「看護師さん 痛いよ 痛いよ 助けてよ」
当時私が泌尿器科外来から、外科病棟に異動になり、すぐの出来事だ 私が30歳少し過ぎた頃であった
その声は前立腺がん骨転移の患者さんの訴えであった
私は泌尿器科外来に7年勤務していたため、泌尿器科疾患には詳しかった
前立腺がんは、がんのなかでも大人しい癌腫だ。症状が出て診断されるまでに30~40年はかかると言われている
男性が寿命で亡くなるまでに発見されない場合もあるそうだ。 そのくらい進行は遅い
万が一 尿の出が悪いと泌尿器科を受診し、採血検査や触診・組織採取検査などで見つかる場合が殆どである
しかし、治療法は確立されている。男性ホルモンを抑える注射を一生するか、内服併用でいくか、はたまた睾丸を摘出するか
前立腺切除をするか、放射線治療をするか、抗がん剤をするか今では選択肢が沢山ある
「検査の結果、前立腺がんでした」と患者と家族に説明し、治療法を説明、選択するのだが、診察室から時折笑い声が聞こえた事があった
「がんと診断されてなぜ笑いが起こるのか」不思議に思っていた
話しを聞いていると「睾丸を取れば注射はしなくて済みますよ」と言う説明に、患者さんと奥さんが「今更睾丸が無いことはどうでもいいですよねぇ ( ´∀` )笑」 となっていたことが判明した そーういう事か
でもがんと診断されて時折笑いが起こるのは、他のがんではたぶんないだろうと思った。これは前立腺がん告知特有ではないかと考えていた次第である
冒頭にも書いたが、このような進行の遅いがんに罹り、「痛いよ 助けて」となるのか
前立腺がんは採血の採血で腫瘍マーカーが高値であればあるほど、治療を受けたあとも「再燃」と言って悪化することがある
悪化したらどうなるのか 椎骨という骨に転移しやすくなり、骨転移の痛みが出てくる
骨転移の痛みはなかなかの物で、20年前は今よりがん性疼痛に使う痛み止めも少なかったため、痛み止めを使ってもしっかりと痛みが取れなかったからだ
当時、がん疾患に知識がなかった私は、何もできない自分に落ち込み精神的に病んだ 仕事が終わり、眠れない夜は車でどこまでも走り、少し落ち着けば家に帰って眠るということが続いた
「どうすれば苦痛を和らげることができるのだろうか」痛み止めの種類が少ない中、医師は痛み止めの指示を出すが効かない
看護師としてできることはないのかと悩み苦しんだ 患者さんが苦しい時は私も苦しい顔をしていたみたいで、ほかの看護師さんからは「どうしたの?具合でも悪いの?」と聞かれた 自分では気づかなかったが・・・
具合の悪いのは私ではなく患者さんだ。あの患者さんが痛いと言っているけれど、何もできなくて・・・答えると
「あなたは優しいね」と看護師さんから言われた記憶がある でも患者さんが辛い時は私も辛かった
これは憑依体質なのか すぐ患者さんに感情移入してしまう それは今も変わりはなく 良い面でも悪い面でもあるかもしれない
悩む日々が続いたが、患者さんはまだ他に沢山いるし、仕事はしなければならない。
そうして年月が経った頃、また同じような出来事に遭遇したのである
それはまた次回にでも。
PS:いつも読んで下さりありがとうございます。がん化学療法看護認定看護師の私が現場の情報を発信することで、少しでもお役に立てればと思います。がん患者さんはネットの情報に一喜一憂して不安になってほしくはありません。フォロワーになって方下さった、嬉しすぎてスタッフに自慢しました がん治療でブログを書いている方を沢山お見掛けします。本当に頑張っておられると頭が下がります。しかしがん治療は幅が広く、長く治療を受け普通に生活されている方が沢山います。特に高齢の方が、がんに罹って治療ブログを書くかと言えばほとんど書かれないと思います。そして患者さんを支えるご家族も発信されるかと言えば、あまりされてないと思います。個人差があるからです。癌腫の違いもあります。ブログを読んで前を向かれることを願います
私が泌尿器科外来に勤務していた頃、「前立腺検査を受けましょう」のポスターを見た80歳代の女性患者さんが「私は前立腺がわるいかもしれません」と診察に来られたときは正直固まりました