はぁ、緊張する。
マスターに閉店後に挨拶させて貰えるように潤に頼んだ。
.........
こういう時はやっぱりスーツで行った方がいいんだろうか?
あんまりかしこまるのも変かな?
でも、やっぱり少しでも良く見られたい。
店に着く頃、潤に連絡した。
直ぐにドアが開いて潤の姿が見えた。
「翔さーん!」
俺に気がついて手を振ってる。
はぁ
俺は緊張MAXだよ。
「仕事、お疲れ様」
「翔さんも。」
挨拶した潤が俺を見る。頭の先から足の先まで視線が動いた。
やっぱり気張り過ぎたかな.........。
「翔さん、素敵!今日の翔さん、特別かっこいい♡」
「そ、そう?」
「うん。スーツが素敵♡
智にはちゃんと話したから!入って、入って!」
「待って!深呼吸させて」
スゥ~、ハァ~、スゥ~、ハァ~
「ふふっ、翔さん、緊張し過ぎ!別に結婚の挨拶でもないんだから。」
と笑うけどよ.........。
2人で店に入る。
4人掛けのテーブルには既にマスターが座っていて、カウンターの中では女性がコーヒーを入れていた。
「マスター、お疲れ様です。お疲れの所、時間を頂きありがとうございます。」
「おう」
「どうぞ」
と、女性がコーヒーをテーブルに置いた。
バイトの人かな?と思ったけど
「初めまして!義伯母の瑠美奈です。お噂はかねがね!」と挨拶された。
どんな噂だよ。潤はこの夫婦に俺の事何話してたんだ?(笑)
「翔さん、座ろう!」
「う、うん」
いや、もう、これは俗に言う、お嬢さんを僕に下さい状態じゃないか!
まぁ、ある意味、間違えてはないけど。
震えないよう、腹に力をいれて声を出す。
「マスター、潤くんと.........、お付き合いする事を許して下さい。」
と、頭を下げる。
マスターは目の前のコーヒーを1口飲んで(るであろう)「うん、今日のコーヒーは何だか美味いな。瑠美奈も随分上達したな」と言った。
.........、え?無視?
この下げた頭、上げていいものかどうなのか。
「ホント?嬉しい!」
奥さんまで俺を無視?
「ま、俺に比べりゃまだまだだけどな」
「智さんのマネしてるんだけどなぁ」
なんて話してる。
「.........智!(怒)翔さん、頭あげて?」
と、潤が助け舟を出してくれて頭を上げた。
目の前のマスターの顔は無表情で何だか怖い。
「.........。」
しばらくの沈黙
「櫻井さん」
「は、はい」
「潤は素直ないい子です。絶対に幸せにしてくれますか?」
「も、勿論です!全身全霊をかけて」
一回り以上のオッサンが甥っ子と付き合わせてくれてって言うんだ、不安だろう。同性だと言うだけでも99.9%反対されるのに。
このご夫婦には俺と会って話を聞いてくれたというだけでも感謝しなければならない。
でもちょっと大袈裟?
沈黙が続く。
話を聞いてくれただけでやっぱり付き合いには反対なんだろう.........。
「智!」と潤が少し怒ったようにマスターに声を掛けた。
少ししてマスター夫妻が顔を見合って笑った。
「どうだ?少しは花嫁の父みたいだった?」と、顔をクシャッとさせてこちらを見た。
「もぉ、智さん!似合ってない!」と奥さん。
いやいや、貴方もグルですよね?!
「ごめん、ごめん!櫻井さん。1回やってみたかったんだよね」
「やめてよ!翔さん、困ってたじゃん、ごめんね。この夫婦、悪ノリする時めっちゃ一致団結するんだ。」
「そ、そうなんだ」
はぁ.........。何だかなぁ。
「ま、素直ないい子ってのはホントだから。よろしくお願いします。」と深々と2人に頭を下げられ、俺も「こちらこそ」と下げた。
「今度、うちに2人でいらして!4人でご飯食べましょう!」
「ありがとうございます」
「じゃ、後は若いふたりに任せて!」
「ふふふっ」
とマスター夫妻は帰って行った。
改めて頭を下げて見送る。
.........、疲れた。全身から力がどっと抜けた。
「翔さん、ごめんね、びっくりしたよね?」
「うん、脇汗かビッショビョ。でもお許しが出て良かったー」
とテーブルの水を飲んだ
「うんま!」
今まで飲んだ中で1番喉が潤った水だった。
「でもさ、困ってる翔さん見てて俺もちょっと楽しかった!」
潤が楽しかったなら良かったけど。
.........、んな訳ないだろ!!