2022年7月10日、参議院選挙比例区で当選したNHK党のYouTubeチャンネル『東谷義和のガーシーチャンネル【芸能界の裏側】』を運営する「ガーシ」こと東谷義和(ひがしたに よしかず)氏は、現在ドバイ滞在中で、本人は、「帰国すれば詐欺容疑で逮捕される可能性があるため秋の臨時国会まで帰国することはない」と語り、一方、同党の立花孝志党首は「逮捕しないという確約が取れるのであれば帰ってくるよう指示を出そうと思っている」と記者団に語ったそうです。

 

 この詐欺容疑の事案とは、ある企業のもとに、「YouTuberのヒカルをキャスティングできますよ」という話を持ち出し、広告費用やキャスティング費用の合計132万円を振り込ませ、企業は返金を求めるが、結局返ってこなかったという「YouTuberのヒカルさんキャスティング詐欺事件」で、もう一つは、K-POPのBTSのファンに「BTSに会わせる」と話を持ちかけ、旅費代やアテンド代等多額の金額を請求するが、実現ができなかった事案となるようです。

 

 詐欺容疑に疑念がある人物を国会に送ることが法律上許されるものなのか、議員辞職させる方法がないのかを検証してみます。

ポイントは

1,逮捕されたとしても、詐欺事件の事案を争い無罪を勝ち取り、議員を続行。

2,初登院で、登院しない行為が国会法や参議院規則に抵触し、懲罰委員会に付託されるも、「戒告」「陳謝」「登院停止」を受けるに止まり、議員を続行。

3,国会法第109条「各議院の議員が、法律に定めた被選(筆者注:被選挙権)の資格を失つたときは、退職者となる。」に抵触なるか。

4,懲罰委員会に付託され、除名決議が可決され、議員として失職。

5,自ら議員辞職をする。

 

 

政治家の身分保証

 どんなに悪いことをしても、選挙で選ばれた議員の身分には、一定の保証があるため、政党が勝手に政治家を辞職させることはできません。

政党によって政党を除名」された議員は無所属のまま活動を続けたり、他の政党に移籍したりすることが可能となります。

 このように、一度当選した議員をやめさせるのは、現行憲法下では非常に難しいのです。

 

   国会議員が選挙違反や汚職などで刑事責任を問われても、失職にまで至る例はわずかで、国会などで追及を受けてから初めて、議員辞職するパターンが大半となります。

 

 

財源は税金となる参議院議員の歳費(年収)

 因みに、議員になると疑惑が持たれている間も、下記のような高額な歳費(給料)や特典が付与され歳費が支払われます。

 

1,歳費は年2,181万円。

 内訳①月額129万4,000円×12か月 =年1,552.8万円

 ②年2回の期末手当(ボーナス)=年 約629万円

2,他に、文書通信交通滞在費(非課税)は年1,200万円

 月100万×12か月

 以上の1,2だけで、年合計3,381万円

 この金額は、民間給与実態統計調査2020年の男性の平均給与額532.2万円(年間給与449.4万円+賞与2回分82.8万円)の6倍強となり、パイロット収入の1.98倍となります。

 因みに2019年 賃金構造基本統計調査「職業別の男性平均年収ランキング」では、

 1位、航空機操縦士(パイロット)39.6歳 1,708万300円 

 2位、医師41.6歳 1,226万9,400円、

 3位、大学教授57.7歳   1,117万2,600円と続きます。

3, 下記のいずれか一つを選択。

 (1)新幹線のグリーン車を無料で利用できるJRパス

 (2)JRパスと月3往復分の航空券引換証

 (3)月4往復分の航空券引換証

 ただ、(2)と(3)は地方選出議員に限られるようです.

(4),秘書給与は最大3人分を国が負担。

(5)議員宿舎に周辺相場50万円よりも割安な使用料で入居。

 参議院議員宿舎は紀尾井町にある「清水谷宿舎」と千代田区麹町4丁目にある「麹町宿舎」の2つとなり、清水谷宿舎には食堂、売店、会議室、駐車場が備わっており、家賃相場50万のところ、3LDK(81㎡)で15万8千円、1LDK(56㎡)で約11万円となり、建物内には看護師が24時間待機。

 麹町宿舎は2LDK(75㎡)で、6万5千円程になるそうで、これらの待遇が6年間受けることができます。

 

 1920年1月着工、1936年11月に完成。

 正面に向かって左側が衆議院、右側が参議院。中央塔の高さは65.45m。

 

2022年参議院の臨時国会開催

 新しい参議院は2022年8月3日から5日の3日間、臨時国会が開催される見通しで、今回の参議院選挙で当選した議員も初登院します。

 臨時国会では法案の審議はしないで、新しい参議院の議長や副議長、17の常任委員会(内閣、総務、法務、外交防衛、財政金融、文教科学、厚生労働、農林水産、経済産業、国土交通、環境、国家基本政策、予算、決算、行政監視、議院運営及び懲罰)の委員会の委員長を選出し、国会での質問時間が配分される「会派」も決められる予定となっています。

 

問題の提起

 8月3日から3日間の参議院臨時国会に東谷義和氏が「帰国すれば詐欺容疑で逮捕される可能性がある」として登院しなかった場合、同氏はどうなるのかという問題提起です。

 新人議員が海外居住を理由に登院しなかったことは過去に例がなく、下記に述べる憲法、国会法や参議院規則に抵触し、懲罰委員会が開催されるのではないかという事案です。

 

1,議員は、召集詔書に指定された期日に、各議院に集会しなければならない。(国会法第5条)

2,議員は、召集詔書に指定された期日の午前十時に参議院に集会しなければならず(参議院規則第1条)、当選後始めて登院する議員は、当選証書を事務局に提示し、これと当選人名簿との対照を受けなければならない。(参議院規則第2条)

 3,議員が正当な理由がなくて召集日から七日以内に召集に応じないため、又は正当な理由がなくて会議又は委員会に欠席したため、若しくは請暇の期限を過ぎたため、議長が、特に招状を発し、その招状を受け取った日から七日以内に、なお、故なく出席しない者は、議長が、これを懲罰委員会に付する。(国会法第124条)

 4,衆参両議院は「院内の秩序をみだした議員」を懲罰することができるが、議員を除名するには、出席議員の3分の2以上(筆者注66.67%)の多数による議決を必要とする。(憲法第58条2項但し書)

 

懲罰権並びにその流れ

 指定日に登院しなければ、「院内の秩序を乱した」と看做されるのでしょうか?

 

 懲罰とは、日本国憲法や国会法の規定に基づいて、「院内の秩序を乱した」として衆議院あるいは参議院に所属する国会議員に対して、懲罰を与えることが相当とみられる行為となります。

 指定日に登院しなかったため、「院内の秩序を乱した」懲罰事犯と認定された場合、議員の懲罰に関する事項や議員の資格訴訟に関する事項を対象とし(参議院規則74条17号)、議院は議決をもって懲罰を所属の議員に下すことができ、この懲罰委員会への付託ルートは二通りあります。

 

〇議長職権による懲罰委員会付託

 議長あるいは各委員会の委員長が懲罰事犯と認めた事件について議長が職権で懲罰委員会へ付託する場合(参議院規則234条)

〇議員による懲罰動議提出による懲罰委員会付託  

 参議院においては20人以上の賛成で懲罰の動議を提出することができますが、この動議は、事犯があつた日から三日以内にこれを提出しなければなりません。(国会法第121条3項)

 

 

懲罰委員会における懲罰の種類(国会法第122条)

 議員に対する懲罰は大きく4つあり、「公開議場における戒告」「公開議場における陳謝」「30日未満の登院停止」「除名」の順に重くなります(国会法第122条)

 動議を受けて懲罰委員会で審査され、本会議で議決されますが、議決には「戒告」「陳謝」「登院停止」の3項目については出席議員の過半数、議員としての職を失う「除名」には、出席議員の3分の2以上(66.67%)の賛成が必要となります。

 

■一定期間の登院停止(同法第242条) 

 登院停止は、三十日を超えることができません。登院を停止された者がその停止期間内に

登院したときは、議長により退去が命じられ、その命に従わないときは、必要な処分をおこない、更に懲罰委員会に付されます。(参議院規則244条)。

 

除名(じょめい)

 参議院規則では「議院を騒がし又は議院の体面を汚し、その情状が特に重い者」を除名の対象として定め(参議院規則245条)、懲罰委員会が除名すべきものとして報告したが、本会議で出席議員の3分の2以上の多数による議決の要件を満たされなかった場合、議院は懲罰事犯として他の懲罰を科することができます(参議院規則246条)

 

  現行憲法下での除名の事例は以下の2つのみとなります。

〇1950年の本会議での予算案採決に際し、反対討論を行っていながら賛成票を投じたことが国会運営の原則を無視するものだとして野党の反発を招いた小川友三参院議員(無所属)(除名賛成率92.19%)

〇1951年の政府・GHQの政策を反動と非難して社会主義国家と革命を賞賛、議会政治の否定とも受け取れる発言への陳謝を拒否した川上貫一衆院議員(共産)(除名賛成率77.10%)である。

 

議員の逮捕

■内閣による院への逮捕許諾手続き

 各議院の議員の逮捕につきその院の許諾を求めるには、内閣は、所轄裁判所又は裁判官が令状を発する前に内閣へ提出した要求書の受理後速かに、その要求書の写を添えて、これを求めなければなりません。(国会法第34条)

 

■議員の会期前逮捕に係る勾留期間延長裁判、釈放要求発議手続き

 内閣は、会期前に逮捕された議員があるときは、会期の始めに、その議員の属する議院の議長に、令状の写を添えてその氏名を通知しなければならず(同法第34条の2)、内閣は、会期前に逮捕された議員について、会期中に勾留期間の延長の裁判があつたときは、その議員の属する議院の議長にその旨を通知しなければなりません。

 議員が、会期前に逮捕された議員の釈放の要求を発議するには、議員20人以上の連名で、その理由を附した要求書をその院の議長に提出しなければなりません。(同法第34条の3)

 

■憲法50条「不逮捕特権」

 両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。(憲法50条)

 各議院の議員は、院外における現行犯罪の場合を除いては、会期中その院の許諾がなければ逮捕されません(憲法第33条)。議会乱闘により、暴行罪に問われるような場合であっても院内である限り現行犯逮捕はされません。

 参議院の緊急集会にも適用があります。(国会法100条)

 会期中とは、国会が開かれている期間を指し、閉会中にはこの不逮捕特権はありません。

 逮捕とは刑事訴訟法にいう逮捕に限定されず、捕らえて,連行する勾引(こういん)、逃亡や証拠隠滅を防ぐため被疑者・被告人を拘禁する勾留(こうりゅう)等、広く身体の拘束を含みます。

以上より、国会議員の逮捕は、「閉会中」と「院外における現行犯の場合」と「所属する院の許諾がある場合」に限り許されるという事になります。

 

国会法109条と公職選挙法11条

 公職選挙法第11条は、選挙権及び被選挙権を有しない者として、

 二 禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者

 三 禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)として執行猶予の付かない禁固以上の刑が確定した場合、被選挙権を失うと定め、国会法109条では「各議院の議員が、法律に定めた被選の資格を失った時は退職者になる」と規定しています。

 本件で問題となっている詐欺罪は人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。(刑法第246条)と規定して、①人を欺(あざむ)く行為(欺罔行為)②欺く行為によって被害者が騙(だま)される(事実と認識が一致しなくなる)③財産の引き渡しや処分が行われる、または財産上の利益が加害者へ移転する④①~③の間に、ある行為と結果との間に存在していると認められるつながり(因果関係)があることが必要になります。

 上記4つの要件を満たした場合に詐欺罪が成立します。③に至らない、つまり、実際に加害者へ財産の引き渡しが行われなければ、詐欺未遂罪となります。

 

執行猶予

 執行猶予とは、有罪判決による刑の執行を一定期間猶予することができる制度のことをいいます(刑法25条)。執行猶予の期間は、1年から5年の間で、裁判所が定めます。

 起訴されて、第1審で執行猶予がつく割合は、約50~60%の範囲だそうで、執行猶予がつけば、有 罪判決であっても、刑務所に入らずに済み、通常の社会生活を送ることができ、猶予期間を無事に経過すると、刑の言渡しの効力は失われます。

 

■執行猶予付与条件(刑法25条1項)

①     禁錮以上の刑に処せられたことがない者、又は、禁錮以上の刑に処せられたことがあっ

ても、その執行を終えた日から5年以上が経た者。

②     3年以下の懲役・禁錮、又は50万円以下の罰金を言い渡す場合

 被害の重大性、行為態様、犯意の強さ、計画性、犯行に至る経緯・動機、反省態度、再犯のおそれ、更生の見込み、示談の成成立などが重要となります。

 

 事件の容疑で現役の国会議員が逮捕されると、その議員が自ら辞職した場合を除き、議員はその資格がないことが証明されるまで、議員において、議員としての地位及び権能を失わない(国会法113条)。従って、有罪が確定するまで数年は議員の職を失うことはありません。

 実刑確定で失職した国会議員は、ゼネコン汚職事件であっせん収賄罪に問われた中村喜四郎元建設相や、オレンジ共済組合詐欺事件で詐欺罪に問われた友部達夫元参院議員などの例があります。

 

本人が議員辞職した場合又は死亡した場合はどのようになるか

繰り上げ当選

 繰り上げ当選とは、当選者の退職や辞職、もしくは死亡で選挙の当選者が欠けてしまった場合、選挙の種類や時期により別の候補者が当選することをいいます。

 

■繰り上げ当選が認められない場合

1,衆議院議員選挙(小選挙区)、地方公共団体の長の選挙の場合

 例外として、同数得票によりくじで落選した人がいる場合は繰り上げ当選の対象になりますが、原則として繰り上げ当選は認められません。

2,3ヶ月を超えてから欠員が出た場合

 当選者と同数の票を獲得した候補者がいた場合のみ繰り上げ当選が行われますが、繰り上げ当選は原則として行われません。

 

3,衆議院議員選挙(比例代表)、参議院議員選挙(比例代表)の場合

 欠員となった議員の政党の名簿登載者が全員当選した場合、繰り上げ当選は行われません。

 

4,衆議院議員選挙で小選挙区と比例代表選挙の両方に立候補し、小選挙区での得票数が供託金没収点を下回った場合

 繰り上げ当選の対象にはなりません。

5,参議院議員選挙(選挙区)、地方公共団体の議会の議員の選挙

 衆議院議員や首長の選挙では、原則として繰り上げ当選は行われません。

 

■繰り上げ当選が行われる場合

1,衆議院議員選挙(小選挙区)、地方公共団体の長の選挙の場合

 原則として繰り上げ当選は行われませんが、当選者と同数の票を獲得してくじの結果落選した人がいた場合は、当選者の辞職等で任期中に欠員が発生した場合繰り上げ当選の対象になります。

 

2,参議院議員選挙(選挙区)、地方公共団体の議会の議員の選挙

 選挙が行われた期日から3ヶ月以内に欠員が出た場合、次点で得票数の多い候補者が繰り上げ当選になります。

 3ヶ月を超えてから欠員が出た場合は、当選者と同数の得票があり、くじにより落選になった候補者がいるときに限り繰り上げ当選が行われます。

 

3,衆議院議員比例代表選挙(比例代表)、参議院議員選挙(比例代表)

 当選した議員の任期中に欠員が出た場合、衆議院・参議院ともに比例代表選挙で当選した議員の欠員の場合には欠員者と同じ政党の名簿に従い次点の候補者が繰り上げ当選します。比例代表選挙で補欠選挙が行われたことは今までにありません。

 

補欠選挙

 補欠選挙とは、選挙に当選した「議員」が死亡や辞職をした場合に、繰り上げ当選をしても議員の数が不足する場合に行われる選挙です。

 

 補欠選挙を実施する条件は公職選挙法第113条により定められ、補欠選挙は下記のような場合に行われます。

 

〇衆議院小選挙区選出議員の欠員が発生したとき

 ただし、衆議院小選挙区選出議員の欠員が発生してすぐに衆議院が解散した場合や地方議会の任期が残り6ヶ月を切っていた場合には、上記の条件を満たす欠員が発生していても補欠選挙は行われません。

〇参議院選挙区では、当該選挙区の定数の4分の1を超える欠員が出たとき

〇衆議院・参議院の比例代表では、欠員の人数が不足数を合わせて定数の4分の1を超えたとき(実際には繰り上げ当選が実施される場合が多い)

〇都道府県議会の場合には定数が複数の選挙区で2人以上の欠員が出たときか、定数が1人の選挙区で欠員が出たとき

〇都道府県知事の選挙が行われる際に議会に欠員が発生しているとき

 

 

 参議院議員(選挙区選出)や地方議員の欠員の場合には、当選から3ヶ月以内の欠員であれば繰り上げ当選が行われます。

 なお、参議院議員(選挙区選出)や地方議会の議員の場合、3ヶ月を超過して欠員が出た場合には基本的に繰り上げ当選ではなく補欠選挙になります。

 衆議院小選挙区選出議員の場合には欠員が出たとき、参議院選挙区選出議員の場合は当該選挙区の定数の4分の1を超える欠員が出たときに補欠選挙が行われます。

 

  いかがでしたでしょうか?

 本件がどのように進展していくのか注視していきましょう。