彼が来て
嬉しかったし
幸せだった。


その日は
親友Aちゃんと妹に会っていて
恋愛の話になって
2人が好きな人の服装や髪型で
キモチが冷めることがあると言ってて
私は彼に対しては
そんなのは外側のことで
どんな見た目でも
嫌いになったりはしない。
そりゃあまりにもすごかったら
「何だあれ?」
とは思うけど
でも彼が彼である限り
私のキモチは変わらないと言った。


2人は驚いて
私のキモチは強いと言った。
それが本当に
人を好きになるということなんだろうね
と言った。


そんな話をした日だったから
彼の髪型は相変わらず変だったし
服も微妙な色と形だったけど
やっぱり関係ないと再確認して
彼との時間を過ごした。


ただひとつ
認めたくないけど
認めなきゃいけないことがあって
私はちょっと動揺した。


彼のことが好きだと気付いてから
彼は私にとって
ずっと無臭だった。



彼とのことが始まったのは
真夏だったし
彼は汗をかく仕事だし
ずっと外にいた日にも会ったけど
彼はいつも無臭だった。


そんな日にハグをしたりすると
彼は決まって
『クサイでしょ?』
と言った。

「全然。何のにおいもしない。」
と私が言うと
『絶対ウソだ』
とか
『感覚がおかしいんじゃないの』
と笑っていた。

私もそんな自分が不思議で
だから彼のことを運命の人だと
思ったのかもしれない。


でもこの前キスされた時
彼が無臭じゃなかった。

タバコと男の人のにおいが混ざった
良くあるにおいがすると思った。

あの日はたまたまかと思ったけど
今回も近くを通ると
それを感じた。


彼はまた
奥さんの文句を言って
思春期の子どもと奥さんの
ケンカの話をして
もしもアイツが
刺されるようなことがあっても
仕方ないと思うくらいだと言った。


そんなことを言いながらも
容認してるんだから
彼は奥さんにとって
父親のような存在なんだろうなと
そんなことを思って

ずっとワガママを言えずに生きてきた私は
彼の広い心のテリトリーで
自分を解放出来ている奥さんを
良いなと思った。

けれど前ほどの感情ではない。


彼が帰ってからも
キモチがフラットで
いつもの感覚と違ってて
「あれ?」
ってなった。


心が揺さぶられることもないし
切なさも感じなかった。
帰って行く彼の後ろ姿に
何も感じなかった。


執着のようなキモチが
ただなくなっただけなのかなと
そんなことを思っていたら

Aちゃんと妹とのLINEグループに
メッセージが届いてたから
早速彼に対して感じたことを伝える。


そしたら
そういえばこの前のキスも
それまでのように
溶けてひとつになってしまいそうな
そんな感覚じゃなかったことを
思い出した。


「もしかして冷めてきたの?」
とAちゃんに言われて
何だかちょっと怖いと思った。


彼へのキモチが変わっていくことを
ちょっと怖いと思って動揺した。