「美味し~い。モニック。これ何のポタージュ?」
 

ブザンソン大学時代、アパルトマンで一緒に同居していた友人モニックは、酪農家の出身であった。
 彼女の実家はフランス東部アヌシーから30分ほどのエクス・レ・バンにあった。小さなポンコツワーゲンで彼女が実家に案内してくれ、その時に始めて食べたのがこのポタージュクレシー(人参)だった。   

(モニックとお兄さんロナン)

ボネ家の農家で収穫したばかりの畑の野菜を大きな鍋にふんだんに入れる。冷蔵庫にあったベーコンや残り物のくず肉なども加えたっぷりの水を入れて薪の木のオーブンでじっくりと煮込む。
最初はこのシンプルな塩味だけのスープで食べる。
翌日はムーリネックス(手で回すミキサー)を使って超して農家の生クリームを入れてポタージュにして食べる。
 

90歳近いおばあちゃんの作る昔ながらのフランスの田舎料理は私を料理にめざめさせてくれた原点そのものだった。プロの料理人が作るフランス料理も洗練されてよいが、私が求めているものはフランス女性が家庭で毎日食べている素朴なもの。洗練された料理はレストランに行けば食べることができるが、こういう家庭料理は簡単にその家庭に入り込むことはできないし、なかなか機会をみつけるのはむずかしい。
私は大学での友達が増えるにつけ、幸運にも彼女たちの家庭に招かれ、ママンの秘伝の味を教えてもらうことができた 。
  

 フランスではスープは飲むという感じではなくて、manger de  la soupといって、スープを食べるという。これはジャガイモや固くなったフランスパンもつなぎとして入れるのでたっぷりと野菜の入ったものにパンも加わり具だくさんのスープになる。田舎パンを一緒につけて食べると、かなりのボリュームになる。一食分に相当するのである。スープをたっぷりとボルに注ぎ、田舎パンを浸しながら食べる。

(パンドカンパーニュ)
街中ではフランスパン(バゲット)を毎朝買いに行くが、田舎でよく食べられるパンといえばパンドカンパーニュ(田舎パン)であろう。毎朝パン屋さんに行けないので、ずっしりと重くてライ麦が入っているパンは保存もきくし、おなかにたまる。ライ麦含有率が日本では30パーセントくらいだが、フランスでは60パーセント以上入っている。最初食べたときは酸味も強いし、苦みもあるし、ずっしりと重くてあまり好きでなかった。田舎での生活に慣れていくうちに、この田舎パンにバターをたっぷりつけることによってまろやかな味になることがわかった。
今ではライ麦のたくさん入った田舎パンにブルーチーズ(ブレスブルー)とバターをつけて食べるのが大好きである。  

 

今日はモニックの田舎で食べたことを想い出しながら、このポタージュクレシー(人参)に田舎パンを浸して嗜んだ。