それから3日後


「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」

あのお客様が来店された。

「こんにちは」

「いらっしゃいませ」

店のデスクで仕事をしていた翔さんも立ち上がって挨拶した。

そのお客様はびっくりしたらしく、「は、え、あ.........」と顔を赤らめた。

翔さんはそんな事に気付くハズもなく、直ぐに座って仕事に戻った。



「先日はお買い上げありがとうございました」

お母さんが気を利かせて接客に出てくれた。

「凄い沢山買ったので家で並べてみて楽しかったです。」

「そう、良かった。」

「あのー。」

「ん?なぁに?」

「これ」と言って、お母さんに包みを渡している。

「何かしら?」

「この間の布で巾着袋作ったんです!女将さんに貰って欲しくて.........」

「私に?」

「はい、下手くそなんですけど.........」

お母さんが包みを開けると何種類もの布が合わさって出来た巾着袋が出てきた。

「これ、この間の布で?」

「.........はい」

「凄いわね!上手!」

そんな会話が聞こえたのか翔さんが

「何?何貰ったの?」

と2人の話に割って入った。
女性が作ったという巾着袋を手に取って見た。

「へぇー、あんな切れ端がこんなになるんだ!どれ位時間かかるの?」

と翔さんがそのお客様に聞いた。

「は、え、あ、.........そんなにかかりません」と顔を真っ赤にして小声で言った。

そんなお客様の様子など興味ないといった感じで、翔さんが「へぇー、潤、見ろよ!凄いぞ!」と僕に話した。

「そうだね」

「手先の器用な人はいいな!」

「ふふっ、翔さんと僕には到底出来ない事だよね」

「全く(笑)」

そう言ってまた仕事に戻った。

その後ろ姿をウットリと見ている。

お客様!

目から大きなハートがいくつも出てますよ(笑)



「有難く貰っておくけど、もう今回限りにしてね!うちは布を買って頂くだけで感謝なんだから。こんな手の込んだ物、頂く道理はないから。」

「はい」

そして、今日もまた沢山の布切れを買って帰って行った。

「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」

3人で見送る。




「何?母さん、あの人に好かれたの?」

「んー、私ならいいんだけどね.........。」

「?」

翔さんは何言ってんだ?って顔をしていた。



あの人、翔さんの事、本気で好きなのかもしれない。
お母さんにプレゼントを渡すってなかなか思いつかないよね。周りから手懐ける、みたいな。一生懸命さが健気だ。


な~んて、僕も30もいい加減過ぎた今だから、こんなに余裕で見ていられる。
これがあの人と同じ位の年齢だったら、付き合い始めだばっかりだったら、きっと不安に苛まれ、同性という事に引け目を感じて悩み苦しんだんだろうな。




それからも度々来店しては布を買って帰り、流石の翔さんも顔を覚える位になった。
それでもその人は翔さんを見ると顔を赤らめ、翔さんが話しかけると嬉しそうにでも控えめな声で答えている。

お母さんにパッチワークのプレゼントは止めてと言われたからなのか、暇だったから作ったと言ってクッキーやケーキ、チョコレートなんか持ってきたりするようになった。
きっと翔さんに食べて欲しくて家で一生懸命作ってるんだろうな。

「へぇー、こんな物も作れるんだ?料理上手なんだね」

「そんな事.........。下手の横好きで.........。食べてくれる人がいないので持ってきちゃいました。」と言って、また顔を赤らめる。


翔さんは本当にこの人の気持ちに気付いてないのかな?

余りに一生懸命で、可哀想な気がした。