空港から会社へ向かう車の中で、宗一郎は横に座る藤沢と供の社員達相手に、海の向こうで見聞したことをしゃべり続けていた。

「うちのドリームは、二五〇CCで一三馬力だが、向こうのレーサーは、何馬力だと思うな?」
宗一郎が周囲に問いかけた。
「さあ、どれくらいでしょう。リッター当り百馬力だとすれば、二五馬力ですから、二二~三馬力ってところでしょうかねえ。」
供の社員が答えた。

彼の答えは、彼自身が考えるより少し高めの数字だった。
宗一郎は、排気量が一リッター当りで百馬力あれば、世界レベルで通用する、と、社内外に公言し、これを目標にレース用のマシンを開発する、と発表していた。
排気量一リッター当り百馬力、ということは、二五〇CCであれば二五馬力、一二五CCであれば一二・五馬力、という計算になる。

ホンダだって、持てる技術の粋を集めて、車の開発を行っているのである。
彼らの売っているドリーム号は、国内では最高の性能を持った車だという自負があった。
いくら何でもそんなに差がある訳がない。
それが彼の偽らざる考えだった。