私の記憶の片隅から現れた彼。
最後の忘れられない会話。
クリスマスの夜だった。
大学病院への転院の数日前だった。
外泊者も多く、
比較的、いつもより患者が少なく
穏やかに消灯が済んだ。
急患もなし。
めずらしく、フリーな時間ができたので、
消灯時
「暇だ、こんな早く寝れるわけない」
と言っていた彼の暇つぶしにいった。
彼は、薄暗い中でテレビをみていた。
👤「クリスマスに仕事も大変だね」
私「そう?どうせ1人なら、仕事してる方が
寂しくないよ。」
👤「彼氏は?」
私「いるけどね、遠距離だから」
👤「僕の歳だと、彼女とか出来る人もいるんだろうな…人を好きになるって、どんな感じなんだろう。高校生って楽しいのかな…。
看護師さんは、友達たくさんいる?」
私「友達って…どうゆうのが友達なんだろぅて
考える可愛くない性格だから、あまり友達は
いないかも。苦笑」
👤「なんで、看護師になったの?」
看護師になりたいと思ったきっかけを話す。
👤「僕ね…高校に行かなくてもなれる仕事を
考えてみたんだけど…
美容師になりたかったんだよね。」
私「美容師!いいねー。美容師になったら
私の髪も切って欲しいなぁ。」
👤「なれるのかな。ハサミで怪我したら
まずいでしょ、僕の病気。」
私「良くなれば、なれるでしょ。
なれたらいいよね…」
👤「なれたら、看護師さんの髪…切ってあげるね。夢…だけどね。
大学病院に、行ったら…なれるようになるかな。」
私「なって欲しい。次に会う時は、病室じゃなく
美容室!ってね😝」
👤「オヤジギャグだね!笑
退院できたら、顔見せに来てってみんな言うんだよね」
私「私も会いたい!待ってるから!」
👤「うん。治ったら定時制の高校か、美容学校に行きたいなぁ。
あ、このテレビ…面白いよね!みたことある?」
彼は、私が返事に困ると思ったのか…
話題をテレビに変えた。
テレビの話をしているうちに、
ナースコールが鳴り、
私は彼の部屋を出た。
この後、転院まで
いつもと変わりなく過ごし…
彼は転院した。
数ヶ月後、
無事に移植が終わり、退院した!と
母親と2人で照れくさそうに
病棟に現れた。
嬉しかった!涙が出そうだった!
医者やスタッフが群がり、
私はあまり話す事が出来なかったが、
点滴もなく、私服姿で
マスクをした彼が
片手を上げ、手を振ってくれた姿を
私は忘れない。
👤「もう少し様子を見て、大丈夫だったら
母さんに、美容師になりたいって話をするつもり」
私「それまで、髪…切らずに待ってる!」
👤「嘘でしょ、何年かかると思ってんの…笑
またね!」
私「またね…で、良いのかな?
また、元気な顔を見せに来てね」
👤「たぶん、もうここには来ないよ!」
私「そうね、じゃあ、次は美容室で!」
👤「なれたら…ね」
数週間後…
彼が体調を崩し、大学病院に再入院し…
訃報が入った。
16歳…
これから先も、
私は彼を忘れない。
また、
君を想う日があるだろ。
今日、なぜ急に君を想ったのか…
君の命日がはっきりわからないままだけど…
もしかしたら…今日?だったのだろうか。
私の子供達が、
まだ、なりたいものもなく
元気なことを当たり前のように過ごしている。
日々を…大切に過ごさなきゃ…だね。