「こちらの書類に目を通して頂いて、わからない事はどんな事でも質問して下さい。」
「はい」
俺は念願の弁護士になって日々忙しく仕事をしている。
まだまだ経験がないので先輩の力を借りながらだけど小さな案件を担当している。小さいといっても依頼者様にとっては大きな事。誠心誠意向き合ってるつもりでいる。
ここはファミレス
今日の依頼者は離婚をすべきかどうかお悩みの方。
このファミレス
以前、翔さんが暮らしていたマンションの近く。
よく2人で買い物したスーパーの跡地に出来ていた。
翔さんがいなくなってからも、俺はよくこの場所に来ていた。
翔さんと買い物して散歩した道。よく寄り道した公園。
絶対に翔さんが現れない事もわかってる。
でも翔さんを感じられる場所についつい来ちゃう。
1人なのにベンチでアイスを食べる事もある。
食べながら、心の中の隣りにいる翔さんに最近あった出来事、仕事の悩み、翔さんへの変わらぬ想いを話している。
依頼者が書類に目を通してる間にコーヒーを1口飲む。
スーッと俺の横を通り過ぎ、斜め前のボックス席に背を向けて座った男性。
あの後ろ姿、肩のなで具合、歩き方、俺の脳に焼き付いてる。
咄嗟に見つからない様にボックス席の奥に身体を隠した。
身を隠しながらも斜め前の様子を探る。
彼はドリンクバーから飲み物を持ってきて俺に背を向けて座り、そしPCを立ち上げた。
2つのアイスの写真が見えた。
初めて行ったカフェで俺が買った梨と桃のアイス
見つけた!!!
声と涙が出そうになるのを必死で我慢する。
「これでいいですか?」
「あ、はい、大丈夫です」
声も小さくした。
心の中で、帰らないでと念じながら依頼者との面談をなんとかこなした。
「では次の日程が決まりましたらご連絡させて頂きます」
「よろしくお願いします」
俺は横を通らないように遠回りをしてファミレスを出た。