吉澤ひとみ(33歳)(元モーニング娘)が酒気帯び運転でひき逃げをしたとして、自動車運転処罰法違反(過失傷害)と道交法違反(ひき逃げ、酒気帯び運転)の

 

 

罪に問われた裁判で、東京地裁は同被告に「懲役2年、執行猶予5年」の有罪判決を言い渡しました。

量刑の理由について「被告人は酒気帯び運転、過失運転致傷、救護義務違反、報告義務違反という、そのいずれか1つを犯しただけでも重い責任を問われる罪を犯している。被告人の責任は相当に重い」と厳しく指摘しています。
 


 

この執行猶予付き判決の場合、「懲役2年の刑に処するが、直ちに刑の執行はしない。今後5年間、新たな罪を犯さなければ懲役2年の刑はなかったことにする」という意味になります。

 

平成25年に刑法等の一部を改正する法律が成立し、刑の一部の執行猶予制度が創設されました。この制度は、3年以下の懲役又は禁錮を言い渡す際に、執行猶予期間を1年以上5年以下として、その刑の一部の執行を猶予するものです。

執行猶予制度趣旨は、執行猶予期間中に社会内でも犯罪を行うことなく生活するよう促すものです。

 

執行猶予付き判決の実績

平成28年に結審された第一審の裁判においては、およそ6割の事件について執行猶予付き判決となっているようです。

 

実刑判決と執行猶予付き判決の差異

■共通点

実刑判決も、執行猶予付判決も、有罪の判決である点で共通し、どちらも前科がつく点でも共通します。
 

■相違点

実刑判決の場合は判決が下されると直ちに刑務所等に収容されるのに対して、執行猶予付判決の場合は直ちに刑務所に入る必要はありません。

今回のように「懲役2年,執行猶予5年」という判決が言い渡された場合,5年間は懲役刑の執行が猶予されます。

このように執行猶予が付くかどうかで,刑務所に入るかどうか、非常に大きな分かれ目となります。

 

実刑判決

■刑罰の種類

日本の刑法では重い順に、死刑 刑事施設内において絞首(刑法第11条)、 懲役 刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる(刑法第12条)、 禁錮 刑事施設に拘置する(刑法第13条)、 罰金 原則1万円以上の財産刑(刑法第15条)、 拘留 1日以上30日未満刑事施設に拘置する(刑法第16条)、  科料 千円以上1万円未満の財産刑(刑法第17条)、労役場留置 罰金・科料を完納することができない者は一定期間労役場に留置する(刑法第18条)という刑罰が定められています。

 

実刑判決とは執行猶予が付かない禁固刑や懲役刑の有罪判決のことで、刑務所に収容され、その後数か月・数年間を刑務所で過ごすことになります。
 

有罪判決で刑事施設に入った人のことを受刑者と言いますが、刑務所での生活は、朝6時に起床し、21時には就寝という規則正しい生活になります。食事は3食出ますが、質素なものになっています。

 日中は刑務作業を行い、土日は休みで余暇時間に当てられます。部屋は雑居房で、数人と24時間同じ空間を過ごします。風呂は週に23回、プライバシーはありませんし、自由がありません。
 

 

■実刑判決の可能性(執行猶予がつかないケース)

〇法定刑が懲役3年以上の罪に該当する殺人罪、強盗罪、強姦罪などで、犯罪内容が悪質であれば、実刑判決の可能性が高くなります。

〇過去に懲役刑や禁錮刑を受けたことがある場合。

〇執行猶予中にふたたび罪を犯してしまった場合。

などは、執行猶予がつかない場合が多くなります。

 

保釈と執行猶予の違い

執行猶予は、判決が既に出ていて、その刑がすぐに執行されないということですが、保釈の場合は、裁判の判決が出るまでの間、保釈金を払って釈放してもらうことです。

従って、釈放されていても裁判は進行中なので、被告人のままとなっています。判決結果で実刑判決となれば、保釈は取り消されて刑が執行されます。執行猶予が付けば、そこからは執行猶予期間となります。

 

執行猶予付判決

今回のような執行猶予付判決とは、たとえ有罪判決(懲役2年)が下されたとしても、執行猶予期間(5年)において、他の刑事事件を起こさないことを条件に、刑務所に収監される刑罰の執行を待ってもらえる判決のことです。

このように、有罪の判決でも、執行猶予が付けられた場合、直ちに刑務所に収容されることはなく自宅に戻れます。

ただ、執行猶予付判決も有罪の判決には変わりないですから、残念ながら前科は残ることになります。

 

■執行猶予中の再犯の場合

もし、執行猶予期間中に、ふたたび犯罪を起こした場合、執行猶予の効力が取り消されてしまいます。

しかも、猶予されていた前の刑罰と新たに犯した犯罪の刑罰とを合算した刑罰が執行されるため、長期間刑務所に収容されることになります。

今回のように「懲役2年執行猶予5年」と言い渡され、執行猶予期間中である5年以内に、ふたたび罪を起こして「懲役1年」との判決が言い渡された場合、新たな刑罰である「懲役1年」と、当初の「懲役2年」が合計された「懲役3年」の刑罰に処せられ、刑務所の中で3年間を過ごすことになります。

従って,猶予期間中は特に注意して生活する必要があります。

 

執行猶予を得られるケース並びに最長期間は(刑法第25条)

刑法第25条(執行猶予)では次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その執行を猶予することができる。

一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

 

2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。と規定しており、最長が5となります。

本件の執行猶予期間が5年とは最長となり、相当重い処分となります。

執行猶予期間中は一部の職業に就けなくなったり、ビザが下りにくくなったり、新規のパスポートや、パスポートの更新ができない場合がありますが、国内旅行、就職、引っ越し、結婚などは可能となります。

 

 なお、法律上は、罰金刑にも執行猶予を付す余地がありますが、極めて稀であり、執行猶予判決となるほとんどの場合が懲役判決となっています。

 

25条記載にいう「情状によりとは

・犯行態様が悪質でなく、危険性が少ないこと

・被害が比較的軽微であること

・同情すべき事情があること

・被害弁償、示談が成立していること

・前科・前歴がないこと

・更生の意思、更生のための環境が整っていること

・常習性、再犯の恐れがないこと

など、上記に挙げた要素を総合的に考慮して、裁判官が執行猶予付きの判決をするかどうかを判断します。

 

保護観察

執行猶予には保護観察が加重されることがあります。これは執行猶予期間中の人が、再犯しないように保護観察官によって行動を監視してもらったり、指導を受けたりすることです。

また、性犯罪や薬物犯罪などの再犯率が高い人には、更生プログラムの受講をさせることがあります。

 

執行猶予が取り消されてしまうケース

刑法では執行猶予の取り消しについて、次のように規定されています

■執行猶予の必要的取消し(強制)

刑法第26条では次に掲げる場合においては、刑の執行猶予の言渡しを取り消さなければならないと規定しています。

一 猶予の期間内に更に罪を犯した禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。

二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。

三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。

■執行猶予の裁量的取消し(選択)

26条の2では次に掲げる場合においては、刑の執行猶予の言渡しを取り消すことができると規定しています。

一 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。

二 保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。

三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その執行を猶予されたことが発覚したとき。

 

■他の刑の執行猶予の取消し

26条の3では前2条の規定により禁錮以上の刑の執行猶予の言渡しを取り消したときは、執行猶予中の他の禁錮以上の刑についても、その猶予の言渡しを取り消さなければならないと規定しています。

 

 

執行猶予のメリット

今回のように、執行猶予が付いた場合のメリットとはどのようなものでしょうか?見てみましょう。

 

(1) 執行猶予が付けば刑務所に行かなくて済む

実刑判決が下されると刑務所へ連れていかれますが、執行猶予付判決であれば、その場で釈放されます。

 

(2) 執行猶予になれば身柄事件でも釈放される

執行猶予付判決が下されれば、すぐに釈放されて、その日のうちに自宅に戻ることができ、その日から元の日常生活が取り戻せます。通勤・通学、結婚、引越し、海外旅行(渡航先によっては条件に注意)も自由に行うことができます。

また、会社勤めの人が今回の事件でいったん退職していたとしても、執行猶予になればすぐに再就職活動をすることができますし、履歴書に長期の空白ができないことも大きなメリットになります。

 

 (3) 執行猶予になれば取締役を続けられる

有罪判決を受けたとしても、執行猶予付判決を得られれば、法律上、取締役を継続することができます。(会社法331条)

 

執行猶予中の再犯発生時の再度執行猶予

執行猶予期間中の犯罪については、一般的に実刑判決になると言われていますが、例外的に再度執行猶予が付される場合があります。

1年以下の懲役又は禁錮の言い渡しを受け

情状に特に酌量すべきものがあり

保護観察の期間でない

という3点を満たす場合、執行猶予中に犯した罪について執行猶予判決を得ることができます。

たとえ執行猶予期間中に犯罪をしてしまった場合でも、すぐにあきらめず、執行猶予判決の獲得を得意とする弁護士法人にご相談してみてください。

 

執行猶予が付いたからといって、罪が軽くなったわけではありません。軽くなったのは刑罰であって、罪自体には軽い重いはありません。

 

前歴・前科について

■前歴とは

前歴というのは、書類送検を受けた、逮捕された、勾留された、微罪処分となった、不起訴となったなど捜査機関により犯罪の被疑者として検挙された事実のことを言います。

前歴がついたからと言って特段、なにか法的に不都合が生じるわけではありません。

ただ、もう一度罪を犯した時などには、検察官や裁判官による量刑の判断に対して影響を与える可能性はあります。

 

■前科とは

1、有罪判決を受けると検察庁の管理する前科調書に名前が記載されます。

検察庁には犯歴担当事務官という職員がいますが、有罪が確定したときには、既決犯罪通知書というものを作成します。作成された既決犯罪通知書は地方検察庁に集約され、パソコンでデータの記録や保管がされます。これら記録されたデータは記録された人が死亡するまで残り続けます。

 

2、上記のうち、時間の経過により刑の言い渡しの効力が法律上消滅したものを除いたもの。

刑法27条では刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失うと規定しています。

〇執行猶予期間中、きちんとおとなしくしたまま期間満了を迎えた者。

〇刑務所出所から10年間、罰金以上の罪に問われなかった者。

〇罰金以下の刑に処されてから5年間、罰金以上の罪に問われなかった者。

などについて、刑の言い渡しの効力が消えます。

「刑の言い渡しの効力が失われる」というのは、あくまで法的効果が消滅するという意味であり、刑が言い渡されたという事実そのものまでもがなくなるというわけではありません。

 

3、さらに拘留、科料等の軽微な罰を除いたもので、市区町村の管理する「犯罪人名簿」に名前が記載されているもの。

作成された「既決犯罪通知書」の中でも、罰金以上(道交法関連の違反は禁固以上)の刑に処されたものについては、その者が戸籍を置く市区町村にも送付されます。送付されてきた既決犯罪通知書をもとに、各市区町村は「犯罪人名簿」を作成します。

公職選挙法上、過去に罪を犯した一定の者は、選挙権や被選挙権を有さないとされている

弁護士や公務員、医師などについて、過去に一定の罪を犯しているという事実を欠格事由とし、免許を与えない要件としている場合があるためです。

行政上、こういった手続きについて円滑に進めるために犯罪人名簿は必要とされています。

なお、刑の言渡しの効力の消滅に合わせて、犯罪人名簿からも名前の記載が削除されるようです。

 

4、懲役刑や禁固刑等を受けて刑務所に入ったことがある者。

 

前科は戸籍に残りません。また、犯罪人名簿や、検察庁の犯歴のデータベースも一般に公開されることはありません。

 

 

就職の際に「賞罰欄」のある履歴書に前科を記載する必要性は?

就職の際、「賞罰欄」のある履歴書には、前科を記載する必要があるのか?判例を見てみましょう。
 

■仙台地裁 昭和60919日 事件番号 昭和55年(ワ)第378

履歴書の賞罰欄にいう「罰」とは一般に確定した有罪判決(いわゆる「前科」)を意味すると判示しています。

履歴書に学歴、職歴、犯罪歴等を書くように言われたら正直に書かなければなりませんし、

「賞罰」に関する記載欄がある場合は、自分の前科を正確に記載しなければなりません。

しかし、履歴書の賞罰欄にいう「罰」とは確定した有罪判決(いわゆる「前科」)を意味し、前歴は含まれないということになるようです。

 

本地裁の判示するところでは、刑の消滅制度は前科を受けたという事実そのものを消滅させるものではないが、労働者は使用者に対し既に刑の消滅をきたしている前科まで告知すべき信義則上の義務を負担するものではないと解するのを相当としています。

従って、刑の言い渡しの効力が消滅している場合は、よほど特別な事情がない限りわざわざ賞罰欄に前科を書く必要はないし、前歴についても書く必要はない。としています。

 

すでに既述したように、実刑判決を受けると相当期間身体を拘束されますが、執行猶予付きならば、一般社会生活を送ることができます。その差は天国と地獄となります。

万が一、事件に遭われた場合は執行猶予付きの事例を多く持ち合わせる弁護士にご依頼されることを願っております。