国内外の離婚率
日本の特殊離婚率(年間離婚届出件数÷年間の婚姻届出件数×100)による計算では、俗に3組に1組が離婚する時代だといわれ、2017年(平成29年)度は212,262人÷606.866人で34.9%でした。
また、厚生労働省の2017年「我が国の人口動態」によると、(年間離婚届出件数)÷(当該都道府県の人口)×1,000に基づく離婚率(千人当たりの人数)は多い順に、1位沖縄県2.53パーミル(‰)、2位宮崎県2.10、3位北海道2.09、4位 大阪府2.08、5位 福岡県1.99となっていました。
因みに世界の離婚率(千人当たり)はロシア4.50パーミルを筆頭に、アメリカ合衆国2.81、スウェーデン2.70、韓国2.14、オランダ2.10、イギリス2.05、ドイツ2.05、フランス1.91、シンガポール1.82と続き、日本1.81は10位でした。
最も多い離婚原因トップ10
愛し合って一緒になったものの、別離を迎える夫婦が後を絶ちません。破綻・別離の離婚理由は次のような事柄だそうです。
1位 性格の不一致
2位 子供を大切にしてくれない
3位 夫や妻の浮気
4位 夫や妻の実家との折り合いが悪い
5位 モラハラをしてくる
6位 夫や妻に浪費癖がある
7位 相手からの暴力が原因
8位 相手が家庭での役割を果たさない
9位 自分の親との同居を拒否された
10位 相手から思いやりを感じない
日本の判例
さて、夫妻が前述したような理由から離婚したが、生命保険の受取人の名前を変更しないまま夫が死亡した場合、受取人に指定されたままの元妻に保険金が支払われるのか?
判例ではどのようになっているのか見てみましょう。
■大分地裁判決(昭和56年2月17日)
保険金の受取人を妻Aと指定しているのは保険事故時(夫の死亡)にあっても妻Aのままであることが夫の意思であり、保険料負担者である夫の愛情、信頼に基づく要素が大きい。
従って、離婚し、他人になった元妻Aには保険金の受取人の地位を与えたものではないとした。
■福岡高裁判決(昭和56年9月9日)ならびに最高裁判決(昭和58年9月8日)
保険契約の長期性、大量事務処理性からくる定型的取引の実態を重く見て、何の障害もなく変更できたにもかかわらず、夫が受取人の指定変更をしなかったのだから、保険金受取人は元妻Aにあるとした。
保険会社の元妻に対する寛大さ
本来なら、離婚してしまうと配偶者はもはや親族ではなく、完全に第三者となります。
ニッセイ(日本生命)ホームページを見ると、「原則、死亡保険金の受取人は、配偶者および2親等以内の血族(祖父母、父母、兄弟姉妹、子、孫など)の範囲で指定ください。上記以外の方を死亡保険金の受取人に指定する場合は、個別に理由等を確認します。
また、死亡保険金受取人を変更するときは、被保険者様の同意が必要です。」
「変更する場合は、ニッセイコールセンター、お客様窓口、または当社職員に連絡ください。」
とあり、従って、保険金詐欺等を防止するためにも、第三者が受取人になることには厳しくなっています。
しかしながら、保険会社は離婚した後だけは、第三者となった元妻が受取人になることに寛大です。
保険会社は基本的に受取人に指定されている人に保険金を支払うため、離婚後も受取人が元妻のままになっている場合、その保険金を受け取る権利は元妻にあるとしています。
本来は、離婚した時点で、受取人は自分か親などに変更しておき、再婚したら後妻に変更するのが一般的です。もし、子どもを引き取った場合には、子どもを受取人にしても良いでしょう。離婚したら、保険の受取人の変更に留意すべきです。
元妻が受取人のままとなっている生命保険契約の課題
■元妻が受取人の契約は「生命保険料控除」に該当しない。
生命保険料控除の対象となる生命保険契約とは、その保険金の受取人のすべてが、自己又は自己の配偶者その他の親族であることが要件となっています。
事例
① 妻を生命保険金の受取人とし、保険料を支払った。
② 本年6月に妻と離婚した。
③ 本年11月に保険金の受取人を離婚した妻から子に変更した。
1年間支払った生命保険料は生命保険料控除の対象になるのか。
所得税法第76条1項では「新生命保険料」、「旧生命保険料」、「介護医療保険料」、「新個人年金保険料」又は同項に規定する「旧個人年金保険料」に該当するかどうかは、保険料又は掛金を支払った時の現況により判定する。と規定しています。
従って、この事例では、5月までの保険金等の受取人は戸籍上の妻であり、11月以降は実子となったので、1月から5月まで並びに11月から12月の分が生命保険料控除の対象となります。
なお、6月から10月までの6か月分の保険料は、保険金等の受取人が離婚した妻となることから生命保険料控除の対象となりません。
血族、姻族、親族とは
【血族】
血がつながっている人のこと。
〇自然血族 実祖父母、実父母、実の兄弟姉妹(異母兄弟、異父兄弟姉妹でも血はつながっています)、実子、実孫など。
〇法定血族 養子縁組をすると法的な親子関係が発生する養父母や養子など。
【姻族】
結婚した場合の、配偶者(夫)の父母兄弟いわゆる「義父母」「義兄弟」を指します。
従って、未婚の人に姻族はいません。
また、この姻族関係は,あくまで配偶者双方の問題で、妻の父母と夫の父母,妻の祖父母と夫の祖父母同士が姻族となるというわけではありません。
【親族】
6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族
■夫死亡後の元妻が保険金を請求する際の煩雑さ
元妻が保険金を請求する際には保険会社に以下の書類を提出して保険金を請求します。保険会社や保険金額等によって必要書類は変わってきますので注意が必要です。
① 保険会社所定の死亡保険金請求書
② 受取人である元妻の身分証明書(免許証やパスポートなど公的書類のコピー等)
③ 保険証券
④ 死亡診断書または死体検案書
⑤ 住民票または戸籍謄本(被保険者の死亡の事実の記載があるもの)
⑥ 災害死亡の場合、事故を証明する書類
現実的に、元妻が元夫の遺族から③~⑥などを入手するのはなかなか難しいところがあります。
■生命保険金の非課税枠の適用が無い(500万円×法定相続人の数=非課税限度額)
たとえば夫婦、子供2人の4人家庭で夫が亡くなった場合には500万円×3(妻・子2人)=1,500万円までは相続税がかかりません。しかし、離婚した元妻は相続人では無いのでこの適用はありません。子供が受取人であれば適用されます。
■元妻の相続税は2割増しとなる
保険の対象となっている人(被保険者)
保険料を支払う人・負担者(契約者)
保険金を受け取る人(保険金の受取人)
A=夫、B=妻、C=子または夫婦以外
契約者と被保険者が同一で、死亡保険金受取人が個人であるAABの場合、受取人が法定相続人であるかどうかを問わず「相続税」の対象となります。
相続税に係る基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人数」です。
基礎控除額は、被相続人の財産に対して適用されますので、相続財産の額が当該基礎控除額の範囲内であれば、元妻が保険金を受け取っても相続税は課されません。
相続、遺贈や贈与によって財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族(代襲相続人の孫を含みます)及び配偶者以外の人である場合には、その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算されます。ただし、子供を受取人にすれば相続税の2割増しはありません。
元妻は「1親等の血族および配偶者」ではないので、上記の基礎控除額を超えた場合などは、算出した相続税額に2割加算した相続税を納付することになります。
■元妻が保険金を受取る場合、元夫の遺族の感情に問題は無いのか?
元妻と夫側の遺族との間で紛争が起きる可能性はとても高くなります。
保険受取人の変更
1、前掲AABのように、自分自身の保険を自分が契約して、万が一の時の保険金の受取人が家族、という契約の形が一般的ですが、自分で自分に掛けている保険なので、保険金の受取人を別の人に変更する場合、自分だけで変更の手続きができ、今の受取人の同意を得たりする必要はありません。
受取人の変更には、本人を証明する公的身分証明書、保険証書そして保険に加入した際に使用した印鑑などが必要となりますが、簡単に受取人の変更はできます。
2、離婚した相手に『手続きを知られてしまうのでは?』という心配をすることなく、受取人を自分の子供や親などに変更することができます。そして受取人を変更する手続きはいつでもできますし、一度変更したとしても、後から再度手続きすることは可能です。
3、保険会社から受取人に『受取人が変更になる』という連絡が入ることもありません。
4、生命保険の受取人となることができるのは、配偶者か2親等以内の血族(祖父母・父母・・子・孫・兄弟姉妹)となっています。
2親等以外の受取人を指定する場合
保険会社では「なぜ、2親等以内ではない人が保険金の受取人になるのか?」その明確な理由が必要となります。同時にその受取人になる方の同意が必要となります。
しかし、年々、生命保険の受取人には下記のように審査が厳しくなっています。
① お互いに戸籍上の配偶者がいないこと。それぞれの戸籍謄本が必要です。
② 保険会社が定める期間同居して、生計を共にしているという事実があること。それぞれの住民票、それぞれの収入証明が必要。
保険金受領の拒否と時効
元妻は、保険会社に連絡して保険金の受領を拒否することは可能です。
ただし、自分が受取を拒否して、代わりに誰か他の人に受取を変える、ということはできません。保険金の受け取りを拒否しても、保険会社が代わりに誰か、受け取る人を探すということはしません。
保険法(平成20年6月6日法律第56号) 第95条(消滅時効)では
保険給付を請求する権利、保険料の返還を請求する権利及び第63条又は第92条に規定する保険料積立金の払戻しを請求する権利は、3年間行わないときは、時効によって消滅する。
2.
保険料を請求する権利は、1年間行わないときは、時効によって消滅する。
と規定しており、このように、3年たつと時効になり、保険給付を請求する権利は消滅します。
保険金の受取人をはっきりさせるための手段はあるのか
■遺言状の作成
保険金の受取人はあらかじめ2親等以内の親族にしておき、その後正式な遺言状を作成し「保険金の受取人を○○とする」旨を記載しておくことで、保険金の受け取りは保険契約上の受取人ではなく遺言状にて指定された受取人が優先されることとなります。
この場合の遺言状は確実に法的な効力を持つものでなくてはいけないため、正しい書面・手続きを踏んで作成する必要があります。
■養子縁組
養子縁組によって二親等以内となれば簡単に受取人となることができますし、それ以外の財産相続も優位になります。
■とりあえず入籍
実際に配偶者になってしまう。
相続税については、正式な妻となっている場合で、相続税の申告期限までに遺産分割(協議)が確定している場合には1億6千万円又は法定相続分の半分まで相続税を非課税とする制度があります。
また、生命保険金は法定相続人であれば相続税が軽減される税控除を受けることができますが、内縁の妻は相続人とならないためこちらも優遇を受けられません。
支払いが残っている財産の留意点
■終身保険
一般的には終身保険を解約し、解約返戻金を元に財産分与をすることになります。調停離婚では、この解約返戻金を半分に分けるというのが基本的な考え方のようです。
■学資保険
子どもの教育費をまかなうために積み立てた「学資保険」の場合は、離婚の際に揉めることが多いので注意が必要です。
なぜなら、子どもの学資保険は満期まで支払わないと元本割れをしてしまうケースが多く、離婚をしても解約せずに持ち続けることが多いためです。
子どもを引き取った母親が保険金の支払いを担ってしまった場合、引き取り手側に十分な収入があるか、あるいは実家の援助を受けられるなら問題はないでしょうが、わずかな慰謝料と養育費だけで生活をするのであれば、子どもの学資保険の支払いは完全にキャパシティを超え、非常に厳しい状況に置かれます。
このような場合には、満期を待たずに解約し、解約返戻金で別の支払い可能な保険に入るというのもひとつの選択肢となります。
このような、生命保険や学資保険・住宅ローン・車の保険のように「支払いが残っている財産」については、「誰が支払うのか」を明確にしておくことが大切となります。
保険金受取人を変更しておかなければ、離婚後にあなたが亡くなった場合、あなたが再婚しているいないにかかわらず、死亡保険金を受け取る権利があるのは元配偶者・元妻ということになってしまいます。
受取人の変更と合わせて保険証書の再発行の手続きもするようにしましょう。