それからもほぼ毎日の様に『Big Field』に来ている。


あれ以来すっかり常連ぶって奥のマスターとも挨拶を交わすようになった。

まつもとくんも「明日は俺、バイト休みです」なんて教えてくれるもんだから無駄足を踏まずに済んでいる。
勝手に、いない時は来ないでっていうメッセージだと思ってる。
めでたいよな、俺も相当(笑)
だから心配かけまいと、俺も○日から取材旅行だよ、なんて知らせたりして。

メニューの番号も軽く30番は超えた。そろそろ1周する。



明日からまた取材で3日程東京を留守にする。

3日間とはいえまつもとくんに会えないのは寂しい、なんて思いながら『Big Field』に向かって歩いていると

「櫻井~」と呼ばれた。

振り返ると、前の会社の同僚の神崎ふたばだった。

「おー、久しぶり!」

「何年ぶり?元気なの?」

「おー、元気だよ。変わらずだ。」

「会社辞めてから連絡先も変えたでしょ?」

「ふふふ」

「これからどこ行くの?」

「そこのコーヒーショップ」

「へぇー、私も行っていい?」

「別にいいけど、仕事は?」

「今日は直帰。今、取材帰りよ。」

「ふーん」

神崎は今どこの部署?なんて話しながら『Big Field』のドアを開ける。

まつもとくんに片手を挙げて挨拶しながら近づく。

今日は何となく元気が無さそうな感じがした。

「なぁに?常連?」なんて神崎も話しながら注文に行く。

「いらっしゃいませ」

「こんにちは」

「ご注文は何になさいますか?」

とまるで他人行儀だ。知ってるだろ?今日のコーヒーの番号くらい。

「え~っと、今日は○番で」

「かしこまりました。お連れ様は?」

「え~?私?ラテはないのよね。じゃあブレンドAで」

「かしこまりました。こちらでお召し上がりですか?」

は?いやいや、いつもの事だろう?
俺が訝しがってるすきに「はい」と神崎が返事をした。

「かしこまりました。ではこちらの番号札をお持ちになってお好きなお席でお待ち下さい。」

「はーい」

と神崎はスタスタと2人用の席に移動した。



何かおかしい。

俺はまつもとくんの顔を見た。

じーっと俺を見たと思ったら不自然な程の笑顔で一礼された。


昨日とは打って変わってよそよそしい。


打ち解けてきたと思ってるのは俺だけなのか。