「おー、翔くん!待ってたよ!こっち、こっち!」と手招きをした。
は?え?何で?何で俺の名前知ってるの?
女将が社長の隣に席を作ってくれて、そこに座った。
「あのー」
「翔くんでしょ?俺、『Still』の社長、大野智です。」
そう言って名刺をくれた。
名刺には、株式会社 Green 代表取締役 大野智とあった。
Greenと言ったらその業界では1、2を争う会社じゃないか!
何故そんな人と潤くんが繋がってるのか.........?
頭の中を?マークがグルグル回っている。
「申し遅れました。櫻井翔と申します。」と俺も名刺を渡した。
「山風ったら大企業じゃん!うちも何度か店を使ってもらった事あるわ。」
ほーっという感じで、何度も何度も頷いていた。
「あのー、どうして私の名を?」
「ああ、どこから話そうかな?昨日、うちのホステスから人探しをしてる客が来たって連絡もらってな。その人を見たJの態度もおかしかったって。だからこっそりここを教えたってな。」
「はい。確かに葵さんは独り言の様にここを教えてくれました。」
「Jに関しては、どんな小さな事でも逐一報告するように従業員に言ってるんだ。無理矢理働かせてるからな。だからJの態度がおかしかったって聞いて、あ、翔くんが迎えに来たって思ったのさ。」
迎えに来たってどういう事?無理矢理働かせてるって?
「私の事は松本君からは何とお聞きなんでしょうか?」
「ん~、色々」
色々って.........。潤くんは何てこの人に話したんだろう。
「無理矢理働かせてるって仰いましたけど、どういう事ですか?」
「仕事が決まるまでって条件でさ。あ、無理矢理って言っても潤も納得して働いてるからな。奴隷みたいじゃないぞ。」
「はぁ.........」
全くもって、何もわからない。
納得していない、と俺の顔に書いていたんだろう。
「あのさ、翔くんも色々知りたいのはわかるけど、どこまで話していいか、俺もわかんないんだよね。それにさ、翔くんだって潤から直接話して欲しいだろ?今は俺の家で暮らしてるから心配はいらない。今朝も何か考え込んでたよな?」
「ええ、あまり食欲もないようでした。」
あ?この女将も暮らしてるのか?
いやいやいや、全く頭が着いて行かないぞ。
「今すぐ逢いたいのはわかるけど、ちょっと俺に任せてくれないか?」
何故俺の前から消えたのか、理由が知りたい。それが一番。でも、今またすぐに潤くんに会いに行っても理由は言ってくれないような気がした。
それにきっとこの社長はそれを知ってるんだろう。俺に任せろと言うのは潤くんと会わせてくれる段取りをしてくれるんだと思う。
1年モヤモヤしたんだ。潤くんの居場所も分かったし顔を見られた。今更、慌てても仕方ないと思う。
この社長を信じてみようと思う。
「大丈夫ですよ。さとさんに任せて。信じて下さい。」
俺の気持ちがわかったのか、女将がそう言って微笑んだ。
「わかりました。よろしくお願いします。」
何がどうなってるのか、この店に来る前と大して変わらない状況だけど、潤くんに会える事は確かなようだ。
「しかし、翔くんも大変だね?」と酒を飲みながら言った。
「え?」
「あんな美人さん。素直だけど、クソ真面目でどっか抜けててさ。」
「はぁ.........。」
この社長、一体何をどこまで知ってるんだ?
はやる気持ちを押さえつけるように、グラスのビールを飲み干した。