モモは八時を過ぎても帰って来なかった。私はミーコの首に紐をつけてモモを捜しに外に出て見た。どこかに隠れているであろうモモが、母親の匂いを嗅いで姿を見せるのではないかと一縷の希望を持っていた。でもミーコは道路の真ん中で坐って動かず、犬を散歩させるようなわけには行かないことを改めて知った。

それでも母親のミーコが頼みの私は、ミーコを庭に放した。モモを探しに行くことを期待したのだ。だがミーコは塀の上にチョコンと坐って夜空に輝く月を見て動かなかった。キキとサクラは羨ましそうに身体を寄せ合って庭に面した縁側からミーコを見ていた。

  せめてモモが帰って来た物音を聞き逃すまいと、私はキキとサクラと一緒に静かな縁側で待機した。松の枝越しに澄んだ月が臨まれる。モモにはこの月がどんな風に見えているのだろう。

  風もないのに、木戸がガタガタッと揺れた。「モモだ!」私は跳ね起きて木戸を開けた。ぐったりしたモモが身体を摺り寄せて来た。よしよし、と身体を撫でると、右前足の付け根にかさぶたが出来ている。どこでこんな怪我をしたのだろう。今迄缶入り息子で大事に大事にしていたのに、今日は6時間もたった独りで外に居たのである。しかも怯えて。帰るに帰れなかったのであろう。危険が去り、道路が静まり返るまで、独りぼっちで、物陰にじっと隠れていたのだ。

  ああ、無事で良かった!もう、さすらい猫にはならないでね、モモちゃん。やっと四匹そろった猫家族の姿を見ては満足を覚えた。

  その後、サクラ、キキと順番に遅くまで遊びまわり、私の気を揉ませた。サクラなどは、雨の中十一時過ぎての帰宅だった。こうして一巡すると後は人間の母も少し子離れ出来、少々遅いくらいで不必要に心配しなくなった。猫ママのミーコはとっくの昔に子離れしていることは言うまでもない。

  外で遊び始めた頃は、トイレの度に律義にも家に帰って来ていた子猫達。特にキキはトイレの時特有の鳴き声を上げる癖があり、その声を上げながら庭から一目散にトイレに駆け込むので、見るたび私は笑い転げた。

  何もかも初めての時は新鮮で、何時の間にか慣れ、当り前になってしまう。今では、子猫も立派な成猫。私も四匹の猫を育てた中級ママになることが出来た。