうすると、賃借人は、不法行為構成をとらないので、Fとしては、不法行為の場合には請負人のミスについて責任を負わない場合との均衡を図るべきだ、と主張して、債務不履行構成の場合でも責任を負わない、と主張することができないか、ということになるでしょう。


実際、履行補助者の理論について、使用者責任とパラレルに考えようという見解もあったはずだと認識しています。



設問3については、あの判例が、執行妨害的な例外的な事情がある場合に、相殺を認めなかったわけではなく、少なくとも判文上は、原則論として、相殺への期待を差押えに優先すべき理由はない、として相殺を認めなかったということに十分配慮すべきだと思います。


そうすると、判例の射程外だというためには、差押えに優先すべき相殺への期待がある、というか、差押えに優先しているわけではない、というかのいずれかだと思います。


同時履行関係にあるので、本来的に差押債権者は賃料の支払を求められないのであるから、相殺を認めても、差押えに優先させるわけではない、というのは、後者の立論ということになります。



自然発生的な債権なので、相殺への期待を保護すべき、というのを目にしますが、じゃあ、抵当権の設定及びその登記後に取得した法定債権(事務管理、不当利得、不法行為による各債権)であれば、これらを自働債権とする相殺を優先させるべきか、ということになります。


そこまで拡張できないということであれば、自然発生的な債権で、賃借人に何ら落ち度なく発生した債権なので、相殺への期待を保護すべき、という立論は誤り、ということになるかと思います。