今回は自己所有マンションの長期管理費等滞納の回収の話となります。

 

マンションを購入する場合、多くは金融機関からの融資に頼らざるを得ません。そうなると、固定資産税・都市計画税の支払い、毎月々の長期銀行ローン支払い、管理組合に対し管理費や修繕維持積立金(以降管理費等と記載)の支払いが発生します。

 

そんなある日、金融機関への支払い遅延や入居するマンション管理組合に対して管理費等の遅延が発生したとします。

そのような事態になると、金融機関に組み換えや延期の相談をしたり、親や親戚などから工面をしたり、残った残高を勘案して任意売却を検討したりと頭を絞って対応策を検討されることと思われます。

しかしながら、万策が尽き、支払い遅延が長期化となると、金融機関や管理組合から競売の申し立てがなされます。

 

 

管理組合側から見て、長期滞納管理費等の回収方法がないか考えてみましょう。

 

競売

 管理組合などが裁判の判決によって行う競売(強制競売)は「強制執行」と呼ばれ、判決文の中で強制執行をしてもよいという「債務名義」が必要となります。

一方、金融機関などが行使する担保権による競売は「担保権の実行としての競売」と呼ばれ、債務名義は必要なく、不動産登記法での登記事項証明書などで抵当権設定があれば執行できることになります。

 

競売価格が低くなる主な要因

同一不動産資産なのに、競売になると市場価格に比べ下落することとなります。

いったい何故でしょうか?

 

競売に際し付される「売却基準価格」は不動産鑑定士が算定し、裁判所が最終的な価格を決めて公表されます。

 一般的に、市場価格よりも30%安い金額で募集がなされ、買受の申込みは更に20%安い金額となり、結果的に一般市場価格の56%程度の価格が競売の価格になるからです。

 

東京都の平均的中古マンション事例を面積44㎡、築年数19年、最寄り駅から徒歩7分、売買金額3,657万円とした物件の競売例は、

     3,657万円(市場相場)×70%=2,560万円(売却基準価格

     2,560万円(売却基準価格)×80%=2,048万円(買受可能価格)

 2,048÷3,657×10056%となります。

 

この一例のように、競売になると市場相場に対し買受可能価格は56%程度となります。

その理由は、買受人の責任と費用で引き渡しを受けるため、下記のような各種の制約などの特殊性を反映させた価格となるためです。

 

 

 

■買受人の売主に対する危険負担要因

〇売主(管理費等長期滞納者等)が協力してくれないケースが多いこと。

〇買受人は売主に対して、明け渡しなど直接交渉しなくてはいけないこと。

〇居座って明け渡さない場合には、明渡しの強制執行をしなくてはいけないケースもあること。

〇いわゆる、事故物件(自殺や殺人事件)かどうかまで把握できないこと。

 

■買受人の危険負担要因

〇競売物件という抵抗感があること。

〇裁判所の調査後、大規模改修工事が行われ、費用の臨時徴収があった場合にはその費用も滞納しており、未払い管理費等のほか、買受人の負担が増す場合があること。

〇内覧制度はあるものの物件の内覧ができないこと。

〇現状有姿そのままで引き渡されること。(リフオーム資金の負担)

〇物件明細書は必ずしも正確であるとは限らないこと。

〇登記地積と実際の地積が相違している可能性があること。

〇落札した場合、売却代金を1か月以内に一括で支払う必要があること。

〇裁判所の資料が間違っていた場合でも、代金を支払った後であれば返金されないこと。

〇金融機関と買受人との間にローン特約が効かないため、融資がおりなかった場合は現金で支払うことができる人しか入札できないこと。

〇住宅ローンが組みにくいこと。(自分が住むためのローンが住宅ローンで、転売、投機目的の場合は住宅ローンが組めない)
 

競売になった場合の配当順位とは

不幸にも、競売が開始された場合、競売代金から回収することができる順位は下記のようになります。

1順位 執行費用(執行官の物件現況調査手数料、鑑定人の評価手数料、裁判所発送の郵便費用)

2順位 公租公課(固定資産税、市県民税、健康保険料、自動車税など滞納税金すべて)

3順位 銀行などが設定した抵当権によって担保される債権。但し公租公課の法定期限以前に登記されたものは公租公課に優先されます。

4順位 管理組合など優先権のない滞納管理費等の一般私債権。

 

無剰余取消とは

競売では前述第1順位から第4順位の順で配当となりますが、執行裁判所が定めた買受可能価額が執行費用と優先債権の合計見込額を下回った場合を無剰余といいます。売値(買受可能額)より優先債権が大きすぎる場合となります。

民事執行法631項は、このように競売を実施しても管理組合などの差押債権者に配当される剰余がない場合には、配当が回って来ない管理組合などの債権者からの競売申立は無益な競売として認めていません。

従って、マンション管理組合の管理費等の回収ができない場合、競売の取り消しとなります。これを無剰余取り消しといいます。

この無剰余取り消しの存在理由は、無益な換価を防止するとともに優先債権者の換価時期の選択権を保証する趣旨のようです。

 

 

建物の区分所有等に関する法律(略称:区分所有法)

管理組合が管理費等の滞納者に対して通常の管理費請求訴訟を提起し、勝訴判決を得てマンションを差し押さえし、競売手続きを行っても回収できない場合に、区分所有法第59条の手続きがあります。
 

■区分所有法第95条のメリットとは

新しいマンション所有者に、滞納された管理費等を請求するために行われます。

 

長期管理費滞納者の所有マンションに多くの差し押さえがなされていると、競売で売っても全部の債権を満足できない場合は途中で手続きが取り消されてしまう(無剰余取り消し)ことは前述した通りとなります。

しかし区分所有法第95条競売は無剰余な場合でも競売を行い、マンションを売却することできます。

すでに述べたように、マンションの売値よりローン残債が大きい場合、滞納管理費等はマンションの代金から回収できませんが、区分所有法第8条により競売によってマンションを買った新しい所有者に請求することができ、回収することができます。

これが、95条のメリットとなります。

 

 

滞納管理費等に関する解釈事例
 

滞納管理費の支払い方法の事例

注 ここでいう◎売主とは管理費を滞納しているマンション所有者。◎買主とは一般買主又は競売で落札した買受人(購入者)のことです。

 

〇滞納している管理費などは売主が払うという約束があっても、買主にも売主にも請求できます。ただし、管理組合と売主の間で売主が支払うという和解が成立していれば、新しい買主には責任がありません。(民法第69

〇売主、買主間で「滞納分は売主が全責任をもって管理組合に支払い、新たな買主には一切迷惑をかけない。」という念書をもらって売買した場合、区分所有法第8条は、「債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。」と定めるので売主が全部支払うという念書は、売主と買主両者間の問題であり、管理組合に対しては、何らの効力もありません。

〇競売代金全額を裁判所に支払って買主となったが、現況調査報告書に管理費の滞納分について記載がなかった。このような場合でも、買主は売主の特定承継人としての支払義務を負わされ、管理費等の遅延損害金の支払義務も負わされる。

〇特定承継人である買主が、売主の滞納管理費等を弁済すれば、買主は売主に対して償還請求ができます。

〇宅地建物取引業者は、マンション売買を代理、仲介するにあたっては、未払の管理経費について、重要事項として説明が必要。

〇管理組合は、管理費、特別修繕積立金を支払わないままマンションの専有部分が売買、譲渡された時は売主と買主の双方に対して請求することができます。

〇マンションの売却が行われた場合、管理組合はその買主に対して、売主である区分所有者の滞納管理費についてその遅延損害金と共に請求することができる。

規約に管理費についての遅延損害金に関する定めがない場合でも、その遅延損害金を請求することができる。

〇金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。(民法第4191項)

〇利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは年5%を請求できる。規約で定めがなくても、遅延損害金の請求はできる。(民法第404条)

 

■滞納者の死亡の事例

〇管理組合は、管理費の滞納者が死亡した場合、その相続人に対し滞納管理費を請求することができ、相続人は、相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。(民法第896条)

〇管理費等滞納者の死亡後、専有部分の登記名義が死亡者のままになっている場合、管理組合は死亡者の相続人に対して滞納管理費の支払請求訴訟を提起することができる。

すなわち、管理費滞納者の債務は当然に相続されるから専有部分の登記名義が死亡者のままになっている場合でも、管理組合は死亡者の相続人に対して滞納管理費の支払請求訴訟を提起することができる。

〇管理費を滞納している区分所有者が死亡した場合、遺産分割により当該区分所有者の区分所有権を取得する相続人が決定しなくても、管理組合はその滞納している管理費を請求することができる。

すなわち、相続は死亡と同時に開始し(民法第896条)、相続債務はその区分建物の帰属如何にかかわらず相続分に応じて当然に承継される(民法第899条)。従って、具体的にそのマンションの相続人が未定でも滞納管理費は請求できるからである。

 

■滞納管理費等の一部支払いの事例

〇滞納管理費の一部の弁済であることを明示し支払ったとき、その残額について時効は中断する。(これまでの時効期間はなかったものとなる。)

時効が中断される事由は 請求、 差押え、仮差押え又は仮処分、 承認 (民法第1473号)となる。

 

■債務不履行、遅延損害金発生となる事例

 〇管理費を滞納している区分所有者が、勤務先である会社の倒産によって収入がないため、その管理費を支払うことができないことが真実であっても、当該区分所有者は債務不履行になる。

上記事情による滞納はやむを得ないが、管理費支払債務等の金銭債務については不可抗力でも責任を免れない(民法第419 2 項)。

大地震などの自然災害で交通が遮断されていて、支払いに行くことができなかったために履行遅滞になったような場合でも損害賠償責任は免れないということになります。

〇区分所有者が管理費を納付すべき期日に納付しなかった場合、規約に特別の定めをしていない場合でも、当該区分所有者は遅延損害金の支払義務を負う。

すなわち、確定期限のある債務は期限到来により履行遅滞となり(民法第412 1 項)、履行遅滞となると遅延賠償の損害賠償義務が生じ(民法第415条)、遅延損害金も払わなければならなくなります。

 

■支払いの継続的督促の事例

 管理組合が管理費等の未納者に対し6ヵ月ごとに配達証明付き内容証明郵便で支払を督促したとしても、滞納管理費の支払請求権の消滅時効は中断しない。

民法第153条では「催告は、6箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法 若しくは家事審判法 による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。」と規定しているからです。

 

区分所有法重要関連条文
 

重要となる条文は下記のようになります。

■区分所有法第6条1項 

 管理費・修繕積立金等の滞納が原因で、建物の修繕に重大な支障が生ずるような状況に至っている場合は、建物の管理に関し区分所有者の共同の利益に反する行為に当たるとしています。

 

■第71

区分所有者は債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。

 

■第8

前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

ここでいう特定承継人とは

〇売買、交換、贈与などによる普通の権利の承継人

〇売買契約の譲受人(買主)

〇抵当権の実行により競売物件を競落して所有権を取得した競落人(買受人)をいいます。

 

■第571

 区分所有者が第六条第一項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。

 2項  前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。

 

それでは,無剰余の状況であっても競売に持っていける区分所有法第59条について述べていきます。

 

区分所有法第59条の手続きを進めるための要件

1、   区分所有者の共同の利益に反する行為によって、区分所有者の共同生活の傷害が著しいこと。

2、   他の方法では区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であること。

3、   管理組合の総会において区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数で決議されること。

4、   あらかじめ、当該区分者に対し、弁明の機会を与えるため、通常の招集通知とは別に、総会において弁明の機会を与える旨の内容証明月通知が必要であること。

5、   内容証明郵便や総会において滞納者が欠席したらその旨を、出席したらどのような弁明がなされたかを詳細に議事録に記載する必要があり、これらの要件が満たされていることを訴訟で証明すること。

6、   なお、区分所有者全員の承諾があれば、集会を開催せずに、書面または電磁的方法により決議はできます。(区分所有法第45条1項及び3項)

7、   区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。

8、   裁判で勝訴した原告(管理組合法人、管理者又は集会で指定された者)の競売申立ての期限が判決確定の日から6ヶ月以内に行うことに、制限されています(3項)。

 

区分所有法59条の特徴

1、税金や金融機関等の抵当権が優先され、これら優先より少ない額で売れた場合、管理組合は滞納された管理費等を回収することができません。

 そのように裁判所で判断された場合には競売の申し立ては却下されます。

2、しかし、区分所有法59条競売の場合は売値よりローン残債などが大きそうな上記の場合でも、競売を強行することができます。

3、しかしながら、上記1のように管理費等は回収されません。

4、区分所有法8条により、新しいマンション所有者(買主)に滞納分の管理費等を請求することができるからです。

 

長期管理費滞納でお困りの管理組合役員、組合員に置かれましては、区分所有法59条を活用して、弁護士さんと相談して、長期管理費等の回収を図ってみてください。