お風呂で会った光たち
あのとき、私は
息子とおひるねを始めようと
お部屋で寝ころんだところだった。
添い乳をして
呼吸で浮かんでは沈む小さなおなかを
さするように とんとんリズムをとりながら
いっしょにまどろんでたとき
突然、窓辺のブラインドがガタガタ音をたてて揺れて
テーブルの花瓶が倒れ水がこぼれ
とっさに、息子を抱き上げて急いで立ち上がった
すぐあと、今まで寝ころんでた場所にテレビが倒れてきた
あと何秒か遅かったら、小さな頭に勢いよく落ちていた
思い出しただけでも震えがくる。
1人きりで、ほんとにこわかった
「この子を守らなきゃ、逃げなきゃ、どうしたらいい!」
ただその答えだけを、野性的な本能でつかまえようとした
しばらく避難したあと、おそるおそる部屋に戻った
都内で仕事だったので今夜は戻れないだろうと思ったのに
愛する人は出先で買った自転車を7時間もこいで
足ぱんぱんにして、帰ってきてくれた
テレビは砂嵐で夜まで見られなかった
直してもらってニュースの映像を見て愕然とした
うそでしょ。
こころに大きな穴があいたみたいに
真っ黒につつまれた
あの瞬間から、私は
ずっとこころが緊張しきっていて
深呼吸も通用しない感じにカチカチだったんだけど
今日おひるに、お風呂に入った。
沸かしたての、清潔な熱いお湯につからせてもらった。
ぼーっとして湯船に手足を伸ばして
いま必死に生きている人たちを想った。
「熱いお風呂、入りたいだろうな」
「おなかすいて喉かわいて、寒くて、不安で仕方ないだろうな」
「妊婦さんや乳飲み子のママたち、どうしてるんだろう」
またとりとめもなく意識が被災地に向かい始めたそのとき
ふと、何かの光を感じた
見上げると、窓から差し込む光に照らされた
水蒸気の粒が見える。
無数の小さな光の粒。
微妙な空気の動きに浮かんで、ゆらめいている。
わー。きれい
流されているようで、それらは自由だった。
笑っているようにも見えた。
とっさに、するりと
あ、亡くなった人たちの魂だ
と思った。
「どうして悲しんでいるの?」
「どうして苦しい気持ちでいるの?」
声が聞こえたわけじゃない
でも体の中にその問いかけが大きくこだまして
そのことにちょっとびっくりしながら
えっと、と理由を探した
声は春風みたいに穏やかで
もくれんのつぼみみたいに優しかった
あたしは正直に考えた。
「たくさん人が死んだから」
「大切な人と二度と会えないなんて辛すぎるから」
「何にも出来ない状況がもどかしいから」
答えていくと涙があふれた
目の奥がぎんぎん痛んで口がしょっぱくなった
でも声の主は嬉しそうにほほえんで
空気の中を心地よさそうにゆらゆらしている
あたしは
どうして嬉しそうなんだろうって不思議になった
亡くなった魂たちなら、悲しそうなんじゃないの?
助けてくれとか、痛いーとか苦しいよーとか…
もっと生きたかった、死んでも死にきれんとか
それから少しして、ああそうか。って
ぶわっと勢いよく、答えが吹いてきた。
亡くなった魂たちは
快適なままで生活できてる私に
「生きていられる幸せ」を味わってほしいんだ。
「生きられなかった悲しみ」に暮れ
不安を抱え、痛みを背負うために命があるんじゃない。
無事に生き残れた奇跡のような1日を
涙を流して落ち込んで過ごすのはもったいない
そんなの誰も望んでいない
「私たちのぶんも楽しんで
生活の素晴らしさを味わって生きて!」
そうだ。私は今、恵まれて生きてる。
元気じゃないと、寄付だって献血だってできない
誰の心を勇気づけることもできない
今日を過ごせる有り難さを感じて
笑顔で、喜びに満ちて今日を過ごすことが
亡くなったたくさんの人たちへの誠意。
私だって、明日死ぬかもしれないから。
何が起こるか本当にわからないから。
いい匂いのするコーヒーを沸かせること。
温かいカレーライスを食べられること。
自転車をこいでお買い物に行けること。
便利なインターネットを使えること。
歯みがきもトイレもできること。
ふかふかのおふとんで眠れること。
愛する人がそばにいること。
はしゃぐ息子をぎゅっと抱きしめられること。
かけがえのない、しあわせ。
無駄にしちゃいけない。
すぐそばにある大切なひとつひとつを。
あたしは目の前にある宝物たちを
妄想のごみ箱に捨てるところだった
「ありがとう」って伝えようとして
ふと我に返ると、もうキラキラは消えていた
どこかへ行ったというか
まわりに溶けて染みこんでいったみたいだった
文章にすると、ちょっと妙な感じなんだけど…
うまく伝わらないかもしれないけど
なんか、初めてのひとときだったので
みんなにも分けっこしたくて、書いてみました。
お風呂で出会った光たちとの
ちょっとした出来事のお話でした
わーごめん、長くなってしまった。
少しでも節電するため、もう読み返したりせず(笑)
電源落としてねます!
おやすみなさい。愛してるよ。
最後まで読んでくれてありがと。
あなたと出会えてよかった。
もう何にもはずかしくない
かおりより
息子とおひるねを始めようと
お部屋で寝ころんだところだった。
添い乳をして
呼吸で浮かんでは沈む小さなおなかを
さするように とんとんリズムをとりながら
いっしょにまどろんでたとき
突然、窓辺のブラインドがガタガタ音をたてて揺れて
テーブルの花瓶が倒れ水がこぼれ
とっさに、息子を抱き上げて急いで立ち上がった
すぐあと、今まで寝ころんでた場所にテレビが倒れてきた
あと何秒か遅かったら、小さな頭に勢いよく落ちていた
思い出しただけでも震えがくる。
1人きりで、ほんとにこわかった
「この子を守らなきゃ、逃げなきゃ、どうしたらいい!」
ただその答えだけを、野性的な本能でつかまえようとした
しばらく避難したあと、おそるおそる部屋に戻った
都内で仕事だったので今夜は戻れないだろうと思ったのに
愛する人は出先で買った自転車を7時間もこいで
足ぱんぱんにして、帰ってきてくれた
テレビは砂嵐で夜まで見られなかった
直してもらってニュースの映像を見て愕然とした
うそでしょ。
こころに大きな穴があいたみたいに
真っ黒につつまれた
あの瞬間から、私は
ずっとこころが緊張しきっていて
深呼吸も通用しない感じにカチカチだったんだけど
今日おひるに、お風呂に入った。
沸かしたての、清潔な熱いお湯につからせてもらった。
ぼーっとして湯船に手足を伸ばして
いま必死に生きている人たちを想った。
「熱いお風呂、入りたいだろうな」
「おなかすいて喉かわいて、寒くて、不安で仕方ないだろうな」
「妊婦さんや乳飲み子のママたち、どうしてるんだろう」
またとりとめもなく意識が被災地に向かい始めたそのとき
ふと、何かの光を感じた
見上げると、窓から差し込む光に照らされた
水蒸気の粒が見える。
無数の小さな光の粒。
微妙な空気の動きに浮かんで、ゆらめいている。
わー。きれい
流されているようで、それらは自由だった。
笑っているようにも見えた。
とっさに、するりと
あ、亡くなった人たちの魂だ
と思った。
「どうして悲しんでいるの?」
「どうして苦しい気持ちでいるの?」
声が聞こえたわけじゃない
でも体の中にその問いかけが大きくこだまして
そのことにちょっとびっくりしながら
えっと、と理由を探した
声は春風みたいに穏やかで
もくれんのつぼみみたいに優しかった
あたしは正直に考えた。
「たくさん人が死んだから」
「大切な人と二度と会えないなんて辛すぎるから」
「何にも出来ない状況がもどかしいから」
答えていくと涙があふれた
目の奥がぎんぎん痛んで口がしょっぱくなった
でも声の主は嬉しそうにほほえんで
空気の中を心地よさそうにゆらゆらしている
あたしは
どうして嬉しそうなんだろうって不思議になった
亡くなった魂たちなら、悲しそうなんじゃないの?
助けてくれとか、痛いーとか苦しいよーとか…
もっと生きたかった、死んでも死にきれんとか
それから少しして、ああそうか。って
ぶわっと勢いよく、答えが吹いてきた。
亡くなった魂たちは
快適なままで生活できてる私に
「生きていられる幸せ」を味わってほしいんだ。
「生きられなかった悲しみ」に暮れ
不安を抱え、痛みを背負うために命があるんじゃない。
無事に生き残れた奇跡のような1日を
涙を流して落ち込んで過ごすのはもったいない
そんなの誰も望んでいない
「私たちのぶんも楽しんで
生活の素晴らしさを味わって生きて!」
そうだ。私は今、恵まれて生きてる。
元気じゃないと、寄付だって献血だってできない
誰の心を勇気づけることもできない
今日を過ごせる有り難さを感じて
笑顔で、喜びに満ちて今日を過ごすことが
亡くなったたくさんの人たちへの誠意。
私だって、明日死ぬかもしれないから。
何が起こるか本当にわからないから。
いい匂いのするコーヒーを沸かせること。
温かいカレーライスを食べられること。
自転車をこいでお買い物に行けること。
便利なインターネットを使えること。
歯みがきもトイレもできること。
ふかふかのおふとんで眠れること。
愛する人がそばにいること。
はしゃぐ息子をぎゅっと抱きしめられること。
かけがえのない、しあわせ。
無駄にしちゃいけない。
すぐそばにある大切なひとつひとつを。
あたしは目の前にある宝物たちを
妄想のごみ箱に捨てるところだった
「ありがとう」って伝えようとして
ふと我に返ると、もうキラキラは消えていた
どこかへ行ったというか
まわりに溶けて染みこんでいったみたいだった
文章にすると、ちょっと妙な感じなんだけど…
うまく伝わらないかもしれないけど
なんか、初めてのひとときだったので
みんなにも分けっこしたくて、書いてみました。
お風呂で出会った光たちとの
ちょっとした出来事のお話でした
わーごめん、長くなってしまった。
少しでも節電するため、もう読み返したりせず(笑)
電源落としてねます!
おやすみなさい。愛してるよ。
最後まで読んでくれてありがと。
あなたと出会えてよかった。
もう何にもはずかしくない
かおりより