それは残暑厳しい9月の中旬のことだった。初めてミーコが仕事場の庭に遊びに来たのである。「なんて綺麗な猫だろう!」と私は感心した。

 
大きな目、大きな耳に小さな顔、長い尻尾。グレイッシュホワイトの毛並みはアメリカンショートヘアの血も混じっていると思わせる。貴婦人のようにおっとりとミーコは私の前に現れた。じっと私を見つめる目には知性さえ感じた。なんとか近付きたいと思ってる私に「苦しゅうない」と言ってるようである。
 
ゆっくりと顔を動かし青空を見上げるしぐさも、草の上にゆったりと横たわる姿も実に優美である。飼い猫かとも思ったが、それにしては痩せすぎだし、目付きが少々きつい。どこかのお嬢様だったのが、運命のいたずらで野良になったに違いないと思わせた。
 
私は一目で気に入ってしまい、今度猫を飼うならこの猫だ、と自分に宣言した。実は同じくアメショーとの混血と思われる生後3ヶ月ほどの子猫を育てていたのだが、半年前の引っ越しのどさくさに紛れて行方不明になってしまっていたのだ。その子の名前はミャーといい、マンションの7階で暮らしていたベランダ猫であった。7階のベランダから見える風景と私が、ミャーの世界の全てであった。実に賢い猫で、私のトイレに付き合ってるうちに、人間のトイレでオシッコをするところだと覚えたらしく、一度私の目の前でオシッコをして見せた。本当に起きたことなのか自分の目が疑わしくなった頃、再度抱っこして便座に乗せると、「しょうがないなぁ」といった面持ちで、おもむろに腰を下げてもう一度してみせてくれた。
ミャーとの出会いも運命的だったが、もしミャーが今も居れば、ミーコは似合いのお嫁さんと思われた。