即応自衛官の招集実績

 2011年(平成23年)311日、東日本大地震が発生し、この震災に対処するため同年316日の閣議決定で即応予備自衛官に対する災害招集命令が発令されました。この招集命令は1998年(平成10年)の本制度創設以来初のこととなりました。

また、2016年(平成28年)416日に発生した熊本地震では、翌17日には閣議を経て災害招集命令が発令されました。(派遣実数162人)

更には2018年(平成30年)7月広島県を中心とした豪雨に対し、711日の閣議決定をもって災害招集命令が発令され(派遣実数311人)、同年96日に発生した北海道胆振東部地震では、97日の閣議決定をもって災害招集命令が発令されました。(派遣実数255人)

 

 このように、当該地域や自治体の保有する防災・災害救助の能力では十分な対応が出来ない、大規模震災時に活動してくださる自衛隊の皆様の活躍には頭が下がる思いです。

 

 文中に即応予備自衛官とか災害招集命令とかの文字が出ていますが、私たちが知っている自衛隊の自衛官とはどう違うのでしょうか?またどのような役割を担っているのでしょうか見ていきましょう。

 

 

自衛官とは

そもそも、自衛官とは自衛隊の任務を行う特別職国家公務員で、 自衛隊員の中で16の階級と制服が指定され、志願制のため全員が武装して戦闘に従事する武官のことを言います。

 

 自衛官という言葉は、狭義には常勤の自衛官のみを指しますが、広義では非常勤の自衛官である予備自衛官、即応予備自衛官、予備自衛官補を含みます。

 

自衛隊法に規定する任務とは

 自衛隊法第3条(自衛隊の任務)では自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。

同条2項では、自衛隊は、主たる任務の遂行に支障を生じない限度において、かつ、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において活動を行うことを任務とする。と規定しています。

 

このように、自衛隊の主任務は自衛隊法第3条第1項に規定されている「外国の侵略からの国土防衛」であり、災害派遣は同法第3条第2項の主たる任務に支障ない範囲で行われる、従たる任務にあたります。

 

従たる任務の災害派遣(略称:災派)とは(自衛隊法第38条)

 災害派遣とは、当該地域や自治体の保有する防災・災害救助の能力では十分な対応が出来ない地震や台風等の自然災害や、死傷者の発生が伴う事故などといった各種災害の発生に際し、陸海空の自衛隊部隊を派遣し、救助活動や予防活動などの救援活動を行うことです。

 

■自衛隊法第83条(災害派遣)

  自衛隊法第83条では、都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができ、事態やむを得ないと認める場合には、部隊等を救援のため派遣することができる。
 ただし、天災地変その他の災害に際し、その事態に照らし特に緊急を要し、前項の要請を待ついとまがないと認められるときは、同項の要請を待たないで、部隊等を派遣することができる。
と規定し、その場に警察官がいない場合に限り、警察官職務執行法が準用され、私有地への立ち入りや建築物・車両等の除去など私権を合理的な範囲で制限する権限が認められています。

 

■自衛官の定員(条文は自衛隊法)

 平成29年版防衛白書による、2017331日現在の法令上の定員は

〇常勤

陸海空の自衛官定員 247,154人(常備自衛官)

 定員247,154に対し現員224,422人(90.8%)となっています。(平成29年版防衛白書より)

 

〇非常勤

予備自衛官定員     47,900(防衛省の職員の定員外・法第662項)

即応予備自衛官定員    8,075(防衛省の職員の定員外)第75条の二、2

予備自衛官補定員     4,621人(防衛省の職員の定員外)

となっています。

 

■自衛官の階級と停年

自衛隊法第32条では陸上自衛隊の自衛官の階級と停年は、陸将(60歳)、陸将補(60)、一等陸佐(56)、二等陸佐(55)、三等陸佐(55)、一等陸尉(54)、二等陸尉(54)、三等陸尉(54)、准陸尉(54)、陸曹長(54)、一等陸曹(54)、二等陸曹(53)、三等陸曹(53)、陸士長(任期制)、一等陸士(任期制)及び二等陸士(任期制)となります。

 

尚、医師、歯科医師および薬剤師である自衛官ならびに音楽、警務、情報総合分析、画像処理・通信情報の職務にたずさわる自衛官の定年は60歳。

「注:()内は停年年齢、海上自衛隊は陸を海に、航空自衛隊は陸を空に変えて読んでください。また、32条の条文上では年齢の記載はありません」

 

自衛官、即応予備自衛官、予備自衛官、予備自衛官補制度の比較

「自衛官とは」の項で、広義では非常勤の自衛官である予備自衛官、即応予備自衛官、予備自衛官補を含みます。と述べました。ここでは、4種の自衛官についてみてみましょう。

 

 

 

陸上自衛隊部内広報誌ARMYより引用

 

■予備自衛官補

陸上自衛隊及び海上自衛隊において採用している官職で、非常勤の特別職国家公務員となります。教育訓練の際は召集され、陸上自衛隊における各任務に就くこととなります。

採用等については自衛官未経験者(自衛官として勤務期間が1年未満の者を含む)の一般国民の志願に基づき試験又は選考(技能)により採用されますが、予備自衛官補応募対象年齢は一般では18歳以上34歳未満の者、技能では18歳以上で国家免許資格等を有する者(資格により53歳未満〜55歳未満の者)となります。

予備自衛官補としての任用期間は採用の日から教育訓練修了まで、一般は3年以内、技能は2年以内。

訓練招集は任用期間の一般3年以内で50日、技能は同2年以内で10日の教育訓練を受ける必要があります。訓練招集命令を受けた予備自衛官は、指定の日時に、指定の場所に出頭して、訓練招集に応じなければなりませんが、招集期間は、一年を通じて20日をこえないものとする規定があります。

手当ては教育訓練招集手当として日額7,900円が支払われます。教育訓練中は予備自衛官補として、教育訓練終了後は予備自衛官となります。

 

■予備自衛官

陸海空の自衛官として勤務期間が1年以上の者、また教育訓練を終了した予備自衛官補の志願に基づき選考により採用された非常勤の特別職国家公務員。

防衛招集命令、国民保護等招集命令、災害招集命令、訓練命令を受けて自衛官となって駐屯地警備、後方地域の任務に就きます。

任用期間は任用の日から起算して3年。任期満了時、志願により引き続き3年を任用期間として任用可能。(31任期制)

訓練招集は1年を通じて5日を超えない期間の訓練に従事(ただし自衛官を退職後1年未満で出身自衛隊に採用された者の初年は1日)。

予備自衛官手当は月額4,000円、訓練招集手当は日額8,100円となっています。

 

陸上自衛隊部内広報誌ARMYより引用

 

■即応予備自衛官

即応予備自衛官は1997年(平成9年)に創設され、陸上自衛隊において即応性の高い予備要員として任用している官職及び制度で、海上・航空自衛隊には同制度は存在していません。

陸上自衛隊退職者の志願者からなり、予備自衛官よりも高い錬度が期待され、有事・訓練等の際に招集されて、陸上自衛隊における第一線部隊として各任務に就けられます。

 

即応予備自衛官は、非常勤の特別職国家公務員として、普段はそれぞれの職業に従事しながら、 訓練招集命令により出頭し、即応予備自衛官として必要とされる知識・技能を最底限確保するため、年間30日間の訓練に応じています。

陸上自衛隊を退職していますので、職についている方が多くなります。一時期、自衛官との兼職となりますので、即応予備自衛官を雇用する企業には1人につき月額42,00円が給付されています。

 

〇即応予備自衛官の任務

即応予備自衛官の任務は、防衛招集命令、治安招集命令、災害等招集命令、国民保護等招集命令、訓練命令により招集された場合、出頭した日をもって自衛官となり、あらかじめ指定された陸上自衛隊の部隊において勤務し、その職務を遂行することとされています。

 

〇任用対象者

即応予備自衛官の任用対象者は自衛官として1年以上勤務し、退職後1年未満の元陸上自衛官または陸上自衛隊の予備自衛官(予備自衛官補出身の予備自衛官を除く)のうち、以下の年齢条件を満たす者としています。

1等陸士・陸士長:32歳未満

3等陸曹以上:自衛隊法施行令別表第九に定める年齢から3年を減じた年齢に満たないもの

〇即応予備自衛官で任用される際には現職のときの職種以外で採用も可能である。

 

〇任用期間

任用の日から起算して3年。任期満了時、志願により引き続き3年を任用期間として任用可。(31任期)

 

〇手当

即応予備自衛官手当:月額16,000

○訓練招集手当:指定階級に応じて日額14,20010,400

○勤続報奨金:1任期120,000円(良好な成績で勤務した場合)

 

〇宣誓書に署名捺印

自衛隊法第53条(服務の宣誓)では、隊員は防衛省令で定めるところにより、服務の宣誓をしなければならない。と規定されています。

即応予備自衛官に任じられる時は、自衛隊法第53条及び自衛隊法施行規則第41条の2に則り、以下のような宣誓書に署名捺印をする事が義務付けられています。

 

「私は、即応予備自衛官の責務を自覚し、常に徳操を養い、心身を鍛え、訓練招集に応じては専心訓練に励み、防衛招集、国民保護等招集、治安招集及び災害等招集に応じては自衛官としての責務を完遂に努めることを誓います。」

 

■防衛招集、国民保護等招集、治安招集及び災害等招集(自衛隊法第75条の4)

 防衛大臣は、次の各号に掲げる場合において、必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、即応予備自衛官に対し、当該各号に定める招集命令書による招集命令を発することができる。と規定しており、その招集命令は防衛招集命令書による防衛招集命令(1号)、国民保護等招集命令書による国民保護等招集命令(2号)、治安招集命令書による治安招集命令(3号)、災害等招集命令書による災害等招集命令(4号)となります。

 

また、防衛大臣は当該自衛官が防衛出動を命ぜられている場合にあっては1年以内の期間を限り、防衛出動以外の場合にあっては6月以内の期間を限り、当該自衛官が定年に達した後も引き続いて自衛官として勤務させることができます。

当該自衛官が定年に達した日の翌々日から起算して3年を超えることができません。

 

■自衛隊法の罰則

予備自衛官、即応予備自衛官については下記のような罰則があります。

〇3年以下の懲役又は禁錮

119条 四 防衛招集命令を受けた予備自衛官又は防衛招集命令若しくは治安招集命令を受けた即応予備自衛官で、正当な理由がなくて指定された日から三日を過ぎてなお指定された場所に出頭しないもの。

五 出動待機命令を受けた者で、正当な理由がなくて職務の場所を離れ7日を過ぎたもの又は職務の場所につくように命ぜられた日から正当な理由がなくて7日を過ぎてなお職務の場所につかないもの。

 

〇5年以下の懲役又は禁錮

120条 治安出動命令を受けた者で、正当な理由がなくて職務の場所を離れ3日を過ぎた者又は職務の場所につくように命ぜられた日から正当な理由がなくて3日を過ぎてなお職務の場所につかない者。

 

〇7年以下の懲役又は禁錮

122条 防衛出動命令を受けた者で、正当な理由がなくて職務の場所を離れ3日を過ぎた者又は職務の場所につくように命ぜられた日から正当な理由がなくて3日を過ぎてなお職務の場所につかない者。は7年以下の懲役又は禁錮に処する。

 

自衛官への道

1、中学卒業からの道

17歳未満の男子の場合は「高等工科学校生徒」に応募し、合格すると3年間「一般教育」を受けながら、自衛隊専門的な技術の教育を行う「専門教育」や各種訓練を行う「防衛基礎学」の授業を受けることができます。

 

2、高校卒業からの道

高校を卒業してすぐに自衛隊に入りたい場合、3か月の訓練期間を経て自衛官になれる「自衛官候補生」制度があります。

 

3、一般幹部候補生としての道

(一般)22歳以上26歳未満の者(20歳以上22歳未満の者は大卒、修士課程修了者等は28歳未満)

(歯科・薬剤)専門の大卒20歳以上30歳未満の者で、薬剤は20歳以上28歳未満の者

 

4、医科・歯科幹部としての道

医師・歯科医師の免許取得者

 

5、技術海上・技術航空幹部としての道

大卒38歳の者(応募資格に定められた学部の指定する専攻学科を卒業後、2年以上の業務経験のある人)

 

6、陸上自衛官(看護)としての道

看護師免許を有し、保険師・助産師免許を有する者(見込含)で36歳未満。

 

7、技術海曹としての道

20歳以上の者で国家免許取得者等

 

8、一般曹候補生としての道

18歳以上27歳未満の者

 

9、防衛大学校学生としての道

高卒(見込含)21歳未満の者

 

10、防衛医科大学校医学科学生としての道

高卒(見込含)21歳未満の者

 

11、防衛医科大学校看護学科学生(自衛官コース)としての道

高卒(見込含)21歳未満の者

 

12、賃費学生としての道

大学の理学部、工学部の34年次又は大学院(専門職大学院を除く)修士課程在学(正規の修業年限を終わる年の41日現在で26歳未満の者(大学院修士課程在学者は28歳未満)

など、自衛官への道は門戸が広いようです。

 

あなた、またはご子息・ご令嬢、お孫さん自衛隊員としての道を選択されてみては如何でしょうか?