この家に越してきてからは、怪しげなものは、見なかったし、感じなかった。

 

その点では、安住の地として、安心して暮らせると思っていた。

 

2年前、離婚して、仲のいい友達に知らせなくちゃ、といっても、年賀状のやり取りが主で、会うことはない。

 

LINEとかだと、なんだかうまく伝えられそうになくて、短文だけど、手紙にした。

 

そして数日後、電話があった。

 

最初、息子が出て、「お母さん、〇〇さんって人から電話」って。

 

でもその言い方が微妙だった。

 

姫綺は、〇〇ちゃんからだって、喜んで受話器を受け取った。

 

「もしもし」

 

「あの…お手紙、くださった…△△さん、ですか・・・」

 

なんと嗚咽交じりのたどたどして声で、明らかに〇〇ちゃんではなく、もっと年配の女性からだった。

 

「はい」

 

と答えたものの、ものすごく戸惑ってしまう。

 

「〇〇・・・なんです、けど・・・亡くなって・・・」

 

「えっ」

 

えっ、えーーーーーーっ。

 

一瞬にして、血の気が引いた。

 

うそ・・・。

 

「2年前に・・・急に・・・」

 

電話は、〇〇ちゃんのお母さんからだった。

 

泣きながら、〇〇ちゃんが亡くなったことを、話してくれた。

 

地元に帰ってきて、病院に勤めてたらしいけど・・・年賀状も数年前から来てなくて、古いものを引っ張り出し、自宅の住所に手紙を出した。

 

自宅なら、いつかは、彼女に届くだろうと思って。

 

そしたら、彼女が亡くなっていたって、嘘としか思えず。

 

私は震えながら、話を聞いていた。

 

お腹が痛いと仕事を休み、居間で寝ていたそうで、でも夕方になって、お姉さんがそれじゃダメだからって病院に連れて行ってくれたそうです。

 

そのまま入院になって、2日くらいで退院できますって病院で言われたそうです。

 

そして2日後、朝、お姉さんの車で病院に迎えに行くと、血圧が下がっているので、日赤に救急搬送しますって、救急車に〇〇ちゃん自身、歩いて乗ったそうです。

 

病院側からの説明は、あまりなかったみたい。

 

ただ血圧が下がり過ぎてるからってだけみたいで。

 

それで救急車の後を追うようにして、お姉さんの車でお母さんとふたり、後から日赤に到着して見ると、救急車の中で様態が急変して、日赤に着いた時には亡くなっていたそうです。

 

そんな危ないって知らされてなかったから、車で後を追ったから、手も握ってやれなかったと何度も何度も言ってました。

 

私は信じられなくて、「うそ」「そんな・・・」とか、そんな返事くらいしかできなかった、確か。

 

で、どわーっと涙が出た。

 

だって、まだ若すぎる。

 

彼女は高校の同級生。

 

姫綺は、高校の時から家を離れていて、下宿しながら、通学していたから、仲のいい友達は、みんな、遠くに住んでいる。

 

一番近いのが彼女の実家。

 

それでもなかなか会う機会がなく、何年も経っていた。

 

離婚したし、自由にできるし、これからは、彼女に合わせて、時間もとれるし、会って、今まで話せなかった沢山の事、話したいって思っていた。

 

それなのに、もういないって、信じられなくて。

 

おかあさんは、〇〇ちゃんのお仏壇に手紙を読んで聞かせてあげたって言ってた。

 

大したことは書いてない。

 

離婚したことを簡単に書いて、年賀状に間に合うようにって。

 

連絡取って、会うつもりだったから。

 

電話を切って、茫然としてた。

 

遊びに来ていた娘夫婦と休みだった息子も固唾をのんで静まり返って・・・。

 

「高校のお友達、死んじゃってた・・・」

 

そういうのがやっとだったと思う。

 

それから暮れまで、悩みに悩んだ。

 

電話の最後に「〇〇ちゃんに会いに行ってもいいですか?」って聞いたら、「ぜひ来てください。喜びます」ってお母さんも言ってくれたんだけど、なかなか行く勇気がわかなかった。

 

それでも暮れが押し迫って、年越ししてしまうのはなぁと思い、出かけたついでというか、遠回りすれば行けると思って、その日、決心していくことにした。

 

途中で、お花を買って、お仏壇にあげるお菓子を買って。

 

彼女の実家に行くのは、初めてだった。

 

どの辺かなとあたりを見ながら運転して、なんとか見つけることが出来て、車を入れる。

 

静まり返っていて、誰もいないのかなとは思ったけど、インターフォンをならしたら、横の窓からちらっと女の人がカーテンの隙間から覗いて、それからドアを開けてくれた。

 

おかあさんだった。

 

お仏壇に先にお焼香させてもらった。

 

お仏壇に飾られた彼女の写真。

 

なんだか別人に見えた。

 

お仏壇の隙間に私が送った手紙が添えられていた。

 

ここに来ても私は信じられず、皆で悪いいたずらをしているんじゃないかと、本気で思っていた。

 

でもそんな嘘をついても何にもならないことくらいわかるし、それでも受け入れられなくて。

 

茶の間に通されて、お母さんとお話をした。

 

すぐに帰るつもりだったけど、お母さん一人で住んでいて、毎日〇〇ちゃんって言っては泣いて、毎日お仏壇の前で泣いてるって。

 

話を聞いていたら、帰れなくて。

 

一人にしてしまうのがかわいそうで、結構長い時間、いました。

 

夕方になって、いい加減、失礼しなくちゃと帰ることになり。

 

お話をさせていただいた母屋の反対側には、彼女の家の鉄工所がありました。

 

その2階が彼女の部屋だったそうで、そちらは彼女が亡くなったままにしてあるって。

 

母屋と鉄工所の入り口は、車一台分しかなく、そこに前から入って停めてしまったので、その奥の駐車場でUターンして出られるからとおかあさんが外に出てきてくれました。

 

実は、彼女の家に入るとき、既になにか感じていたんです。

 

来ちゃまずかったかなって。

 

奥の駐車場側に入って、Uターンすると、目の前に鉄工所があって、その2階が目に入った。

 

まずいって、ここはまずいって強く思った。

 

空気が重くて、息苦しくて、そこだけ時間が止まってて、空気が動いてなくて、どんよりしていて、なんていうか、とにかく、来ちゃまずかったと確信して、すぐに視線を逸らした。

 

お母さんが、何度も頭を下げたり、名残惜しそうにするので、なかなか出られず、でもなんとか走り出して、彼女の家を後にして。

 

お母さんは、「こんな年だけど友達だと思って、またいつでも遊びに来てください」って言ってた。

 

〇〇ちゃんにはお姉さんもいるけど、お姉さん夫婦は別に住んでいるらしい、

 

お父さんは、彼女が亡くなるちょっと前に亡くなって、ふたりでお墓参りに行っていたって。

 

お母さん、一人で寂しいんだ。

 

泣いて1日の報告するって言ってたので、「泣いて報告していたら〇〇ちゃん、悲しみます。笑って報告できるようになってください」って言ったら、「笑ってね、できるようにします」って言ってました。

 

余計な事、言っちゃったかな。

 

いろんなこと考えながら、家に帰ってきた。

 

それ以降のことになります。

 

お風呂場に誰か立っているんです。

 

お風呂に入ろうとして、ドアを閉め、鏡に向かって、シャワー出して・・・するとドアの手前、私の後ろに誰か立っている。

 

さすがにぎょっとしました。

 

でも振り返ると誰もいない。

 

鏡に向かうと誰か立っている。

 

また振り返るといない。

 

目に見えてハッキリわかるものではなく、強い気配を感じて、鳥肌が立ち、とにかく落ち着いてお風呂に入っていられない。

 

怖くて、怖くて。

 

彼女でした。

 

見えませんでしたけど、彼女だと確信できました。

 

見えていないのに、なぜわかるのって感じかもしれないけど、そういうのってわかるんです、なぜだか。

 

それから数ヶ月、彼女は我が家のお風呂場にいました。

 

姫綺は、お風呂に入る度、「お願い、帰って。私には何もしてあげられない」って、泣きながら、お願いしました。

 

「お母さんが寂しがるから、帰って」「お母さんが悲しむから、成仏して」

 

毎日毎日、唱えながら、見えない陰にお願いしました。

 

彼女の思いが伝わってくるんです。

 

無念だった思い、寂しい思い、少し嫉妬している思い…彼女は結婚もせず、結構辛い思いをして暮らしていたようなんです。

 

それなのに、私は結婚して子供もいて、それで離婚して、好きにして・・・って。

 

「ごめん」って。

 

「もっと会って色々話したかった」って。

 

でもきっと彼女は、結婚して子供もいる私には会いたくなかったんでしょうね。

 

そういうのが伝わってきました。

 

でも私は会いたかった。

 

彼女が生きているうちに会いたかった。

 

それでも亡くなった今、彼女が我が家にいるのは、不自然で。

 

しかも怖いし。

 

今まで、そういう怖さってなかったら、彼女の思いがどんなに辛いものだったかと思うと、悲しくて。

 

色々考えた。

 

お祓いしてもらう?

 

家の四隅に塩でも盛る?

 

でもそういうことできませんでした。

 

彼女の思いが強すぎて、怖いし、辛いし、悲しすぎて。

 

だからひたすら、お風呂に入った時、彼女にお願いしました。

 

「お家に帰って」って。

 

彼女が我が家にいたのは、数ヶ月。

 

翌年の夏くらいには、いなくなっていました。

 

それ以降は、彼女は来てないです。

 

お家に帰ったのか、成仏したのか・・・。

 

その辺は、はっきりしませんが。

 

気掛かりだったのは、おかあさんのこと。

 

寂しくしているから、会いに行ってあげたいと思っていたけれど、怖くて行けなくなりました。

 

また彼女を連れて帰ってきてしまいそうで、行けませんでした。

 

未だに行けてません。

 

足だったか、腰だったか、痛くて、思うように動けないっていってたから、心配です。

 

元気にしていてくれればいいのですが。

 

彼女が我が家のお風呂場に現れたことがきっかけかなとは思うんですが、その後、彼女ではない誰かがいます。

 

明らかに彼女じゃないです。

 

困ったことに時々現れます。

 

怖くてお風呂に入るのが、苦痛になってしまった。

 

家の中で一番リラックスできる場所でもあったお風呂が、怖い場所になってしまいました。

 

誰かが現れた時は、「わたしにはなにもできないから、帰ってください」と心の中で何度も言いながら、急いでお風呂を済ませて出てきます。

 

未だにそれは続いています。

 

 

元々、感じる体質なのだとは思いますが、子供のころから、「ここは嫌だ」という場所を感じ取っていました。

 

どこかに行っても、その場所は「嫌な場所」と感じ取ってしまうんです。

 

聞こえるはずがないのに、鈴の音が聞こえて、慌てて、その場を離れたこともありました。

 

でもはっきり見たのは、官舎での(この記事の前の前の記事内容)ことのみです。

 

我が家では、強く感じて、誰かがいる影が見えるけど、そちらを振り返るといない。

 

そんな状態です。

 

それをケア科の先生に話しました。

 

ついでにデスクの上とかでいるはずのない蟻のような小さな虫が歩いていることも。

 

例えばメモ帳を置いていると、その端にそって歩いているんです。

 

黒い小さな虫。

 

でもそちらに視線を向けると消えてるんです。

 

それもケア科の先生に話しました。

 

診断書に「幻覚」ってチェックされました滝汗

 

姫綺には見えるし、感じるし。

 

虫は幻覚なのかな。

 

でも官舎での出来事や、友達のことや、これは事実で、作り話でもなんでもなく・・・。

 

なかなか信じてはもらえませんが、そういう体験をしています。

 

ただできれば我が家はやめてほしいなぁと。

 

家の中くらい、リラックスして、過ごしたいです。

 

ゆっくり目を閉じて、お風呂入りたいよぉ。

 

 

 
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