ガールズ・マンション 後編 | 931

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第六天が雨yayoiが晴れとせん

※前編は此方

http://ameblo.jp/hikaruhebi/entry-11332128796.html



 5階で降りると部屋中に満たされた香水の匂いに頭がクラクラした

殆どの女の子が華やかなドレスだったりミニスカートをはいて
派手にセットされた髪型は遠くからでも一般人とは違うと判るだろう


大人な感じでスタイルの良い女性が多く
普通の仕事なんてやってられないと言った雰囲気が醸し出されている


友人が僕の耳に手を当て小声で呟いてきた
「こういう連中は口が上手いから騙されるなよ!」


え・・・?


どう言うことか詳しく聞きたかったけど
ギャルが好きな友人は水を得た魚の様にハシャいでいて
とても僕と話をしている暇など無いようだ



まるでお人形さんの様に美しい顔立ちの女性が笑顔で向かいいれてくれる

もちろん全員て訳じゃないけど数名の女の子グループと話していると学生時代を思い出すほどだ


「ずいぶん仲が良いみたいだけど友達同士なの?」と僕が尋ねると
一瞬、間が有った後「そうですよぉ~♪」と1人が答え皆が頷いた

「へ~そうなんだぁ 学生さん?」と尋ねると
「私、大学生です!」と別の一人が笑顔で答える


まるでグループそのものが意思を持っているような奇妙な感覚だ


それぞれの個がバラバラで、一人ひとりガールズマンションに居る理由も違うし
共通点が有る訳じゃないのに何故かグループに一体感の様なモノが有る


ここまでの五日間が彼女達に友情の様な何かを芽生えさせたのだろうか?

それとも、このグループ全体そのものが僕を騙そうとしてるんだろうか…

チラリと友人を見ると楽しそうに女の子達と話している



妙な恐怖感と疑心暗鬼が香水の匂いと一緒に僕の肺と心を犯していく感覚に酔った僕は
「ちょっとトイレに行ってきます」と、たまらず其の場から逃げた


トイレでキラビヤカな彼女達と比べ品疎な自分の顔を鏡で見て居ると
トントンと肩を叩かれた


振り向くと友人がヤレヤレといった様子で話しかけてきた

「こういう所はサクラも多いから気をつけろよ?」

「サクラって?」
何も知らない僕に、少しメンドくさそうに丁重に彼は教えてくれる



なんでも会社が客引きの為に用意した人間で
ホテルの契約従業員が入居者として紛れ込んでるというのだ


当然だけど金目当てで言い寄ってくる人や
貢がせる目的で言葉巧みに虜に使用とする悪女なども居るらしい


「そんな事言われても…」と不安がる僕にアドバイスをくれた
「スタイル良くて優しくて顔の良い女は信用するな!」



トイレから戻った僕等を相変わらずの楽しいテンションで向かい容れてくれる彼女達の優しさや
出来すぎた容姿が怪しさに拍車を掛ける



けれど友人は、お構い無しと談笑を楽しんでいる

詳しい友人が笑顔て事は彼女たちは問題ないのだろうか?
それとも判ってて話してるのか…


「そんなにスタイル良くて可愛いとモテルでしょ?」と友人が女の子に尋ねると
「この胸のせいで遊び人にしかモテナイんですよぉ~」と困ったように答えていた


胸が大きくなりたいとかスタイル良くなりたいて人は大勢いるのに
スタイルが良すぎて困る人も居るんだなぁ~て思う一方で
こういう風に返答するのが如何にも熟(な)れた従業員ぽいと思えた


そんな疑いを抱いた時に、もしかしたら怪しく見られて
一般の人じゃ相手にしにくいのかもなぁと感じた。


もし彼女の言ってる事が真実で
美しすぎてモテナイのなら美て難しいと思った


女の人は、誰もが愛されるように美しさを求めるけど
その行き着く先に幸せが有るとは限らない


そんな不条理な世界に嘘と真実が平等の確立で存在する部屋を後にして
僕と友人はエレベーターに乗った



エレベーターの中で友人が話しかけてきた

「やっと6日目だぜ!」と嬉しそうに言う友人に
「6階が好きなの?」て聞くと「そりゃ~な」と頷いた


「俺はメンドクサイ付き合いとか嫌だし割り切った関係が丁度良い」


ブオーンと静かに空調の音が響くエレベーターで友人は続ける



「それに7階は、よっぽど金無い奴か変なのしか居ねぇだろ」

その時、エレベーターの扉が静かに開いた




 6階に足を踏み入れると殺風景な部屋に驚いた

テレビは2台しかなく自動販売機すら無い


ソファーこそ有るけど部屋の隅には携帯電話が乱立状態で壁から電気を吸い取っている


窓から見える外は赤く、何時の間にか夕暮れ時の暗い日差しが
部屋の印象を更に暗く重くする


反応はソレゾレでウンザリしたような眼差しを向ける者や
作り笑い丸出しの笑顔を向けてくる人や俯いてコッチを見ようともしない人

だけれど女を感じる匂いや艶に陰りは無い

今までと違うとすれば強い意思を持つ人と諦めてる人の二極化を感じるくらいだろうか。



「お兄さん、どんな人がタイプなの?」と一番に話し掛けてきた年上のオネェさんと
仲良く会話を楽しんでる友人と違くて僕にはトテモこの部屋で楽しむ余裕は無かった


女の子達もコイツは駄目だて目線を向けてくるし
この独自のドス黒い空気に耐えられない



近く遠くでお金の話が聞こえる


何の値段なのか完全には判らないけど高いか安いかで言えば
安いのだろうと思えた


その金額を更に値切る交渉をお互いに笑顔で話し合う男女は
同じ国の人間とは思えず僕は取り残されたような孤独感と遣る瀬無さを感じた



これが人の辿る結末なら
このマンションの住居者に幸せなんか無いじゃないか・・・


そう思った時に独りの女の子の顔が浮かんだ


なんなんだ?自分で自分が判らない

なんだがソワソワして心がハラハラする


なんで、こんなにも心配に為るんだろう…


これって好きて事なのかな…

それとも幼いアノ子の行く末が気に為るんだろうか



自分に自問自答していると友人が両肩に女の子を抱えた状態で声を掛けてきた

「上いく?」
僕は首を横に振った

「わかった!3階だろ?」と聞いてくる友人の問いに
なぜだか心臓がドキッとしたけど「僕はいいや…」と静かに否定した



少しの沈黙の後に友人が呟く様に語りかけてきた

「之だけの人が居る部屋の中で自分に興味を持ってくれる人は僅か数人で
ソノ中でも気に入るのは一人だけだ」


「まっ俺みたいに数人を同時に愛す奴もいるけどな」と笑顔で
左右両腕に抱えた女性二人に目配せをした


「どの階の人でもさ 俺なら気に為った奴等、全員に運命を感じるけど
お前は感じないの?」



僕は運命とは言えないと思った

だって彼女の事を何も知らないし偶然此処に居て会っただけ。

一番、自分の好みだったと言うだけで
それが運命の人とは思えない


ただ、彼女の事が気に為るだけ…



エレベータに乗った僕と友人と友人が連れ出した女性2人は
1階を目指した


静かに動くエレベーターは早すぎるスピードでマンションを下ってく



僕の右腕は何故か3階のボタンを押して
エレベーターは3階で止まった


エレベーターを出て部屋を見渡すけど彼女は居ない


部屋に居る一人ひとりの顔を確認するようにジッと見つめるけど
やっぱり居ない


眼の有った女の子が「あの子なら帰ったよ」と教えてくれた



そっかぁ~帰ったんだ…よかった。

安堵を感じ自分の心から心配が消えてくのが判る


教えてくれた彼女に心からお礼を言った

なんの得にも為らないのに教えてくれてた事に感謝した

もし、その言葉を聞かなかったら僕は長い間、心配を抱き続けたかもしれないからだ



お礼を言われた彼女は少し照れくさそうだった




 マンションを出ると外は真っ暗で、すっかり夜だ。

「今日は楽しかった」と友人と簡単に挨拶を交わした

繁華街の方に歩いていく友人が別れ際に「また奢りなら呼んでくれよなぁ~」と声を掛けてくる

僕は、もちろんだと手を振る



駅前に付くと備え付けの花壇に座り込む人の中に彼女を見つけた


偶然も二回重なれば必然だと思った僕は運命に近いモノを感じた



僕はドキドキしながら自分にも信じられない足取りで彼女に近づいてく

「コンバンワ」と声を掛けると見上げた彼女の瞳に光が宿る


覚えててくれた事に嬉しさを感じながら

「また会いましたね」と言うと彼女は不振がりながら

「気に入る人、居なかったんですか?」と尋ねてきた


頷いて了解を取り少し離れて彼女の横に座った



怪しい者を見るような眼で僕を見てくる彼女に上の階の事を話して聞かせた


疑いながら質問を続ける彼女に答えていく僕は
初めて出会った頃と立場が逆に為った事に妙に可笑しく為って来た


初めは僕が裏が有るんじゃないか?とか
悪い人間じゃないか?と疑いながら質問していたけど今は、すっかり逆だ



「自分でも何故だか判らないけど君が心配なんだ」と言った僕を
笑顔で見ながら彼女は言う
「そうは見えないですけど?」




おしまい


※この物語はフィクションです※

くるくるまわるヤヨタマいづこへ