タイ坊が寝室に引きこもってしまってから、ダンナさんはずっとイライラした気持ちを持て余している。
 
「繊細すぎるんだよ!敏感すぎるんだよ!」
 
独り言のように、毒づいている。
 
チイ坊がいたたまれなくなったように、ごはんをかきこみ、
「ごちそうさま」
と、そそくさと食器を片づけに台所へ行った。そのまま戻ってこない。
寝室の方とわたしたちのいる食卓を交互に見ながら、遠巻きにしている。
 
 
弁護する形になってしまうけど、普段のダンナさんは、ここまで独断的なモラハラはしない。
 
お酒を飲んだときだけだ。
 
もともとお酒を飲むと身体の皮膚がまだら模様になり、血色の悪さからあまり強くはないのだと思う。
もっぱら第三のビールしか晩酌はしないが、ここ数年ストレスのせいか量が増えている。
 
この日も夕食準備をしながら500㎜㍑缶を二本空けていた。
 
 
 
「繊細すぎるのも、敏感すぎるのも、いけない事かな…?」
 
ダンナさんが口をつぐんで、わたしを見た。
 
「わたしは小2の通信簿に『感受性が強すぎて物ごとを大きく捉えがち』と書かれたよ。まるで大げさで悪いことのように書かれたよ。
 
タイ坊は、ちょっと前に元からあるホクロを皮膚ガンかもって、心配しすぎるあまり眠れなくなって……仕方なく病院でお医者さんに診てもらってやっと安心してたよ。」
 
はい。『タイ坊』不安症の話の結果は、
こんな感じです(^◇^;)。
 
 
「ダンナさんは、タイ坊と同じ状況だったら、食べられる人?」
 
「俺は食べられるよ。全然、全く気にしないね!ニュースでやってようが関係ないし」
 
「わたしは小4の時、野生動物のドキュメンタリー番組でライオンが草食動物を狩ってるシーンを観てたら、
唐突に自分も生き物を殺してその肉を食べてるんだ
って意識しすぎて、肉を食べたくなくなった事があったの」
 
「………」
 
「もともと食べること自体の欲求が希薄なうえに、偏食がひどくて野菜全般食べられなかったもんだから。
祖母に『いい加減にしろ!』と激怒されたけど、
白米に塩かけて、豆腐のみそ汁だけで一週間頑張ったけど、さすがに自分の考えを改めたよ」
 
「……」
 
「自分の身体を維持するために、『(命を)いただきます』は大事なんだって、やっと認識出来たの」
 
ダンナさんは、顔をしかめたまま目を合わせようとしない。
 
「タイ坊とわたしは、報道を自分にとって我が事みたいにダイレクトに受け取りすぎてしまうタイプなの。
 
あと、自分のことでいっぱいいっぱいになってしまうと想像力が不足しがちになるところも一緒。
わたしは今、客観的に外から眺めてたから、ダンナさんが怒る気持ちがわかったけど、タイ坊はたぶん今でもあなたが怒った理由を解ってないよ。
『何か自分がパパの気に触ること言ったんだ』ってことだけをグルグル考えてると思う」
 
ダンナさんが、やっと顔を上げてくれた。
 
「ダンナさんがタイ坊と同じ小学生の年齢で何かで怒られた時、
親の気持ちが解って謝ってた?」
 
「……いや、解ってないけど。高校生や大人になったら、あぁ…あん時はそうだったのかな…くらいの想像かな」
 
「…その頃まで、怒られたシチュエーションとか憶えてたり、感情をひきずったりする?」
 
「そんな訳ないだろ」
 
「私たちは、憶えてるの。忘れたくても、何度も繰り返して、その都度強化して。
 
『理由が解らないけど、何か自分がいけないことをしてしまって怒らせてしまったんだ』って。
 
わたしはこのままタイ坊をほったらかしにしたくない。この気持ちを抱えたままにさせたくない。想像力が不足してるなら、ダンナさんの怒った理由をきちんと伝えて教えてあげてほしい。
面倒いかもしれないけど。定型発達の人は言われなくても解るのかもしれないけど。
 
お願いしますm(__)m」
 
ダンナさんは腕組みして、溜め息混じりに言った。
 
「わかった。タイ坊、呼んできて」
 
「ぼく、呼んでくる」
 
わたしが立ち上がるより早く、すかさずチイ坊がパタパタと駆けて行った。
 
つづく(^_^;
 
 
 
 


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